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首都ボルマンの現実
31:街に降りる(4)
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パカラッパカラッと軽快な足音を立て、通り過ぎる馬。
シン、静まり返る広場。
彼らが恐る恐る目を開けると、目の前には女の子を抱きしめて転がる、左目に火傷の跡がある男がいた。
わぁっと歓声が上がる。
シャーロットはその様子を見て満足げに微笑んだ。
「兄ちゃん!良くやった!」
「大丈夫か!?」
人々がギルベルトに駆け寄る。
彼に抱き抱えられた小さな女の子は、びっくりしたように目を丸くしていた。
「兄ちゃん!怪我はないか!?」
「……ちょ…今、無理。しゃべれな…」
「おい、兄ちゃん!どうした!?」
ゼェゼェと息切れを起こしているギルベルトは、チラリとシャーロットに視線を送った。
今の彼は久しぶりに魔術を使ったがために、体が追いついていないのだろう。
シャーロットは小さく息を吐くと、野次馬をかき分けて彼の元へと駆け寄った。
「気にしないでくれ。久しぶりに運動したものだから、息切れしているだけだ。ただの運動不足だよ」
「…そうなのか?」
「つか、あんた誰だ?」
「私はこの男の身内だ」
「身内…。妹か?」
「まあ、そんなところだ。それより、そこの少女の心配をしてやってくれ」
「あ、ああ。そうだな」
シャーロットはギルベルトと一緒に倒れ込んでいた少女に手を伸ばす。
少女はその手を掴むと、ゆっくりと立ち上がった。
「大丈夫か?」
「…うん?大丈夫。ありがとう」
「嘘をつけ。さっき挫いてただろ。見せてみろ」
少女の前に跪き、彼女の足を自分の膝の上に置き診察をするシャーロット。
幸いにも大したことはなさそうだ。
近所のおばさんが持ってきた包帯と湿布で応急処置をしてやった。
「少女よ、痛いか?」
「へ、へいき」
「無理するなよ」
「うん」
「保護者は近くにいるか?」
「あ、あそこ…」
少女が近くの路地の方を指差すと、そこから一人の男が走ってきた。
顔に大きな十字傷のある、色黒スキンヘッドの大男。
誰かが呼びに行ったのだろう。
彼は人混みをかき分け、少女に駆け寄ると彼女をキツく抱きしめた。
「ニ、ニック….苦し…」
「サーシャ!探したぞ!勝手に外に出るなって言っただろう!?」
「ご、ごめんなさい…」
あまり似ていない二人だが、親子だろうか。
サーシャと呼ばれた少女は安堵からか、静かに涙を流した。
ギルベルトは全身が筋肉痛のように痛む中、ニックのいう名の男に声をかける。
「サーシャって言うのか?」
「ん?」
「その子、もしかしたらむち打ちみたいになってるかも。気をつけて見てやってくれ…」
満身創痍といった感じで声をかけてきたギルベルトに、ニックは怪訝な顔をした。
周囲の野次馬はそんなかれに、先程の出来事を詳しく話す。
「おお!そうか!!兄ちゃんが助けてくれたのか!ありがとう!」
「いや、俺は全然…」
「あんたはサーシャの命の恩人だ!何かお礼がしたいんだが、良かったらうちに寄っていかないか?」
「…いや、そんな事をしてもらうほどでは…」
「大したもてなしはできないが、是非!」
「いや、だからさ…」
皇族だと気づかれていないからこの態度なのだろうが、いくら姿が知られていないからといって、ここで民の世話になるのは、皇帝を目指す者としてどうなのだろう。
そう思ったギルベルトはまた、助けを求めるようにシャーロットを見た。
シャーロットは彼が何に悩んでるのかを理解したのか、フッと笑みをこぼす。
「ギルベルト。ここはお言葉に甘えよう。其方は多分しばらく動けない。休ませてもらった方が良い。貴族街に程近いしな」
騒ぎを聞きつけて門の向こうから身分のある者が様子を見にきたら厄介だ。
