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あの日のかくれんぼ 始まり②
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麗と別れた恵美は彼氏と合流し街のファーストフード店に来ていた。フライドポテトをつまみながらたわいもない会話を交わす。そんな何気ない一時を過ごしながらふと今日の出来事を思い出していた。
『東海林希ちゃん……あの日の事を私は忘れる事が出来ない。あの日私がすぐに貴女を探しに行けてたら……』
「……恵美! おい、恵美」
自分を呼ぶ声を聞いてハッとする。自分を呼ぶ方向へ視線を向けると彼氏が難しそうな顔をして恵美を見ている。
「あ、ごめん、何だった?」
「何だったじゃねぇだろ。この後どうするって聞いてるだろ」
あの日の事を思い出し、少し沈んだ気分になっている所に強い口調で言ってくる彼氏に恵美もつい、カチンと来てしまった。
「そんな言い方しなくてもいいでしょ! ごめんて謝ってんじゃん!」
「お前今日、全然俺の話聞いてねぇじゃん! なんだ一緒にいても楽しくねぇってか? もう今日は帰るからな」
突っかかった言い方をした恵美に怒った彼氏はそのまま本当に帰ってしまった。恵美はファーストフード店に一人残され頭を抱える。
最悪だ。これもあのくだらない噂のせいだ。恵美はアイスティーを飲みながらポテトをつまむ。窓の外を見つめながらあの日もこんな晴れた夏の日だったなと思い出し、一人憂鬱な気分に浸って行く。
翌日、クラスで帰り支度をしていると麗が顔を覗かせた。それに気付いた恵美が声を掛けると麗は笑顔で駆け寄って来る。
「恵美、今日もデート?」
「まさか、今日は予定ないよ」
「そっか、じゃあ今日はちょっと付き合ってくれない?」
恵美が笑顔で了承すると二人でクラスを出て行く。ちょうどその時、希ちゃんの噂をしていたクラスメイト達とすれ違った。
「あの団地でひとりかくれんぼすればいいんでしょ?」
「そう、そしたら……」
くだらない噂話を聞こえないふりをして足早にその場を後にする。麗は振り返り、少し興味あり気な顔をしていたが恵美はあえて無視するように先を急いだ。
「ねぇ恵美、あの子達が話てた事って――」
「ああ、なんかO市にある団地の事でしょ? くだらない。麗はあんな噂信じてないよね?」
麗が少し興味ありそうに話を振って来たが恵美は頭ごなしに麗の質問を遮った。麗の少し引きつったような表情を見て、恵美は少しきつい言い方をしてしまったと気付き慌てて取り繕う。
「ああ、まぁその、お化けだ心霊現象だってのはまぁいいんだけどさ、その団地って本当に人が亡くなってるでしょ? だからその亡くなった子が出てくるとかはちょっと不謹慎じゃないかなって思ってさ」
「うん、まぁそうだよね。不謹慎だと私も思うよ」
そう言って笑っていた麗だったが何処と無く何時もの笑顔とは違う気がした。あの団地の事になると、どうしてもムキになってしまう。何年経とうと周りにはあの団地がつきまとうのだろうか? そう思うと、恵美はつい小さくため息をついた。
恵美達は駅前の喫茶店に行き、たわいもない会話を始める。
「ねぇ、それで昨日のデートはどうだった? 楽しかった?」
「えっ、まぁそうね、楽しかったわよ」
無邪気に笑いながら問い掛けてくる麗に恵美も笑いながら返していた。本当は全然楽しくなかったし、寧ろ怒らせて帰られてしまったのだが、思わず嘘をついてしまったのは喧嘩の原因があの団地の事を考えていたせいで上の空になっていたからだとは言いたくなかったからだ。
「麗は彼氏いらないの? 可愛いんだからその気になったらすぐ出来そうなんだけど」
