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第二部

6:公爵夫人のお茶会(2)

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「モニカ、今日はありがとう」
「公爵夫人として当然の事ですわ、ノア様」
「でも、君は社交があまり得意ではないだろう?お茶会、しんどかったんじゃないか?」

 本邸の食堂で夕食を取りながら昼間のお茶会の報告をしたモニカに、ノアは不安そうに尋ねた。
 期限付きとは言え、好きでもない男と夫婦を演じなければならない彼女をノアはずっと気にかけている。
 モニカとしては、そこまで神経質にならなくとも大丈夫なのだが、辛い時に辛いとは言わない性格を熟知されているせいで信用がないらしい。

「辛かったら言ってよ?社交も最低限に調整するし…」
「心配しすぎです。離縁までの3年はちゃんと公爵夫人としての務めを果たすつもりで嫁いできたわけですし、それに今日のお茶会は帝国の時とは違ってとても楽しい時間でした」
「そう?」
「ええ。本当に最近まで情勢が不安定だったのか信じられないくらい、皆さん穏やかで…」
「帝国では茶会に招待されても大体遠回しな悪口しか聞こえてきませんでしたからね、姫様には新鮮だっだと思いますよ」
「どうして貴方が答えるのよ、ジャスパー」

  勝手に話に入ってきたジャスパーをモニカは睨む。
  その反応が不服だった彼は口を尖らせた。

「…俺の話してたくせに」
「ご令嬢方がね」
「姫様も賛同してたでしょう?」
「一言も同意してないわ。何が大人の色香よ」

    昼間の会話を思い出したモニカはぷっと吹き出した。
 危険な香りがする流し目に大人の色香。年若い令嬢から見るとそう映るらしい。
 帰り際に令嬢たちから『あんな素敵なお兄様がいて羨ましい』と言われたエリザは、呆れたようにため息をついた。

「皆様、お兄様に夢を見ていらっしゃいますのね。エリザはびっくりですわ。中身はほぼ犯罪者なのに」
「まあ、ジャスパーは黙って立っていたら本当に彫刻のようだからね。男の僕でも見惚れるほどだよ?」
「黙っていれば、ですけれどね」
「酷くない?なんか最近、俺への態度がひどくないですかね、皆さん」
「ねえねえ。ちょっと一回やってみてよ。危険な香りがする流し目」
「えー?危険な香りって…こうですか?」

 ジャスパーはモニカに言われるがまま、流し目で彼女を見た。
 エリザもノアも彼の格好をつけた流し目に吹き出したが、不覚にもその危険な香りがする流し目にドキッとしてしまったモニカは、不自然に目を逸らせる。
 そんな彼女にジャスパーは怪訝な表情を向けたが、彼女はそれを無視した。

「そ、そういえばノア様。またブライアンにモデルを頼まれたのですけれど、来週末行ってきても良いですか?」
「また?最近多いね。妬けるなぁ」
「妬けるって、昨日もデートしてきたんでしょう?」
「そうなんだけど、ブライアンって僕の絵は描いてくれないでしょ?だから何か羨ましいなって」

 ノアは寂しそうに窓の外に視線を移した。
 ブライアンは何故かノアの絵を描かない。それが彼には寂しいらしい。
 
「今度、それとなく聞いてみましょうか?何故描かないのか」

     何となく、彼がノアの絵を描かない理由がわかるモニカはノアにそう尋ねた。ノアは遠慮がちに『じゃあお願いしようかな』と微笑んだ。

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