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あの日のかくれんぼ 侵入D団地②
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布団に木の棒を掛けた恵美は、意を決して布団をめくり上げた。
「きゃあああ!」
団地内に恵美の悲鳴が響き渡る。
布団をめくったそこにあった物は、年代物の黒電話だった。そんな物があるとは思ってなかった事と、麻莉に聞かされた昔のいわく話の中で黒電話があった事を思い出し、恵美は思わず悲鳴を上げてしまったのだ。
「はぁ、はぁ、何よ、ただの黒電話じゃん。ご丁寧に布団なんか被せないでよ」
荒れる呼吸を整えながら恵美が黒電話に文句を言っていた。
「だいたいテレビや電話があったからってそれが何なのよ。こんな廃墟にそんな物があったって何の役にも立たないんだからね。きっとここに来た誰かが悪ふざけで置いて行ったんでしょう。本当悪趣味」
苦笑いを浮かべながら恵美が叫ぶ様に強い口調で文句を言っていた。それが強がりであるのは明らかだったが、その時――
『ジリリリリ!』
突然文句を言っていた黒電話が鳴り響いた。
「ひゃ…………」
あまりに突然の事に思わず恵美も絶句してしまう。
そこは廃墟になり何十年も経ち、電気など通じている筈がなかった。それなのに目の前にある黒電話はけたたましい音を上げて鳴り響いていた。
恵美が懐中電灯でその黒電話を照らすと、電話線も途中で切れているのが分かる。恵美は思わず懐中電灯を落とし、両手で頭を抱えながらその場にへたり込んでしまった。
「やめて、無理。お願い、だからやめて。もう嫌! 本当にやめて!」
混乱し、両手で耳を塞ぎながら半狂乱になって恵美が叫ぶ。
どれ程の時間が経過したか分からなかったが、暫くして恵美が気が付くと、既に電話は鳴り止んでいた。
「はぁ、はぁ、はぁ……何? 何なの?」
恵美は呼吸を整えながらゆっくりと慎重に思慮を巡らせて行く。だがどれ程考えてみても先程の事象は説明がつかなかった。
「はぁ、はぁ……ふぅ、何よ、これが心霊現象とでも言う訳? そんなに私の事が嫌いなんだ……」
恵美は僅かに潤んだ瞳を拭うと、すっと立ち上がった。
「こんな訳が分からない事が起こるんだったら、やっぱり麗や藍の事にも絡んでたっておかしくない」
恵美はそう言って前を向くと、落とした懐中電灯を拾い上げ、再び歩き出す。
先程の強気なセリフとは裏腹に、ゆっくりと慎重に歩を進めて行く。まだ心臓は高鳴り呼吸も乱れている。
「ははは、本当何なの? 次はどうしたい訳?」
独り言を呟きながら暗く静まり返った廊下を歩んで行く。そんな時、ふと麗との何時しかのやり取りを思い出した。
――
それはある日、学校からの帰り道での事だった。
恵美と麗が並んで歩いていると、大きな口を開けて麗があくびをしていた。
「麗さっきからあくびばかりしてるけど、また遅くまで動画配信見てたの?」
「あはは、正解。昨日動画探してたらホラー系の面白い動画見つけてさぁ、一気見しちゃった」
指を立てながら楽しそうに笑う麗を見て、恵美は顔をしかめていた。
「はぁやっぱり。ホラーの何処がいいんだか。あんなの怖いだけじゃん。夜中にそんなの観て怖くないの? 私にしたら罰ゲームだよ」
眉根を寄せて呆れた様に笑う恵美とは対照的に、麗は屈託の無い笑顔を見せていた。
「恵美は分かってないなぁ。怖いに決まってるじゃん。怖いから面白いんだよ。怖くなかったらそれこそつまらないって」
そう言って笑いながら二人で楽しく帰っていた。
――
「麗、やっぱり私にはあんたが言ってた事理解出来ないや」
震える肩を自らさすって、恵美は苦笑いを浮かべながら、二階へと続く階段を降りて行く。
二階に着いた恵美は暫く何かを考える様に立ち尽くしていた。
「ここのひとりかくれんぼって二階に隠れるんだよね? 嫌な予感しかしないじゃん」
恵美は強気な笑みを見せながら、来る途中のコンビニで買った数珠を握り締める。
「コンビニで買おうが何処で買おうが数珠は数珠なんだから、無いよりはマシよね? お願いだから御守り代わりになってよ」
恵美は数珠を握り締めながら、ぶつぶつと独り言を言って歩んで行く。静まり返った暗闇の中、懐中電灯の明かりだけを頼りにゆっくりと進んでいると、突然後ろで割れた窓を風が抜けて行く。僅かな風の音でも気が動転してしまいそうになる。
そんな静寂の中、恵美が耳を澄ませると、何処か遠くの方であの黒電話のベルの音が聞こえる様な気がした。
「……いい加減にしてよ本当に」
文句を言いながら、あえて気にしない様に恵美は歩みを進めた。懐中電灯で照らしながらコンクリート製の廊下をひたすら歩き、各部屋を覗いて行く。何度も繰り返されるその作業に、何時しか恵美もぞんざいになり、流れ作業の様になっていた。
しかしある程度した所で恵美も気付く。
――部屋はいくつある!?