シャーロットは近くの男性に彼を担いでもらうと、ニックとやらの家に向かった。
シン、静まり返る広場。
彼らが恐る恐る目を開けると、目の前には女の子を抱きしめて転がる、左目に火傷の跡がある男がいた。
わぁっと歓声が上がる。
シャーロットはその様子を見て満足げに微笑んだ。
「兄ちゃん!良くやった!」
「大丈夫か!?」
人々がギルベルトに駆け寄る。
彼に抱き抱えられた小さな女の子は、びっくりしたように目を丸くしていた。
「兄ちゃん!怪我はないか!?」
「……ちょ…今、無理。しゃべれな…」
「おい、兄ちゃん!どうした!?」
ゼェゼェと息切れを起こしているギルベルトは、チラリとシャーロットに視線を送った。
今の彼は久しぶりに魔術を使ったがために、体が追いついていないのだろう。
シャーロットは小さく息を吐くと、野次馬をかき分けて彼の元へと駆け寄った。
「気にしないでくれ。久しぶりに運動したものだから、息切れしているだけだ。ただの運動不足だよ」
「…そうなのか?」
「つか、あんた誰だ?」
「私はこの男の身内だ」
「身内…。妹か?」
「まあ、そんなところだ。それより、そこの少女の心配をしてやってくれ」
「あ、ああ。そうだな」
シャーロットはギルベルトと一緒に倒れ込んでいた少女に手を伸ばす。
少女はその手を掴むと、ゆっくりと立ち上がった。
「大丈夫か?」
「…うん?大丈夫。ありがとう」
「嘘をつけ。さっき挫いてただろ。見せてみろ」
少女の前に跪き、彼女の足を自分の膝の上に置き診察をするシャーロット。
幸いにも大したことはなさそうだ。
近所のおばさんが持ってきた包帯と湿布で応急処置をしてやった。
「少女よ、痛いか?」
「へ、へいき」
「無理するなよ」
「うん」
「保護者は近くにいるか?」
「あ、あそこ…」
少女が近くの路地の方を指差すと、そこから一人の男が走ってきた。
顔に大きな十字傷のある、色黒スキンヘッドの大男。
誰かが呼びに行ったのだろう。
彼は人混みをかき分け、少女に駆け寄ると彼女をキツく抱きしめた。
「ニ、ニック….苦し…」
「サーシャ!探したぞ!勝手に外に出るなって言っただろう!?」
「ご、ごめんなさい…」
あまり似ていない二人だが、親子だろうか。
サーシャと呼ばれた少女は安堵からか、静かに涙を流した。
ギルベルトは全身が筋肉痛のように痛む中、ニックのいう名の男に声をかける。
「サーシャって言うのか?」
「ん?」
「その子、もしかしたらむち打ちみたいになってるかも。気をつけて見てやってくれ…」
満身創痍といった感じで声をかけてきたギルベルトに、ニックは怪訝な顔をした。
周囲の野次馬はそんなかれに、先程の出来事を詳しく話す。
「おお!そうか!!兄ちゃんが助けてくれたのか!ありがとう!」
「いや、俺は全然…」
「あんたはサーシャの命の恩人だ!何かお礼がしたいんだが、良かったらうちに寄っていかないか?」
「…いや、そんな事をしてもらうほどでは…」
「大したもてなしはできないが、是非!」
「いや、だからさ…」
皇族だと気づかれていないからこの態度なのだろうが、いくら姿が知られていないからといって、ここで民の世話になるのは、皇帝を目指す者としてどうなのだろう。
そう思ったギルベルトはまた、助けを求めるようにシャーロットを見た。
シャーロットは彼が何に悩んでるのかを理解したのか、フッと笑みをこぼす。
「ギルベルト。ここはお言葉に甘えよう。其方は多分しばらく動けない。休ませてもらった方が良い。貴族街に程近いしな」
騒ぎを聞きつけて門の向こうから身分のある者が様子を見にきたら厄介だ。
シャーロットは近くの男性に彼を担いでもらうと、ニックとやらの家に向かった。
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