忘却の艦隊

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第15話 彷徨う

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 ダレン大佐の指揮下にある全艦が重力ジャンプを敢行し、消滅することもなく重力ジャンプから脱した時、彼らは驚愕した。
 到着した場所は第8惑星でも、その軌道ですらなかったからだ。

 そう、目的地に到着したはずの彼らが到着したのはライナン星系ではなかった。

 彼らが今見ているのは、自分達が知る宙域ではなかった。

 重力ジャンプから離脱した時、彼らは別の星系だった・・・ならまだマシだった。

 別の時代だった?

 別の次元だった?

 重力ジャンプを終えた時、全く異なる空間や、ひょっとしたら別の時間や次元に飛ばされている可能性が皆の頭をよぎる。

 初期評価は重力ジャンプの影響で、空間や時間、又は次元が不安定になっている場所に飛んでしまった!だった。

 ダレン大佐はブリッジから周囲の状況を確認し、驚愕した。

 そして今の状況に恐怖と絶望を感じるも、顔には出さないようにした。

「ここは一体どこだ?」

 ダレンは呟いた。

「これは一体どういうことだ??」

 彼は更に呟いたが、当然その答えを得ることができなかった。

 彼はただ、フェニックスクラウンと共に周りに何もない空間をただ漂っていることを感じた。

 自分と艦隊の命運をフェニックスクラウンと共に重力ジャンプに託した結果だ。
 
 運命はダレンを裏切ったのだ!

 いや、違う!
 少なくとも死からは免れた。
 重力ジャンプを敢行しなかったら、シュバルツシルト半径内にいる為、ブラックホールに飲み込まれ死んだことすら分からぬまま死んでいただろう。

 いや違う!それはパニックになった誰かが言い放った誤った事実だ。
 恒星に注ぎ込まれた質量はそれほどの量ではない。
 ただ、超新星爆発したのだ。
 内容は違うが、結果は同じだ。
 ジャンプしていなかったら確実に死んでいた。

 ただ、ダレン大佐が言ったフェニックスクラウンの重力ジャンプ装置は嘘だった。
 フェニックスクラウンには恒星から近い位置から安全に重力ジャンプを可能にする装置などなかった。
 ダレン大佐が持っていたのは、重力ジャンプの発動を規制しているセキュリティーを解除するプログラムやコードだった。

 ダレン大佐はそのプログラムを使って、恒星から近い距離で重力ジャンプを発動しただけだ。
 しかし、それはダレンが思っていたよりも危険なことだったが、自分と艦隊の命運を賭けたギャンブルに出たのだ。

 しかし、数分の観測結果から判明したのは、ここが通常空間だということだ。

 幸いなのは時間軸もずれていないはずだとの二次評価に至ったことだ。
 星が近くにない単なる虚空の空間に放り出されたのだ。
 彼らはただ、最寄りの恒星から1光年以上離れている空間にいた。
 追加観測により再び重力ジャンプ可能な重力が感知可能な位置に行くのに30年以上掛かることが判明したのだ。

 ダレン大佐は自分の失敗を悔やんだ。
 自分の選択を後悔し、自分の下した命令を呪った。
 そして自分の運命を嘆き自分の存在を否定した。

 しかし、それでも彼は生きていた。そして彼は指揮官であり艦隊全員の生命に対し責任を負っていた。
 それでも彼は希望を持ち、戦う意思があった。

 そんな中、隣に座るミズリア少尉がそっとその手に自らの手を重ね、首を横に振った。

「大佐?ここがどのようなところかはともかく、我々は生き残り、再び戦うチャンスを得ました。感謝こそすれ、恨む者はいません!少なくとも私は大佐の味方です」

 ダレン大佐はミズリアのその真っ直ぐな瞳にハッとなり、後ろ向きになってしまった気持ちを振り切った。
 彼は自分の立場、任務、仲間の事を思い出した。
 そして亡くなった家族の事を思い出し、彼らの分も生きると約束していた事が頭に浮かぶ。
 また、自分の意志や信念、そして誇りを取り戻した。

