上 下
74 / 87

第73話 ミレール

しおりを挟む
 ライがぐはっと唸りながら倒れた。しかも血を出していたのを見たメアリーが慌ててライをミレールから引き離しライに覆い被さり守ろうとした。そしてクラウディアは血まみれの手を震わせながら泣いているミレールを取り押さえた。

 完全に油断していた。念の為先にクラウディアが応接に入ったが、見知った顔だったからライに頷き、本人だと伝えたので無警戒だった。

 ミーニャ達が賊を捕らえに行ったようだから、その件で伝達にでも寄越したのだろうとクラウディアは思ったからだ。メアリーに対してミレールは卒業後迷惑じゃなかったらライにアタックしたいと、自分を子供扱いにしたあの堂々とした感じに惚れたとも言っており、メアリーはひょっとしてライに告白をしにきたのか?と思い警戒をしていなかった。弥生は後ろからついてきており、警戒以前の問題で、弥生が部屋に入る前に刺されたのだ。

 メアリーはライの胸からナイフを抜いた。ライは口から血を吐き出しながらもヒールを使い自らを治療していった。

 クラウディアはミレールをうつ伏せで拘束し、顔を床に押し付ける形で押さえつけていた。彼女は細身の剣を使う近接戦闘を得意とするが、体格の勝るクラウディアの拘束を振り解くだけの膂力はなかった。

 弥生はミレールの方を向き、その首にあるスカーフを外した。
 やはりと唸った。その首には隷属の首輪が装着されていたのだ。ミレールは突如苦しみだした。首輪が小さくなっていったからだ。弥生のギフトにて首輪を切断し、即座似新たな首輪を着けた。

 ライの方を見るとまだ立ち上がれないが、命に別状がないと分かった。

「クラウディアさん、もう大丈夫です。私の奴隷にしましたから、離してください」

 クラウディアが離すとミレールはゴホゴホと噎せていた。  

「貴女が何者か分かりませんが、今は一旦私の奴隷にしました。ライ様に権利を譲ります。ライ様の知己のようですし、隷属の首輪をつけられていますからライ様に判断を委ねます。もしライ様が死ぬような事になれば、私は躊躇わず即時に貴女を殺しますからね」

 弥生がミレーヌとライに同時に触れた。するとミレーヌがライの奴隷になった事が分かった。
 
「見ての通りライ様の奴隷になりましたし、この場にいる者には危害を加えられません。それと自殺も禁じました。何があったのですか?貴女はここに来た段階で既に奴隷にされていましたね?これは貴女の意思でやった事ですが?」

 ミレールはライを見て生きている事に複雑な思いがあり、咄嗟に墜ちているナイフを拾い自殺を図ったが、全身に激しい痛みと痺れが走りナイフを落とし未遂に終わった。

「死なせてください!後生ですから。ライ君を差したんです!死なせて下さい!」

「駄目だ!俺はお前の胸をまだ揉んで居ないぞ。ふたりきりになったら揉ませてくれるんだろ?死体の胸なんか揉みたくないぞ」
 
 皆がぱっと明るくなった。もうライが立ったからだ。

「俺の言いつけを守って女らしい格好をしているじゃないか。その姿ならモテモテだろ?どこぞの令嬢?かと思ったよ。綺麗になったね。そうだ、弥生、悪いけどスカーフを巻いてやって」

 ライはスカーフを巻くのを確認してから続けた。

「よし、それで俺を刺そうとしてみろ。それで自分の立場が分かるだろ?即死以外はヒールで治せるから」  

 ミレールは言われるがままにナイフを突き立てようとしたが、やはり取り落とした。

「これで今は俺の奴隷になっていると分かったよね?この襲撃は君の意志か?命令されて仕方なくか?前の首輪はもうないから、これを着けた奴の事を喋る事ができるぞ」

「怒っていないの?人質を取られ命令されていたからとはいえ殺そうとのよ!殺そうとしたというよりも、私は実際刺したんですよ?」

「怒っているさ!」

 ミレールはビクンとなり、殺されると覚悟をし目を瞑った。

「ミレールにコレを着けて、俺を殺すように強要した奴を!済まない。俺の所為で君達が巻き込まれてしまった。それでそいつは誰なんだ?」

「はい。ラングレイという大公家の嫡男です。弟と妹を人質に取られ、万が一私が弟達を見捨てて逃げ出さないようにと隷属の首輪をされました。ライ君、後生ですから私に死ねと言って!死なせてくれないのなら体で償わせて!私馬鹿だからこの体で罪を償う以外償う術を持ち合わせていないわ。隷属の首輪では本来出来ないけど、一生ライ君の性奴隷となって罪を償わせて!死か罪を命じてよ!もし、病気を心配しているなら大丈夫よ!私は生娘だから!それとも生娘が面倒ならどこかで捨ててくるから!」

