上 下
113 / 125
第三章 事業発展編

第112話 終息宣言

しおりを挟む
 ロイが倒れ込んだ瞬間、周囲は一瞬の間、静寂に包まれた。しかし、その沈黙はすぐに緊張と心配の声に変わる。傍目からは、あろうことか大勢の目の前でロイが1人の少女を押し倒し、そして覆いかぶさったように見えた。

 フィーネは驚きながらもすぐにロイの体を支えるとそっと抱き寄せた。彼の呼吸が荒く、小刻みに震えていたからだ。震えが止まらないロイの頭を優しく自分の膝の上に乗せると、彼女の顔には深い心配の色が浮かんだ。

「ロイ! 大丈夫? しっかりして!」ソニアが駆け寄ってきた。ミンディーも直ぐにでもロイの介護をしたかったが、彼女の役目はロイを守ることにシフトしていた。

 周囲にいた魔法師たちはすぐに魔力の残量を確認し、回復魔法を準備し始める。一方、騎士団の者たちは、敵の襲来に備えて周囲を警戒する。

 ソニアとミンディー、エリナも心配そうにロイの様子を伺いながら、フィーネを励ますように肩を抱く。その時、ロイはゆっくりと目を開け、まずはフィーネの顔を見た。彼の口からは弱々しくも安堵の息が漏れる。

「心配をかけて・・・すまない。ちょっと力を使い過ぎたみたいだ。」

 その声に周囲の人々は安堵のため息をつき、笑顔が戻る。フィーネはロイの額に手を当てながら、彼の状態を確認する。

「無理は禁物です。あなたはもう十分過ぎるほど戦いました。今は休息を取るべきです。」

 ロイは彼女の言葉に頷き、ゆっくりと立ち上がると、周囲にいる全員に向けて感謝の言葉を述べた。いや、1人では立ち上がれず、肩を貸されていた。

「みんな、ありがとう。俺たちは一緒にこの戦いを乗り越えた。これからもどんな困難があっても、互いを信じて進んでいこう。引き続き後続が来ないか警戒をしてくれ。」

 その言葉に全員が力強く頷き、新たな絆で結ばれたことを実感する。この戦いを通じて、ロイとフィーネ、そして仲間たちは互いに深い信頼関係を築き上げた。そして、彼らはこれからも共に歩んでいくことを誓い、新たな日々へと歩み始めたのだった。

 しかし、無理をしたのもありそのひと言を発すると、ロイはその場に崩れ落ちた。
 咄嗟に動いたソニアとエリナに抱きとめられたが、直後に全身が激しく痙攣をし始めたのだ。
 この痙攣は、魔力の過剰使用による一時的な副作用である可能性が高く、魔法師たちはすぐに対処を始め、ロイの回復を最優先事項とした。

 フィーネはロイの手を握りながら、もうほとんど残っていないなけなしの魔力を送り続け、ロイが安らかに休めるよう静かに祈った。
 そして彼女は心の中で固く誓った。これからは、彼を守るためにも、自分自身の魔力をより賢く、より効果的に使うことを。彼らの物語はまだ終わっていない。これはただの試練であり、彼らが共に乗り越えるべき新たな冒険の始まりに過ぎなかったのだ。
しおりを挟む
感想 106

あなたにおすすめの小説

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

勇者PTを追放されたので獣娘たちに乗り換えて楽しく生きる

まったりー
ファンタジー
勇者を支援する為に召喚され、5年の間ユニークスキル【カードダス】で支援して来た主人公は、突然の冤罪を受け勇者PTを追放されてしまいました。 そんな主人公は、ギルドで出会った獣人のPTと仲良くなり、彼女たちの為にスキルを使う事を決め、獣人たちが暮らしやすい場所を作る為に奮闘する物語です。

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

そよ風と蔑まれている心優しい風魔法使い~弱すぎる風魔法は植物にとって最高です。風の精霊達も彼にべったりのようです~

御峰。
ファンタジー
才能が全てと言われている世界で、両親を亡くしたハウは十歳にハズレ中のハズレ【極小風魔法】を開花した。 後見人の心優しい幼馴染のおじさんおばさんに迷惑をかけまいと仕事を見つけようとするが、弱い才能のため働く場所がなく、冒険者パーティーの荷物持ちになった。 二年間冒険者パーティーから蔑まれながら辛い環境でも感謝の気持ちを忘れず、頑張って働いてきた主人公は、ひょんなことからふくよかなおじさんとぶつかったことから、全てが一変することになる。 ――世界で一番優しい物語が今、始まる。 ・ファンタジーカップ参戦のための作品です。応援して頂けると嬉しいです。ぜひ作品のお気に入りと各話にコメントを頂けると大きな励みになります!

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

処理中です...