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序章

第12話 クイーンの回収と天才の片鱗

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 解体場長であるガレスに、ギルドマスターから馬車を使っても良いと言われたと札を投げると、札の内容を確認することもなく許可を出してくれた。死体の回収に小型の馬車を簡単に借りられたのは、解体場が管理しているからだ。

「俺が用意しといてやるから、なんか食ってこい。な何も食っていないんだろ?さっきから腹が鳴っているぞ」

「ははは。お言葉に甘えさせてもらいます」

 ロイは猛烈にお腹が減っていたのもあり、ソニアと共にギルドの近くの店でお昼食としてパンと串焼きを買ったが、あっという間に平らげた。

 また、念の為道具屋にて1個につき1万リュピスする初級回復ポーションを3つ買う。出費が痛いが背に腹は代えられない。

 買い物を済ませるとソニアとともに解体場に戻ると、馬車に馬が繋がれていた。

「ガレスさん、あざっす!」

「いいってことよ。馬車なら夕方には帰ってこれるだろ!?無理はするなよ。帰ってきたらちゃんと話を聞かせてくれよ!」

「もちろんです!」

 そうやってガレスたちに見送られ町の外に向かう。

 ロイの御者で馬車が襲われた場所に向かうが、馬車を動かし始めてすぐにソニアが話しかけてきた。

「ロイは馬車を操れるのですね!流石です!馬を扱えるだなんて羨ましいです!」

「そう?まあ父が村長をしていたから、時折近くの町や村に買い出しに行っていたりしたからね。良かったらやり方を教えるよ?」

「あ、はい。ロイに助けられてばかりね」

「なんか言った?」

「ううん。教えてね!って言っただけですよ!」

 空荷であり概ね徒歩の倍のスピードで向かっていたのもあり、1時間ほどで馬車はゴブリンに襲われたところに来た。

 御者席に並んで座り、御者のやり方を教えていたが、えっ?と驚くような上達速度にロイは舌を巻く。
 まるでスポンジが水を吸収するかの如く、一度教えたり見せればもう身についているのだ。

 脇に馬車を避けてから馬を木に繋げると、ロイはソニアと共に街道を外れて林の中に入って行く。

「よし、ここから林の中に入るよ。ソニアはこれを持って」

 ロイはナイフを渡すが、ソニアはキョトンとしている。高そうなナイフだからだ。

「魔物が出ても守るつもりだけど、ナイフがあるのとないのでは違うからね。母さんからいざとなったら売れば良いからと渡されたナイフなんだ。ソニアが持っていて」

「そんな大事なのを私が?」

「うん。ソニアだから持っていて欲しいんだ」

「うん。大事に使うね」

 ソニアはうっとりとナイフを握りしめ、ロイの後を追う。

 ゴブリンクイーンに組み伏せられた場所は、馬車が襲われた所からわずか数分の林の中だった。
 ゴブリンクイーンの死体を目の前にしても、ロイの心は冷静さを保っていた。ロイの目的は明確だった。ゴブリンの討伐証明部位の切り出し、そしてクイーンの死体を回収することに尽きる。

 ソニアはその場で、ロイの行動を静かに見守っていた。ソニアは非戦闘系のポーターで、底辺の存在だが、空間の加護を持つ異空間収納のギフトを有している。
 ただ眺めているのではなく、周囲の警戒をしていた。

 ソニアの加護により約200kgまでの物を収納することができる。
 ソニアは時折解体場に来ては魔物を取り出しており、ロイとは仕事を通じて顔見知りとなり、気が付いたら同居までしている。
 もちろん男女のそれではなく、仲間として寝泊まりするだけだ。

「よし。これをお願いね。それとクイーンをお願い」

 ソニアが収納にしまうと、ロイは水がチョロチョロと出る生活魔法を唱えた。

「我が魔力を生活の糧に!ウォーター」

 指先からチョロチョロと水が出るので、クイーンに触れた手を洗ってもらった。
 3ヶ月かかりようやく生活魔法を覚えたのだ。

「じゃあ次はロイの番ね!我が魔力を生活の糧に!ウォーター」

 ロイは驚きつつ手を洗い、その場を後にした。

 ・
 ・
 ・

「なんだ。ソニアは生活魔法が使えたんだね。なら言ってくれたら良かったのに」

「ううん。ロイが貸してくれた魔法書を読んで覚えたのよ」

「へっ?」

 ロイは情けない声を上げた。

 自分が3ヶ月かかったのを、ソニアは5日で覚えたのだ。
 理解して魔法が使えるようになるのが難しく、普通は半年かかるそうだ。ロイが習得した3ヶ月はかなり早い方なのだが、いるところにはいるんだなと、井の中の蛙になってはならないと思うロイだった。

「実はソニアって天才じゃないの?」

 ロイは驚きのあまりつい呟いた。
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