「お前に償うべき罪はないぞ。お前の勘違いじゃないか?俺は怪我一つしていないぞ。クラウディア、ミレールに誰も刺されてなんぞいないよな?。それに始めては好きな人と過ごせよ!自分を大事にしろよ!自暴自棄になるなんてお前らしくないぞ!」

「ライ、そ、それは、そうだな、ミレールの勘違いだな。ライは怪我一つしていないぞ。ミレールのいう刺したのってどこだっていうのさ?刺し傷なんてどう見てもないぞ。服はさっき机の角にぶつけて裂けたんだろう」

 ミレールは顔を手で覆い泣きじゃくった。

「メアリーあれを頼む」

 メアリーは頷くとミレールの肩に手を置いてメンタルマッサージを使った。
 これは精神的に追い込まれていたり、混乱、極度の沈み込みを癒し、正常な状態にするものである。

「落ち着いた?君は悪くないよ。それよりも弟と妹が監禁されている場所に心当たりはあるのか?」

「皆さん取り乱して申し訳有りませんでした。残念ながら場所は分からないけど、連絡役の者にこれから首尾を伝える事になっているの。その者であれば或いはだけど、本当にごめんなさい」

「じゃあ俺の首を持っていき、君達の後をつけてみるか?」

「どういう意味なの?首を持っていくって意味がわからないよ!」

「ほらこれを持っていけば俺を殺した事と認めるだろう?そうだな、色仕掛に引っかかり、君を抱こうとしたが、油断していてあっさりと喉を掻き切る事が出来たとでも言えばいいさ」

「な、な、何ですかそれは?その、ライ君の御首そっくりじゃないの?。触った感じも本物としか思えないよ!」

「うん。俺のギフトで作ったんだ。ほらこの左腕も体全体を作り、そこから切り出した腕を繋げたんだ。まだ思うように動かないし、力も無いけど、軽い物なら掴めるんだ。まだ殆ど感覚がないけど」

 そうしていると何も知らないパトリシアが戻って来たのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ハズレ職の<召喚士>がS級万能職に化けました~世界で唯一【召喚スポット】をサーチ可能になった俺、次々と召喚契約して一瞬で成り上がる~

ヒツキノドカ
ファンタジー
 全ての冒険者は職業を持ち、その職業によって強さが決まる。  その中でも<召喚士>はハズレ職と蔑まれていた。  召喚の契約を行うには『召喚スポット』を探し当てる必要があるが、召喚スポットはあまりに発見が困難。  そのためほとんどの召喚士は召喚獣の一匹すら持っていない。  そんな召喚士のロイは依頼さえ受けさせてもらえず、冒険者ギルドの雑用としてこき使われる毎日を過ごしていた。  しかし、ある日を境にロイの人生は一変する。  ギルドに命じられたどぶさらいの途中で、ロイは偶然一つの召喚スポットを見つけたのだ。  そこで手に入ったのは――規格外のサーチ能力を持つ最強クラスの召喚武装、『導ノ剣』。  この『導ノ剣』はあらゆるものを見つけ出せる。  たとえそれまでどんな手段でも探知できないとされていた召喚スポットさえも。    ロイは『導ノ剣』の規格外なサーチ能力によって発見困難な召喚スポットをサクサク見つけ、強力な召喚獣や召喚武装と契約し、急激に成長していく。  これは底辺と蔑まれた『召喚士』が、圧倒的な成長速度で成り上がっていく痛快な物語。 ▽ いつも閲覧、感想等ありがとうございます! 執筆のモチベーションになっています! ※2021.4.24追記 更新は毎日12時過ぎにする予定です。調子が良ければ増えるかも? ※2021.4.25追記 お陰様でHOTランキング3位にランクインできました! ご愛読感謝! ※2021.4.25追記 冒頭三話が少し冗長だったので、二話にまとめました。ブクマがずれてしまった方すみません……!

