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20:過去との遭遇(4)
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酔った兄を抱えてやってきたのは兄の高校時代からの友人である月島さん(爽やか眼鏡イケメン)と、大学時代の元カノである田辺さん(少し怖そうな美人さん)という女性だった。
(やっぱりいるんじゃん。元カノ…)
わかりやすい美人の元カノとか、兄は意外とモテたのかもしれない。
月島さんはとりあえず兄をロビーのソファーに座らせると、ふぅーっと息を吐いて兄の隣に座った。
兄はなぜか無の表情でホロホロと涙を流している。仕方なく私が顔を覗き込むようにして『大丈夫か』と声をかけると、彼は何も言わずにぎゅっと抱きしめてきた。
「何年経ってもシスコンは健在か。久しぶりだね、妹ちゃん」
「お久しぶりです、月島さん。あの…結局兄は…なぜこんなことに?」
こんな兄は見たことがない。私は兄の背中をさすりながら、大志に水を買いに行ってもらった。
「いやさ、俺も油断してたわけよ」
「何を?」
「まさか新婦側の親族席にいると思わないじゃん?親に縁切られたみたいな話は聞いていたし。だから本当に予想外で、晴人さ、あいつの顔見た瞬間から、取り乱しちゃってさー。宥めるために酒を飲ませ過ぎた。ごめんね?」
「それは構いませんけど…。あいつって?」
「工藤だよ、工藤綺羅」
「くどう?」
「まあ、今は苗字変えて田中になってたけど。院を出てから苗字変えたみたいだ」
「たなか…?院…?」
兄の因縁のライバルとかだろうか。私はキョトンと首を傾げた。
すると、月島さんは『あ、やばい』と言って自身の手で口を塞ぐ。
「ごめん、今の話は忘れて?」
「いやいやいや。めちゃくちゃ気になるんですけど」
「ごめんごめん。まさかまだ記憶戻ってなかったなんて思わなくて…」
「記憶?もしかして、私、何か忘れてるんですか?」
「あー、うーん…なんて言えばいいのか…」
私の問いに、月島さんは困ったような、どう誤魔化そうかと考えているようなそんな笑みを浮かべた。
今日の公園でのおじいさんのこともそうだが、確かに思い当たる節はある。
私は中3の頃の記憶だけ妙に薄い。断片的にしか思い出せないのだ。
しかし行事のこととか受験のこととか当時のクラスメイト名前とかは覚えているし、ただ単に記憶力が悪いだけだと思っていたけれど…。
(気のせいではない…?)
私がうーんと眉間に皺を寄せて必死に思い出そうとしていると、急に田辺さんが声を荒げた。
「随分の暢気なものね!!」
「…え?」
「晴人はずっと苦しんでるのに、原因のあんたは綺麗さっぱり忘れているなんて!!」
「ちょっとやめろ、田辺!」
「あんたいい加減にしなさいよ!?元はと言えばあんたのせいでしょうが!」
「私のせい…?」
「あんたのせいで晴人は外に出られなくなったのよ!外に出るのが怖くなったの!!ずっとずっと苦しんでいるのよ!!自業自得のくせに、なんで晴人だけが苦しまなくちゃいけないの!?」
田辺さんはものすごい剣幕で私に詰め寄る。月島さんは後ろから羽交い締めにするように彼女を宥めた。
「落ち着けって田辺。あれは結ちゃんは何一つ悪くないだろう?この子は被害者だ」
「被害者?善人ぶって首突っ込んだ結果でしょう!?だから自業自得だと言っているの!」
「え?え…?」
「昔からずっと気に食わなかったのよ!晴人に守られて、大事にされて、それを当たり前みたいに思っているあんたが!」
「田辺!やめろって!」
「田辺さ…」
「私は絶対にあんたのこと許さないから!」
田辺さんは本当に私のことを殺したいと思っているような鋭い目で私を見下ろした。
何の話をしているのか全くわからない。けれど、私が何かとんでもないことをして、それを都合よく忘れていることだけはわかる。
私は兄をぎゅっと抱きしめた。
「ごめん、妹ちゃん。こいつが言ったことは本当に気にしないで。君は何も悪くないから」
「…でも」
「悪いけど、こいつを少し落ち着かせたいからもう行くね。もし何かあったら連絡して。俺の番号は君の彼氏が知ってるから」
月島さんはごめんね、と言い、興奮する田辺さんを連れてそのままホテルを出て行った。
私は遠くなる二人の背中をただ呆然と眺める。
「私、何を忘れているの…?」
これだけ言われても思い出せないなんて、何を忘れているのだろう。