 ダレン大佐は帽子越しにミズリアの頭をぽんと軽く撫でると、ブリッジから全艦に向けて通信した。

「全艦に告ぐ。我々が今いる場所や時代、次元がどこなのかわからなくても、我々が今どういう状況にあるかわからなくても、我々は決して諦めない。我々は決して絶望しない。我々は決して希望を失わない」

 彼の声は激励と鼓舞だった。
 それは自身に対するものだったのかも分からない。

「全艦に告ぐ。我々はまだ生きている。我々はまだ戦えるし、きっと帰る事が出来る。我々は重力ジャンプが可能な位置まで移動し、本星へと帰還する方法を探す。必ずや本星へと帰還するぞ!」

 ダレンの声には確信と決意が感じられた。

「全艦に告ぐ。我々は新造艦を中心に破損艦の救助に向かう。まず我々は全艦の集合を果たす必要がある。我々は一つになる!誰も見捨てない!助けられる命は全て救う!ジャンプアウトした感の位置をすべて把握しろ!」

 彼の声は猛々しく、発せられたのは皆が待ち望んだ命令と指示だった。

「全艦に告ぐ。我々は一緒に生きる。我々は一緒に戦い一緒に帰る!」

 彼の声は誓いと約束だった。

「全艦、行動せよ!救助を待つ仲間を救え!」

 ダレン大佐が命令した。

 彼の声は艦隊中に届いた。

 そして、全艦が動き出した。

 ダレン大佐は旗艦フェニックスクラウンを率いて、最も近くにいる新造艦と合流した。
 彼は新造艦の中でも頼みの綱になる輸送艦と合流したのだ。
 共に守られる存在の為に近くにいたのだ。
 指揮官と連絡を取り、状況を共有した。
 彼は各新造艦に救助任務を割り振り、各自が最も近くにいる破損艦に向かうように指示した。

 ダレン大佐画乗るフェニックスクラウンも最も近くにいる破損艦に向かった。
 それは重力ジャンプでではなく、その前の戦闘で大破した輸送艦だった。
 その輸送艦は工作艦を兼ねており、多くの物資やクルーを運んでいた。

 その輸送艦は敵の攻撃を受け、船体が半ば千切れてしまい、乗員全員が死亡してしまっていたようだ。
 一気に空気が失われ、外に放り出された者もいただろう。

 ダレン大佐もその輸送艦の残骸に到着し、乗り込んだ。
 彼はその輸送艦の残骸から何かを回収できるかどうかを探したが、残念ながら生存者を回収、いや救助できなかった。
 死体はあったが、機密服を着ていなかったため真空にさらされ死亡したのだ。

 ダレン大佐はその輸送艦の残骸に哀悼の意を表し、大破した輸送艦の残骸に別れを告げると次の目的地に向かった。
 ただ、同様に大破した輸送艦が他にもおり、一切合切を取り込むよう新造輸送艦に指示をし、旧艦の一部を護衛に当たらせた。
 今後のとこを考えると、輸送艦が命綱となるからだ。

 仲間の艦は次々と破損艦に到着し、生存者や物資を回収していった。
 旗艦では次々と破損艦から救助信号や通信信号を受信して処理をする。

 次々と無傷の艦により破損艦から人員が救助されていった。
 ダレンの指揮の下全艦が協力し、救助を一段落した。
 破損艦のうち、爆破しなければならないような不安定な艦を除き、航行不能な艦に対し、旧艦が牽引に向かった。
 輸送艦で物資にしたり、破損した艦の修理用の部品取りに使うこともあるからと、可能な限り無人の艦も回収した。

 ミズリア少尉がダレン大佐のサポートを献身的に行い、本来彼にはできないような機転を利かせた命令を出せていた。

 やがて困難な作業の末、傷付きつつも生き残った艦とそのクルーも本体へ集合を果たした。
 ダレンはやがて全艦が一つになったのだと確信し、全艦へ帰還するぞ!と誓った。
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