【3章完結】隠れ主人公にざまぁされた勇者は辺境でスローライフを送ります~今頃お前の、勇者の力が必要だと言われても、魔王になったのでもう遅い~

柊彼方
ファンタジー
「レイ…………今日でお前はクビだ」 「え……………」  ある日、勇者であるにもかかわらず、力不足という理由で俺は勇者パーティーから追放されてしまう。  しかし、俺もそこまで勇者という肩書に興味がなかったのでそこまでショックではなかった。 「おっしゃああああぁぁぁ!」  しかし、そう簡単にうまくいくはずがなく………… 「な、なんでお前がモテてんだよぉ!」  勇者パーティーを抜けた理由の一つである恋愛禁止がなんとなくなっており、元勇者の俺ではなく現勇者のカルマがモテまくっていたのだ。  そう。隠れ主人公にざまぁされたのだ。 「もう…………いいか…………」  勇者とかいう重い肩書きがなくなった俺は辺境でのんびり暮らすことにした。  しかし、そこは辺境ではなく………… 「「「魔王様! お帰りなさいませ!」」」  これは、勇者パーティーにいたため抑えられていた俺の力が追放されたことによって爆発してしまい、辺境や学園で呑気に暮らすような物語。  え? 呑気? いいえ。本当は配下たちも山ほど増え、一国の王になります。  本当のことを言うなら、これは元勇者が魔王になってもう一度主人公に返り咲くような物語。 *6月16日 ホトラン54位! 6月18日 ホトラン18位!

地味すぎる私は妹に婚約者を取られましたが、穏やかに過ごせるのでむしろ好都合でした

茜カナコ
恋愛
地味な令嬢が婚約破棄されたけれど、自分に合う男性と恋に落ちて幸せになる話。

お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。

ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの? ……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。 彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ? 婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。 お幸せに、婚約者様。 私も私で、幸せになりますので。

「異世界で始める乙女の魔法革命」

 (笑)
恋愛
高校生の桜子(さくらこ)は、ある日、不思議な古書に触れたことで、魔法が存在する異世界エルフィア王国に召喚される。そこで彼女は美しい王子レオンと出会い、元の世界に戻る方法を探すために彼と行動を共にすることになる。 魔法学院に入学した桜子は、個性豊かな仲間たちと友情を育みながら、魔法の世界での生活に奮闘する。やがて彼女は、自分の中に秘められた特別な力の存在に気づき始める。しかし、その力を狙う闇の勢力が動き出し、桜子は自分の運命と向き合わざるを得なくなる。 仲間たちとの絆やレオンとの関係を深めながら、桜子は困難に立ち向かっていく。異世界での冒険と成長を通じて、彼女が選ぶ未来とは――。

【完結】お飾り契約でしたが、契約更新には至らないようです

BBやっこ
恋愛
「分かれてくれ!」土下座せんばかりの勢いの旦那様。 その横には、メイドとして支えていた女性がいいます。お手をつけたという事ですか。 残念ながら、契約違反ですね。所定の手続きにより金銭の要求。 あ、早急に引っ越しますので。あとはご依頼主様からお聞きください。

異世会男子の聖女物語〜能力不足の男として処刑放逐した召喚者は実は歴代最強勇者(男の娘判定)だった!〜変装の為の女装だ!男の娘言うな!

KeyBow
ファンタジー
召喚時に同名の幼馴染と取り違えられ、勇者と聖女がテレコになった。男と言うだけで処刑の為追放される。初期に与えられたギフトは異空間収納と一日一度限定の時間遡行のみ。生き延びられるか?召喚される前に、異世界で知り合った謎の美少女達と逃避行をする為に女装している夢を見たのだが・・・

悪役令嬢は、初恋の人が忘れられなかったのです。

imu
恋愛
「レイラ・アマドール。君との婚約を破棄する!」 その日、16歳になったばかりの私と、この国の第一王子であるカルロ様との婚約発表のパーティーの場で、私は彼に婚約破棄を言い渡された。 この世界は、私が前世でプレイしていた乙女ゲームの世界だ。 私は、その乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった。 もちろん、今の彼の隣にはヒロインの子がいる。 それに、婚約を破棄されたのには、私がこの世界の初恋の人を忘れられなかったのもある。 10年以上も前に、迷子になった私を助けてくれた男の子。 多分、カルロ様はそれに気付いていた。 仕方がないと思った。 でも、だからって、家まで追い出される必要はないと思うの! _____________ ※ 第一王子とヒロインは全く出て来ません。 婚約破棄されてから2年後の物語です。 悪役令嬢感は全くありません。 転生感も全くない気がします…。 短いお話です。もう一度言います。短いお話です。 そして、サッと読めるはず! なので、読んでいただけると嬉しいです! 1人の視点が終わったら、別視点からまた始まる予定です!

処理中です...