バレンタインより特別な日に

❚5.きみがすきです……!

　翌日。


　あたしは鞄の中に、手作りのガトーショコラ。

　まだ言えない、秘密。


　放課後を待つ。


「ハル?」

　心臓がドキドキして、口から飛び出してしまいそうなくらい。

　でも、彼に、声をかけた。


「友香、どしたの?」

「……話があるん」

「なに?」

「いま、ひとがいるから言えん」

「じゃ、ふたりならいい?」

「……行こ」


　ぱしっ。

　ハルがあたしの手首を掴んだ。


「ど、どこ!?」

「ひと、いないとこ。オレからも、話あるし」


✿


　まあ、確かに。
　ひとはいないけど。


　体育館裏。


　ここってひそかに告白スポットになってるとこじゃん。


　まあ、これからあたしがすることって、そーゆうことだから、別にいいんだけどさ。


「で、話ってなに?」

　ドキッ。

　単刀直入に聞くなし。ハル、バカ。


「……えっと………」


　逃げるな。



　逃げるな、あたし。



　ここで逃げたら、また、元通りになっちゃうから。

　もう、あきらめるな。




　言え……っ!!





「なんか、いい匂いじゃね?」


　……。


　…………。


「は?」

「いや、なんか友香からいい匂い」


　あ、もしかして。


「これ?」

「そ、それ。何?」

「ガトーショコラだけど」


　てゆーか、お前は警察犬か。鼻が効きすぎ。


「友香が作ったん?　……誰かにあげるの?」

「そ、そうだけど?」

「誰に?　オレ以外のやつ」

　バン!

　じりじりと近づいてきたハルが、あたしを壁際に追い詰めて、腕を伸ばしてきた。

　に、逃げられん……っ。


「誰だと思う?」

「それ、いまオレが聞いてるんだけど?」

「す、好きな人に渡すん」

「へー、んで、誰?」


　……ドキン。


　ドキン。


　ドキン。


　うるさいぞ、心臓。



「……ハル」



「だから、誰なんだよ!」

「……ハル」

「え?」


「ハルなんだけど」