「う~ん、私はまだいいかな。男前で浮気なんかせずに私だけを見てくれて、私が会いたいと思ったらすぐに駆けつけてくれるような人がいたら付き合うかもしれないけど」
「そんな男いる訳ないでしょ。私達もう十七歳よ。そんな事言ってたら青春なんてすぐに終わっちゃうんだから」
「恵美、なんかおばさんみたいな事言ってるよ」
くだらない事を話しながら二人の楽しい時間は過ぎて行く。
―数日後―
恵美が教室でお弁当を食べていた時、麗が教室の入口から顔を覗かせる。休み時間にわざわざ恵美の教室まで麗が来る事は珍しかったので不思議に思ったが、あえて自然に手を振ると、麗は笑顔で駆け寄って来た。
「ごめんねお昼食べてる時に」
「いいよ別に。どうしたの? 珍しいじゃん」
「ああ、うん、ちょっと話があってさ」
少し眉尻を下げて笑う麗を見て、恵美は少し嫌な予感がした。だがわざわざ教室まで来てそんな事を言う麗を無下にも出来ず、恵美は残りのお弁当をかき込むとすぐに立ち上がり、麗の手を引いた。
「さぁ、とりあえず外に行こう」
「あ、ごめん急かすつもりはなかったんだけど」
「いいから、いいから」
申し訳なさそうに謝る麗を笑顔で制して、二人は中庭を目指した。中庭にあるベンチにまず恵美が腰掛けると麗も横にそっと座る。
「本当にごめんね、わざわざこんな所まで来ちゃって。あ、あのさ、か、彼氏とはあれからどうなの? 仲良くやってる?」
愛想笑いをしながら、相変わらず眉毛を八の字にして麗が問い掛ける。会話のとっかかりがこんなに下手な奴がいるのかと思い、つい恵美はニヤけていた。
「まぁ相変わらずって所かな。麗が聞きたいのはそんな事なの? 違うでしょ?」
恵美は頬杖をつきながら、麗を覗き込むように少し口角を上げてちょっと意地悪な言い方をする。麗は俯き笑みを見せると申し訳なさそうに恵美の顔を覗き込んできた。
「あのね、恵美のクラスに葛城藍って子いるでしょ? その子今週ずっと休んでるでしょ?」
麗に言われて恵美は天を仰いだ。藍とはあの日週末に団地に行こうと言っていた子だ。その藍が今週になってずっと学校に来ていないのは恵美も気になっていた。恵美はこの時、少しだけ胸騒ぎを覚える。
『東海林希ちゃん……あの日の事を私は忘れる事が出来ない。あの日私がすぐに貴女を探しに行けてたら……』
「……恵美! おい、恵美」
自分を呼ぶ声を聞いてハッとする。自分を呼ぶ方向へ視線を向けると彼氏が難しそうな顔をして恵美を見ている。
「あ、ごめん、何だった?」
「何だったじゃねぇだろ。この後どうするって聞いてるだろ」
あの日の事を思い出し、少し沈んだ気分になっている所に強い口調で言ってくる彼氏に恵美もつい、カチンと来てしまった。
「そんな言い方しなくてもいいでしょ! ごめんて謝ってんじゃん!」
「お前今日、全然俺の話聞いてねぇじゃん! なんだ一緒にいても楽しくねぇってか? もう今日は帰るからな」
突っかかった言い方をした恵美に怒った彼氏はそのまま本当に帰ってしまった。恵美はファーストフード店に一人残され頭を抱える。
最悪だ。これもあのくだらない噂のせいだ。恵美はアイスティーを飲みながらポテトをつまむ。窓の外を見つめながらあの日もこんな晴れた夏の日だったなと思い出し、一人憂鬱な気分に浸って行く。
翌日、クラスで帰り支度をしていると麗が顔を覗かせた。それに気付いた恵美が声を掛けると麗は笑顔で駆け寄って来る。
「恵美、今日もデート?」
「まさか、今日は予定ないよ」
「そっか、じゃあ今日はちょっと付き合ってくれない?」
恵美が笑顔で了承すると二人でクラスを出て行く。ちょうどその時、希ちゃんの噂をしていたクラスメイト達とすれ違った。
「あの団地でひとりかくれんぼすればいいんでしょ?」
「そう、そしたら……」
くだらない噂話を聞こえないふりをして足早にその場を後にする。麗は振り返り、少し興味あり気な顔をしていたが恵美はあえて無視するように先を急いだ。
