上 下
8 / 42

7:ボーイズビーアンビシャス(1)

しおりを挟む
 やはり、桜は入学式を待たずして散った。今年は日程的にもタイミングが悪かったのだと思う。
 先日、県下にある全学部との合同入学式を無事に終えた私は学園都市という名の駅を降りた。
 ちなみに、学園都市というくらいだから、何となく学生が多くて大型の商業施設とかあったりして、さぞ栄えているのだろうと期待していたのだが実際には違った。この周辺は大学しかない。
 確かに、普通の四年生大学だけでなく、美大に外大、看護学校に情報系の専門学校まであるのだから、この場所を“学園都市”と称しても間違いではない。
 だがそれでも、勝手な話だとわかってはいてもどこか裏切られたような気分だ。

(ライトノベルを読みすぎたかしら)

 散ってしまった桜の上を歩きながら、私は大学の正門を通り過ぎる。
 絶妙に急な坂道を上りながら部活動やサークルの激しい勧誘合戦を掻い潜りつつ、たまに行き過ぎた勧誘を制止する自治会の方々のお世話になり、何とか一番奥の建物までたどり着いた。地味に遠い。
 
「何で手前の建物が教授の研究室しかない塔なんだよ…」

 この大学は学生が主に使う建物が階段を何段も登った先にある。学生に優しくない。

「この程度で疲れるなんて、ババアかよ」
「ババア言うな。おはよう」
「おはよう」

 階段を登り切ったところで、肩で息をする私の頭を小突いたのは高校時代の同級生、佐藤大志さとうたいしだった。
 男の人があまり得意ではない私だが、彼とは高校時代に同じ放送部に所属していたから今も割と仲がいい。
 
(金髪だ…)

 高校の時はもさっとした毛量の多い黒髪に分厚めの黒縁メガネをしていたのに、今は金髪にコンタクト。服装もなんだか今時の大学生みたいにおしゃれだ。

「…何?じっと見て」
「いや、大学デビューなの?金髪それ

 私が指摘すると大志たいしは髪を触り、わかりやすいほどに顔を赤くした。恥ずかしいらしい。

「…あ、あかんのか!デビューしたらあかんのか!」
「いや、似合ってていいと思う」
「あっそ」
「あんたって、結構整った顔してるよね。高校の時は分厚いメガネで気がつかなかった」

 くっきりとした二重線に長いまつ毛。鋭い直線的な鼻梁にしっかりとした眉毛。それに、何気に肌艶もいい。健康的だかつ白い肌をしている。

(女装コンテストとか出たらいい線いきそう)

 私は覗き込むようにジーッと彼の顔を見つめた。

「…ま、まじで何なん…そんなに見るな、あほ」
「あ、ごめん。つい」

 大志たいしは自分の手で私の目を覆うと、顔を逸らした。耳まで赤い。金髪にしようとも中身はピュアな童貞君のようだ。なんか安心する。
 
「おい、今失礼なことを考えたやろ」
「童貞っぽくてかわいいなとは思った」
「やっぱ失礼な奴や!」
「ごめんごめん。あ、そうだ。お昼一緒に食べない?お弁当持ってきたの」
「…例の兄貴弁当?」
「うん。大志たいしの分って二つ持たせてくれた。どうせ購買でご飯買うつもりなんでしょ?」

 私がトートバッグの中身を見せると大志たいしは中を覗き込んだ。ちなみに、曲げわっぱのお弁当箱が私で、レンチン可能なタッパに詰められたほうが彼の分だ。
 大志たいしは眉間に皺を寄せ、険しい表情を見せつつも『食う』と答えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

『 ゆりかご 』 

設樂理沙
ライト文芸
" 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始 の加筆修正有版になります。 2022.7.30 再掲載          ・・・・・・・・・・・  夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・  その後で私に残されたものは・・。            ・・・・・・・・・・ 💛イラストはAI生成画像自作  

私と継母の極めて平凡な日常

当麻月菜
ライト文芸
ある日突然、父が再婚した。そして再婚後、たった三ヶ月で失踪した。 残されたのは私、橋坂由依(高校二年生)と、継母の琴子さん(32歳のキャリアウーマン)の二人。 「ああ、この人も出て行くんだろうな。私にどれだけ自分が不幸かをぶちまけて」 そう思って覚悟もしたけれど、彼女は出て行かなかった。 そうして始まった継母と私の二人だけの日々は、とても淡々としていながら酷く穏やかで、極めて平凡なものでした。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

彼女は処女じゃなかった

かめのこたろう
現代文学
ああああ

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

お兄ちゃんは今日からいもうと!

沼米 さくら
ライト文芸
 大倉京介、十八歳、高卒。女子小学生始めました。  親の再婚で新しくできた妹。けれど、彼女のせいで僕は、体はそのまま、他者から「女子小学生」と認識されるようになってしまった。  トイレに行けないからおもらししちゃったり、おむつをさせられたり、友達を作ったり。  身の回りで少しずつ不可思議な出来事が巻き起こっていくなか、僕は少女に染まっていく。  果たして男に戻る日はやってくるのだろうか。  強制女児女装万歳。  毎週木曜と日曜更新です。

処理中です...