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第2章  兵士時篇

第70話 初陣

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 イプシロンが城に送られて約1年、兵士としての訓練が終わりを告げ、正規兵となった。正規兵となった後の配属先は国境警備隊兼、近隣の街への駐屯だ。配属後一ヶ月後、早速出撃命令が下り、今は初陣となる戦場に駐屯していた街から向かっていた。

 訓練兵として訓練施設に送られた後、全員元の名を捨てさせられており、雄馬は新たにオレイユと命名されていた。

 兵役者用の特殊な紋様を入れられており、上官の命令には絶対服従だ。兵役が終わるまで元の身分や名を誰かに名乗る事を禁じられている。

 これを破ろうとしたり、上官の命令に従わない場合は耐え難い苦痛が走る。上官になる者も新兵の元の経歴を知る者はいない。ひょっとすると同じ部屋で過ごした奴が貴族の子息や王族の可能性もある。

 オレイユはこの一年で身長が一気に伸びた。175cmへとあり得ない伸び方をし、痩せているが無駄のない逞しい躯体に鍛え上げられていた。あどけなさが残るがこの一年でおっとりした顔がきりっとした兵士のそれになっていた。

 とは言え隊長からすると、単なるガキやお子ちゃまにしか見えなかったりする。

 オレイユのいる小隊は隊長と副隊長以外は新兵で、4人一組で一つの班だ。その4人は訓練兵として寝起きを共にしてきた仲間だ。1小隊は新兵2班に指揮官2名の構成だった。

 小隊が10隊で中隊、中隊が10隊で大隊だ。そして10大が師団となる。10000人だ。

 訓練が終わり、一緒に徴兵された者達は総勢1500名。一年すれば500名、3年後には100名が残るかどうかと言うところだ。3ヶ月に一度これ位の人数が徴兵される。対象は新たに14歳になった者だ。
 オレイユは魔法適正が有るのだが、訓練兵になる時の適性検査時には魔法が発現しておらず、一般兵に分類されていた。

 オレイユの班は軽業が得意な小柄なロン、大剣を好む大男リュック、正統派剣士を目指す一般的な背丈のランバートの3人が仲間だった。ロンは口が聞けない。ただ、ランバートと元々知り合いだったようで、訓練兵の隊舎の部屋での初顔合わせの時に口が聞けない旨を説明していた。リュックは無口で滅多に喋らないが、上官からの質問等にちゃんと返事をしているから、口が聞けないわけではないのだ。

 最初はいがみ合ったが段々と打ち解け、今では一緒に厨房に忍び込み食べ物をゲットする仲だった。

 オレイユには秘密がある。
 記憶は無いが、その知識から自分がこの世界の住人でない事が分かっていた。禁止事項に当たらない為、異世界から来た筈だと伝えていた。何十年かに一度現れると言い例外なく不思議な力を持っていたり、複数のスキルを持っているのだと言う。

 有名なスキルは無限収納だった。打ち明けた後でランバートに言われたのは、これは自分の身分を明かす事になるのでは?で、その後それが頭に入ってしまい、二度と口に出来ず、皆も誰かに言えなくなっていた。

 オレイユはランバートは貴族か王族出身だと見ていた。手が綺麗過ぎるのと、剣たこしか無く働いた事の無い手にしか見えなかった。つまり、その手の状態こそが地位を物語っていたのだ。 

 収納スキルが有るのは訓練兵として訓練が始まり、兵役に就いた後も一蓮托生になると伝えられた後に4人が段々と打ち解けてきた時にカミングアウトしたのだ。皆からジト目で見られたので、じゃあ試すからと収納するとあっさりと出来たので皆が唖然としていたのを見てオレイユは笑い転げていた。以来今後に備えるのと、生き残る為にとして時折皆がくすねてきた物を収納にしまう。また生き残りとは別の話しだが、皆年頃の男子だ。禁止されている禁断の書物を隠していて、こっそり見ていた。時折抜き打ちで訓練中に部屋の中の物を確認され、他の部屋の者達はそれらの書物、勿論年頃の男子が見たがる物が次々と見付かり、大目玉を食らっていた。しかし、オレイユ達だけは一度も有ってはならない物の発見に至っておらず、教官から必ず尻尾を掴んでやると睨まれていたりした。

 だがしかし、収納に入れていれば見つからないものだ。

 訓練兵は時折雑用に駆り出される。輜重の積み込みや予備武器や矢の積み込み等だ。そのような時にはチャンスとばかりに荷馬車に積む時などにくすねていた。特に食料品をだ。ある時はテントを、またある時は騎士団の武器庫に武器を取ってくるように使いに出された時も武器類をくすねていた。新兵は手ぐせが悪いと皆盗みを働くのではと怪しまれてはいたが、リストの品以外身に着けておらず、持ち出した数と届けた数が必ず一致しているものだから、オレイユはブラックリストに載らずに済み、経歴は綺麗だった。

 また、街道の工事などで、特に力のいる重労働にも時折駆り出されていて、岩や切り倒した木等を収納に入れて今後に備えていた。突如大きな岩が消え失せて、誰かにそこに岩がなかったかと言われても4人が気のせいだと言い誤魔化してきた。

 初陣は国境付近での小競り合いだった。一個大隊が派遣され、オレイユ達の小隊に出撃命令が下った。

 馬車に押し込まれていたが、ひたすら暇だった。馬の数に限りがあり、基本的に隊長、副隊長以上は騎馬だ。新兵でも馬術に優れている者が伝令となるので、新兵は伝令要員以外は狭い馬車に押し込まれていた。国境から一旦引いていたが、オレイユ達は隣街の駐屯と兼任で、この日は駐屯任務だったのだが、国境を突破され、急ぎ馬車で1時間位の草原に来ていた。

 初陣は酷かった。
 国境を超えてきたのは一個大隊で、こちらも同数だったからだ。

 オレイユ達は必死に戦った。元々4人はオレイユをリーダーとしてバーティーを組んでいた。そう、オレイユにはバーティーを組む事が念じれば出来た。班でパーティーを組んだのは、加護を持っている者が入ればパーティメンバーに加護を得られるからだ。

 そのお陰で4人は矢傷を負わなかった。風の加護のお陰で矢が逸れるからだ。中隊が突撃を命ぜられ、オレイユ達は必死に戦った。

 敵を全滅させる事が出来はしたが、生き残ったのは200名少しで、所属していた中隊も4人以外は全て死んでいた。オレイユは初陣の最中、風魔法が使えるようになり、ウインドカッターを放てていた。剣で斬ったような切り口の為と、詠唱が必要なかった為、3人以外には分からなかった。また、やはり傷を治すヒールが使えるようになり、怪我をした3人を治しつつ戦っていた。生き残るのに必死だったのだ。兵役紋が有る為逃亡も出来なかった。

 そんな戦闘に幾度となく参加させられていたが、毎度小隊の4人のみは無傷であり、しかも大量の返り血を浴びていて、不吉がられていたのであった。
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