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 あたしは浅田の口から出てきたことばを疑った。


「本気?」

「まじで」


 ……どういうつもりなの?


「オレとデートしてくれたら、教える。好きなひとも、それが誰かも」


 おっと。

 そうくるのか。


「はっはーん。残念だね、浅田くん」

「え!?」

「いま、自分で答え言っちゃってるじゃん! 好きなひとも、それが誰かもってことは、好きなひと、いるってことじゃん!!」


 どーだ!!


「しまったー!」

「ほーら、うっかりさんな後輩とやらは困ったものだなぁ」

「もー、先輩が目ざといだけですって!!」

「いーや、浅田がだめだめってコトでしょ!」

「もー!」

「あ、教室。じゃ、あたし、こっちだから」

「はーい、じゃ、オレも、二年はこっちだから、行きますね」

「授業中、寝るなよ」

「寝ませんってば! それより、先輩!」

「ん?」

「先輩の残りの一ヶ月は、オレのですからね!!」


 またそれか。


「はいはい。最後までお前をかまってやればいいんでしょ」

「それから! 本気で考えておいてくださいね」


 何を?


「デートのこと!!」


 ……そこにこだわる??



***



 そんなこんなで。

 卒業まで一ヶ月のあたしに、それを口実にして、金魚のフンみたいにくっついてくる年下男子(しかも完全にワンコ)。

 昼休みにも、あたしのそばを離れない……んだけど。


「ねー、先輩」

「なんだよ、もー!」

「久しぶりに先輩とテニスしたいなぁ」


 そんなに甘えてこられても。


「ばかなこと言ってないで、はやくお弁当食べないと授業、間に合わなくなるよ?」

「もー、先輩のイジワル」

「あたしがほんとにイジワルなら、あんたと飯なんて食べないんだからね~」

「そ、それは、困るっ!!」

「よーし、いいぞ、いいぞ、困れ困れ~」


 屋上。

 何故かこの日はあたしたち以外に誰もいなくて。

 時折ふいてくる風が妙に温かくて。


「オレ、本当に困っちゃうよ?」


 だから、その時はほんの少しだけ、切なく思ってしまった。


「は?」


 ドキンと胸が鳴ったのを、隠して。

 隣に座る浅田があたしのこと、やけに真剣に見つめてくるから、だ。


「だって、オレ、先輩のこと……」

「あー! はいはい、知ってるからね!! 憧れの先輩なんでしょ!!」


 急にドキドキしだした胸を抑えて、
 あたしは声を上げた。

 浅田はちょっと困ったような顔をして。

 それから。


「そーなんですっ」

 と、言って笑った。


「大好きな先輩に冷たくされたら、オレ、生きていけないから~」


 なーんて、言いながら。





 
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