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2 聖女召喚
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そこは石造りで天井が高く神殿の内部のような場所だった。壁際にずらりと甲冑姿の騎士達が並んでいて、中央にいる豪奢な服の集団の中の多分一番地位の高い人だと思われるマントを着けた男性が近寄ってきた。
「お待ちしておりました聖女様。我らの召喚に応えて下さり感謝します。無事試練も乗り越えられたようで何よりです。ところでこちらの男性は……」
困惑した表情で私の方を見ている2メートルを超えていそうな大柄な男性は、頭にはライオンに似た耳があった。周りにいる人達も同じように動物の特徴を持っているみたいで、これはファンタジーに出てくる獣人というものだろうか。そしてなぜか言葉がわかる。
そんなことよりもこの男は今「召喚」と言った。つまり故意にここに呼んだという事だ。
「これは拉致で誘拐です。責任者はあなたですか?」
私の言葉に周りが騒然としているが黙っているわけにはいかない。ここまでの状況は完全にこちらの意思を無視したものだった。まだ子供の彼女を聖女と祭り上げて丸め込もうとしているようにしか見えない。年上の私がしっかりしなければ。
「貴様! 陛下に向かって何という事を… 」
騎士の中でもひときわ大柄な男が剣に手をかけて前に出てきた。暴力に訴えるところが尚更信用できない。それにしても陛下って事は、この目の前の男がこの国の国王なんだろう。
「良い。この者の言っている事は正しい」
騎士を諫めて非を認めた上に国王であるはずの男が頭を下げた。その行為に周りが静まり返っている。
「確かに了承も無く呼び込んでしまった事は申し訳ない。だがこちらにも事情があっての事。どうか話を聞いてもらえないだろうか」
国のトップが頭を下げているのだからこちらも譲歩した方が良いだろう。あまりごねるのも得策ではないだろうし、話は聞いた方が良いと思う。
「…わかりました。話は二人で一緒に聞きます。私が納得できるまで彼女を一人にするつもりはありません」
「藤崎さん…」
か細い声が聞こえて、斉藤さんが私の袖を握っていた。その指は小刻みに震えている。 私達の周りには一緒に扉をくぐった妖精が飛んでいた。妖精は私の袖を握る斉藤さんの右手の指輪に触ってから、私の右手に集まって来て次々指に触れてきた。そこに光が集まってから消えると、私の右手中指に銀の指輪がはまっていた。
「え? 指輪が、どうして?」
「あれ⁈ 指輪が細くなった!なんで?」
私の指に指輪が出現すると周りがいっそう騒がしくなった。「なぜ聖女の指輪があの男にも現れた? 」と言っているのが聞こえて、近くにいた国王も驚いた顔をしている。どうやらこの指輪は重要アイテムらしい。
国王が手を上げるとすぐに騒ぎは治まり静まり返った神殿内に威厳のある声が響く。
「皆も見た通り召喚された二人共が妖精に選ばれた。二人はこれから我が国の庇護下において守って行かねばならない。まずは安心して話せる場所が必要だ。部屋を用意してくれ」
そう言って斉藤さんを見た後私の方を見てくる。おそらく国王の中では私は召喚に巻き込まれた一般人ではなく、聖女の次くらいには重要人物になったようだ。
話を聞くために用意された部屋は絢爛豪華で広く、まさしく王族の城の応接間というところだった。
中央に王。その隣は面差しが似ているから多分王子。反対の隣に少し離れて王よりは若い男性がそれぞれソファーに座っている。後ろには護衛と思われる騎士数名が立ち、その向かいに私と斉藤さんが座った。二人の肩や膝には妖精も座っている。
先ずは簡単に自己紹介をされた。中央に座るのはここ獣人の国サヴァラニアの王でファブリシオ・ラボルド王。38歳で獅子の獣人。
隣が王子のファビアン・ラボルド。18歳で獅子の獣人 。
少し離れて座っていたのが宰相のエドワード・シリング公爵。31歳で鷲の獣人。この国のトップ3といったところか。
こちらもまずは斉藤さんが自己紹介してその後私もしたのだけれど、ほぼ全員が年齢を告げた時に驚愕の表情になるのやめて欲しい。
紹介が終われば話し合いのはじまりだ。最初は聖女召喚がこの国にとって必要不可欠である理由を聞いた。
この世界には邪悪な魔物が生息していて見境なく襲って来る。そのため兵士や冒険者、街や村の自警団なんかが人が住む場所を守っている。魔物は倒すと黒い霧になり魔石を残す。魔石は魔道具に欠かせないもののため、大きい物ほど高く売れる。冒険者達は魔石を求めて魔物狩りに赴き、危険な場所に踏み込んでいく者もいるらしい。
問題は魔物を倒すと発生する黒い霧だ。それは殺された魔物の恨みの念が籠っていて魔物を倒すほど溜まっていく。黒霧が増えると悪意が増殖され、人の精神を蝕みそれが漂う場所では犯罪率が異常に高くなってしまう。
そして黒霧を浄化できるのは異世界から来た聖女のみ。
召喚術で渡って来て妖精の試練を乗り越えた者に与えられる浄化の魔法でなければ、黒霧を消すことは出来ない。そのためこのサヴァラニアでは、先代の聖女がお亡くなりになるとそれから十年以内に次代の聖女を召喚しているという。
「既に犯罪数が増えてきている状況だ。このままでは子殺し、親殺しが出始めてもおかしくない」
「黒霧のせいで親が子供を殺しちゃうんですか⁉」
王の言葉に斉藤さんが思わず声をあげ、私も息をのむ。どうやら黒霧は人の愛情に最も悪影響を及ぼすようで、身近な人同士の諍いを増長させ、最悪の事態を引き起こしてしまうらしい。