二階に着き、歩きながら既に十程の部屋は覗いた。特段変わった部屋は無かったが、まだ廊下は続き、部屋もまだある。
どう考えても部屋が多過ぎるのだ。
「……なんで? 何なの?」
静寂が支配した様な暗闇の世界に一人迷い込み、その異常さに恵美の呼吸も自然と荒くなっていった。
「きゃあああ!」
団地内に恵美の悲鳴が響き渡る。
布団をめくったそこにあった物は、年代物の黒電話だった。そんな物があるとは思ってなかった事と、麻莉に聞かされた昔のいわく話の中で黒電話があった事を思い出し、恵美は思わず悲鳴を上げてしまったのだ。
「はぁ、はぁ、何よ、ただの黒電話じゃん。ご丁寧に布団なんか被せないでよ」
荒れる呼吸を整えながら恵美が黒電話に文句を言っていた。
「だいたいテレビや電話があったからってそれが何なのよ。こんな廃墟にそんな物があったって何の役にも立たないんだからね。きっとここに来た誰かが悪ふざけで置いて行ったんでしょう。本当悪趣味」
苦笑いを浮かべながら恵美が叫ぶ様に強い口調で文句を言っていた。それが強がりであるのは明らかだったが、その時――
『ジリリリリ!』
突然文句を言っていた黒電話が鳴り響いた。
「ひゃ…………」
あまりに突然の事に思わず恵美も絶句してしまう。
そこは廃墟になり何十年も経ち、電気など通じている筈がなかった。それなのに目の前にある黒電話はけたたましい音を上げて鳴り響いていた。
恵美が懐中電灯でその黒電話を照らすと、電話線も途中で切れているのが分かる。恵美は思わず懐中電灯を落とし、両手で頭を抱えながらその場にへたり込んでしまった。
「やめて、無理。お願い、だからやめて。もう嫌! 本当にやめて!」
混乱し、両手で耳を塞ぎながら半狂乱になって恵美が叫ぶ。
どれ程の時間が経過したか分からなかったが、暫くして恵美が気が付くと、既に電話は鳴り止んでいた。
「はぁ、はぁ、はぁ……何? 何なの?」
恵美は呼吸を整えながらゆっくりと慎重に思慮を巡らせて行く。だがどれ程考えてみても先程の事象は説明がつかなかった。
「はぁ、はぁ……ふぅ、何よ、これが心霊現象とでも言う訳? そんなに私の事が嫌いなんだ……」
恵美は僅かに潤んだ瞳を拭うと、すっと立ち上がった。
「こんな訳が分からない事が起こるんだったら、やっぱり麗や藍の事にも絡んでたっておかしくない」
恵美はそう言って前を向くと、落とした懐中電灯を拾い上げ、再び歩き出す。
先程の強気なセリフとは裏腹に、ゆっくりと慎重に歩を進めて行く。まだ心臓は高鳴り呼吸も乱れている。
「ははは、本当何なの? 次はどうしたい訳?」
独り言を呟きながら暗く静まり返った廊下を歩んで行く。そんな時、ふと麗との何時しかのやり取りを思い出した。
――
それはある日、学校からの帰り道での事だった。
恵美と麗が並んで歩いていると、大きな口を開けて麗があくびをしていた。
「麗さっきからあくびばかりしてるけど、また遅くまで動画配信見てたの?」
「あはは、正解。昨日動画探してたらホラー系の面白い動画見つけてさぁ、一気見しちゃった」
指を立てながら楽しそうに笑う麗を見て、恵美は顔をしかめていた。
「はぁやっぱり。ホラーの何処がいいんだか。あんなの怖いだけじゃん。夜中にそんなの観て怖くないの? 私にしたら罰ゲームだよ」
眉根を寄せて呆れた様に笑う恵美とは対照的に、麗は屈託の無い笑顔を見せていた。
「恵美は分かってないなぁ。怖いに決まってるじゃん。怖いから面白いんだよ。怖くなかったらそれこそつまらないって」
そう言って笑いながら二人で楽しく帰っていた。
――
「麗、やっぱり私にはあんたが言ってた事理解出来ないや」
震える肩を自らさすって、恵美は苦笑いを浮かべながら、二階へと続く階段を降りて行く。
二階に着いた恵美は暫く何かを考える様に立ち尽くしていた。
「ここのひとりかくれんぼって二階に隠れるんだよね? 嫌な予感しかしないじゃん」
恵美は強気な笑みを見せながら、来る途中のコンビニで買った数珠を握り締める。
「コンビニで買おうが何処で買おうが数珠は数珠なんだから、無いよりはマシよね? お願いだから御守り代わりになってよ」
恵美は数珠を握り締めながら、ぶつぶつと独り言を言って歩んで行く。静まり返った暗闇の中、懐中電灯の明かりだけを頼りにゆっくりと進んでいると、突然後ろで割れた窓を風が抜けて行く。僅かな風の音でも気が動転してしまいそうになる。
そんな静寂の中、恵美が耳を澄ませると、何処か遠くの方であの黒電話のベルの音が聞こえる様な気がした。
「……いい加減にしてよ本当に」
文句を言いながら、あえて気にしない様に恵美は歩みを進めた。懐中電灯で照らしながらコンクリート製の廊下をひたすら歩き、各部屋を覗いて行く。何度も繰り返されるその作業に、何時しか恵美もぞんざいになり、流れ作業の様になっていた。
しかしある程度した所で恵美も気付く。
――部屋はいくつある!?
二階に着き、歩きながら既に十程の部屋は覗いた。特段変わった部屋は無かったが、まだ廊下は続き、部屋もまだある。
どう考えても部屋が多過ぎるのだ。
「……なんで? 何なの?」
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