その後、ホテルスタッフに心配されたり、野次馬の視線がいたかっったりしたが、戻ってきた大志が全部対応してくれた。
そして二人で兄を抱えてホテルの部屋へと戻った。
(やっぱりいるんじゃん。元カノ…)
わかりやすい美人の元カノとか、兄は意外とモテたのかもしれない。
月島さんはとりあえず兄をロビーのソファーに座らせると、ふぅーっと息を吐いて兄の隣に座った。
兄はなぜか無の表情でホロホロと涙を流している。仕方なく私が顔を覗き込むようにして『大丈夫か』と声をかけると、彼は何も言わずにぎゅっと抱きしめてきた。
「何年経ってもシスコンは健在か。久しぶりだね、妹ちゃん」
「お久しぶりです、月島さん。あの…結局兄は…なぜこんなことに?」
こんな兄は見たことがない。私は兄の背中をさすりながら、大志に水を買いに行ってもらった。
「いやさ、俺も油断してたわけよ」
「何を?」
「まさか新婦側の親族席にいると思わないじゃん?親に縁切られたみたいな話は聞いていたし。だから本当に予想外で、晴人さ、あいつの顔見た瞬間から、取り乱しちゃってさー。宥めるために酒を飲ませ過ぎた。ごめんね?」
「それは構いませんけど…。あいつって?」
「工藤だよ、工藤綺羅」
「くどう?」
「まあ、今は苗字変えて田中になってたけど。院を出てから苗字変えたみたいだ」
「たなか…?院…?」
兄の因縁のライバルとかだろうか。私はキョトンと首を傾げた。
すると、月島さんは『あ、やばい』と言って自身の手で口を塞ぐ。
「ごめん、今の話は忘れて?」
「いやいやいや。めちゃくちゃ気になるんですけど」
「ごめんごめん。まさかまだ記憶戻ってなかったなんて思わなくて…」
「記憶?もしかして、私、何か忘れてるんですか?」
「あー、うーん…なんて言えばいいのか…」
私の問いに、月島さんは困ったような、どう誤魔化そうかと考えているようなそんな笑みを浮かべた。
今日の公園でのおじいさんのこともそうだが、確かに思い当たる節はある。
私は中3の頃の記憶だけ妙に薄い。断片的にしか思い出せないのだ。
しかし行事のこととか受験のこととか当時のクラスメイト名前とかは覚えているし、ただ単に記憶力が悪いだけだと思っていたけれど…。
(気のせいではない…?)
私がうーんと眉間に皺を寄せて必死に思い出そうとしていると、急に田辺さんが声を荒げた。
「随分の暢気なものね!!」
「…え?」
「晴人はずっと苦しんでるのに、原因のあんたは綺麗さっぱり忘れているなんて!!」
「ちょっとやめろ、田辺!」
「あんたいい加減にしなさいよ!?元はと言えばあんたのせいでしょうが!」
「私のせい…?」
「あんたのせいで晴人は外に出られなくなったのよ!外に出るのが怖くなったの!!ずっとずっと苦しんでいるのよ!!自業自得のくせに、なんで晴人だけが苦しまなくちゃいけないの!?」
田辺さんはものすごい剣幕で私に詰め寄る。月島さんは後ろから羽交い締めにするように彼女を宥めた。
「落ち着けって田辺。あれは結ちゃんは何一つ悪くないだろう?この子は被害者だ」
「被害者?善人ぶって首突っ込んだ結果でしょう!?だから自業自得だと言っているの!」
「え?え…?」
「昔からずっと気に食わなかったのよ!晴人に守られて、大事にされて、それを当たり前みたいに思っているあんたが!」
「田辺!やめろって!」
「田辺さ…」
「私は絶対にあんたのこと許さないから!」
田辺さんは本当に私のことを殺したいと思っているような鋭い目で私を見下ろした。
何の話をしているのか全くわからない。けれど、私が何かとんでもないことをして、それを都合よく忘れていることだけはわかる。
私は兄をぎゅっと抱きしめた。
「ごめん、妹ちゃん。こいつが言ったことは本当に気にしないで。君は何も悪くないから」
「…でも」
「悪いけど、こいつを少し落ち着かせたいからもう行くね。もし何かあったら連絡して。俺の番号は君の彼氏が知ってるから」
月島さんはごめんね、と言い、興奮する田辺さんを連れてそのままホテルを出て行った。
私は遠くなる二人の背中をただ呆然と眺める。
「私、何を忘れているの…?」
これだけ言われても思い出せないなんて、何を忘れているのだろう。
その後、ホテルスタッフに心配されたり、野次馬の視線がいたかっったりしたが、戻ってきた大志が全部対応してくれた。
そして二人で兄を抱えてホテルの部屋へと戻った。
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