思っていた以上に切迫した状態に言葉を失ってしまう。この話を聞いて協力しませんとはさすがに言えなくなってしまった。
「お待ちしておりました聖女様。我らの召喚に応えて下さり感謝します。無事試練も乗り越えられたようで何よりです。ところでこちらの男性は……」
困惑した表情で私の方を見ている2メートルを超えていそうな大柄な男性は、頭にはライオンに似た耳があった。周りにいる人達も同じように動物の特徴を持っているみたいで、これはファンタジーに出てくる獣人というものだろうか。そしてなぜか言葉がわかる。
そんなことよりもこの男は今「召喚」と言った。つまり故意にここに呼んだという事だ。
「これは拉致で誘拐です。責任者はあなたですか?」
私の言葉に周りが騒然としているが黙っているわけにはいかない。ここまでの状況は完全にこちらの意思を無視したものだった。まだ子供の彼女を聖女と祭り上げて丸め込もうとしているようにしか見えない。年上の私がしっかりしなければ。
「貴様! 陛下に向かって何という事を… 」
騎士の中でもひときわ大柄な男が剣に手をかけて前に出てきた。暴力に訴えるところが尚更信用できない。それにしても陛下って事は、この目の前の男がこの国の国王なんだろう。
「良い。この者の言っている事は正しい」
騎士を諫めて非を認めた上に国王であるはずの男が頭を下げた。その行為に周りが静まり返っている。
「確かに了承も無く呼び込んでしまった事は申し訳ない。だがこちらにも事情があっての事。どうか話を聞いてもらえないだろうか」
国のトップが頭を下げているのだからこちらも譲歩した方が良いだろう。あまりごねるのも得策ではないだろうし、話は聞いた方が良いと思う。
「…わかりました。話は二人で一緒に聞きます。私が納得できるまで彼女を一人にするつもりはありません」
「藤崎さん…」
か細い声が聞こえて、斉藤さんが私の袖を握っていた。その指は小刻みに震えている。 私達の周りには一緒に扉をくぐった妖精が飛んでいた。妖精は私の袖を握る斉藤さんの右手の指輪に触ってから、私の右手に集まって来て次々指に触れてきた。そこに光が集まってから消えると、私の右手中指に銀の指輪がはまっていた。
「え? 指輪が、どうして?」
「あれ⁈ 指輪が細くなった!なんで?」
私の指に指輪が出現すると周りがいっそう騒がしくなった。「なぜ聖女の指輪があの男にも現れた? 」と言っているのが聞こえて、近くにいた国王も驚いた顔をしている。どうやらこの指輪は重要アイテムらしい。
国王が手を上げるとすぐに騒ぎは治まり静まり返った神殿内に威厳のある声が響く。
「皆も見た通り召喚された二人共が妖精に選ばれた。二人はこれから我が国の庇護下において守って行かねばならない。まずは安心して話せる場所が必要だ。部屋を用意してくれ」
そう言って斉藤さんを見た後私の方を見てくる。おそらく国王の中では私は召喚に巻き込まれた一般人ではなく、聖女の次くらいには重要人物になったようだ。
話を聞くために用意された部屋は絢爛豪華で広く、まさしく王族の城の応接間というところだった。
中央に王。その隣は面差しが似ているから多分王子。反対の隣に少し離れて王よりは若い男性がそれぞれソファーに座っている。後ろには護衛と思われる騎士数名が立ち、その向かいに私と斉藤さんが座った。二人の肩や膝には妖精も座っている。
先ずは簡単に自己紹介をされた。中央に座るのはここ獣人の国サヴァラニアの王でファブリシオ・ラボルド王。38歳で獅子の獣人。
隣が王子のファビアン・ラボルド。18歳で獅子の獣人 。
少し離れて座っていたのが宰相のエドワード・シリング公爵。31歳で鷲の獣人。この国のトップ3といったところか。
こちらもまずは斉藤さんが自己紹介してその後私もしたのだけれど、ほぼ全員が年齢を告げた時に驚愕の表情になるのやめて欲しい。
紹介が終われば話し合いのはじまりだ。最初は聖女召喚がこの国にとって必要不可欠である理由を聞いた。
この世界には邪悪な魔物が生息していて見境なく襲って来る。そのため兵士や冒険者、街や村の自警団なんかが人が住む場所を守っている。魔物は倒すと黒い霧になり魔石を残す。魔石は魔道具に欠かせないもののため、大きい物ほど高く売れる。冒険者達は魔石を求めて魔物狩りに赴き、危険な場所に踏み込んでいく者もいるらしい。
問題は魔物を倒すと発生する黒い霧だ。それは殺された魔物の恨みの念が籠っていて魔物を倒すほど溜まっていく。黒霧が増えると悪意が増殖され、人の精神を蝕みそれが漂う場所では犯罪率が異常に高くなってしまう。
そして黒霧を浄化できるのは異世界から来た聖女のみ。
召喚術で渡って来て妖精の試練を乗り越えた者に与えられる浄化の魔法でなければ、黒霧を消すことは出来ない。そのためこのサヴァラニアでは、先代の聖女がお亡くなりになるとそれから十年以内に次代の聖女を召喚しているという。
「既に犯罪数が増えてきている状況だ。このままでは子殺し、親殺しが出始めてもおかしくない」
「黒霧のせいで親が子供を殺しちゃうんですか⁉」
王の言葉に斉藤さんが思わず声をあげ、私も息をのむ。どうやら黒霧は人の愛情に最も悪影響を及ぼすようで、身近な人同士の諍いを増長させ、最悪の事態を引き起こしてしまうらしい。
思っていた以上に切迫した状態に言葉を失ってしまう。この話を聞いて協力しませんとはさすがに言えなくなってしまった。
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