「ねぇ恵美、あの子達が話てた事って――」
「ああ、なんかO市にある団地の事でしょ? くだらない。麗はあんな噂信じてないよね?」
麗が少し興味ありそうに話を振って来たが恵美は頭ごなしに麗の質問を遮った。麗の少し引きつったような表情を見て、恵美は少しきつい言い方をしてしまったと気付き慌てて取り繕う。
「ああ、まぁその、お化けだ心霊現象だってのはまぁいいんだけどさ、その団地って本当に人が亡くなってるでしょ? だからその亡くなった子が出てくるとかはちょっと不謹慎じゃないかなって思ってさ」
「うん、まぁそうだよね。不謹慎だと私も思うよ」
そう言って笑っていた麗だったが何処と無く何時もの笑顔とは違う気がした。あの団地の事になると、どうしてもムキになってしまう。何年経とうと周りにはあの団地がつきまとうのだろうか? そう思うと、恵美はつい小さくため息をついた。
恵美達は駅前の喫茶店に行き、たわいもない会話を始める。
「ねぇ、それで昨日のデートはどうだった? 楽しかった?」
「えっ、まぁそうね、楽しかったわよ」
無邪気に笑いながら問い掛けてくる麗に恵美も笑いながら返していた。本当は全然楽しくなかったし、寧ろ怒らせて帰られてしまったのだが、思わず嘘をついてしまったのは喧嘩の原因があの団地の事を考えていたせいで上の空になっていたからだとは言いたくなかったからだ。
「麗は彼氏いらないの? 可愛いんだからその気になったらすぐ出来そうなんだけど」
「う~ん、私はまだいいかな。男前で浮気なんかせずに私だけを見てくれて、私が会いたいと思ったらすぐに駆けつけてくれるような人がいたら付き合うかもしれないけど」
「そんな男いる訳ないでしょ。私達もう十七歳よ。そんな事言ってたら青春なんてすぐに終わっちゃうんだから」
「恵美、なんかおばさんみたいな事言ってるよ」
くだらない事を話しながら二人の楽しい時間は過ぎて行く。
―数日後―
恵美が教室でお弁当を食べていた時、麗が教室の入口から顔を覗かせる。休み時間にわざわざ恵美の教室まで麗が来る事は珍しかったので不思議に思ったが、あえて自然に手を振ると、麗は笑顔で駆け寄って来た。
「ごめんねお昼食べてる時に」
「いいよ別に。どうしたの? 珍しいじゃん」
「ああ、うん、ちょっと話があってさ」
少し眉尻を下げて笑う麗を見て、恵美は少し嫌な予感がした。だがわざわざ教室まで来てそんな事を言う麗を無下にも出来ず、恵美は残りのお弁当をかき込むとすぐに立ち上がり、麗の手を引いた。
「さぁ、とりあえず外に行こう」
「あ、ごめん急かすつもりはなかったんだけど」
「いいから、いいから」
申し訳なさそうに謝る麗を笑顔で制して、二人は中庭を目指した。中庭にあるベンチにまず恵美が腰掛けると麗も横にそっと座る。
「本当にごめんね、わざわざこんな所まで来ちゃって。あ、あのさ、か、彼氏とはあれからどうなの? 仲良くやってる?」
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「まぁ相変わらずって所かな。麗が聞きたいのはそんな事なの? 違うでしょ?」
恵美は頬杖をつきながら、麗を覗き込むように少し口角を上げてちょっと意地悪な言い方をする。麗は俯き笑みを見せると申し訳なさそうに恵美の顔を覗き込んできた。
「あのね、恵美のクラスに葛城藍って子いるでしょ? その子今週ずっと休んでるでしょ?」
麗に言われて恵美は天を仰いだ。藍とはあの日週末に団地に行こうと言っていた子だ。その藍が今週になってずっと学校に来ていないのは恵美も気になっていた。恵美はこの時、少しだけ胸騒ぎを覚える。
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