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第56話 罠

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 皆が正気に戻ると対策会議を開く事にしたが、ラルファには領主代理に顛末を報告に行って貰った。

 逃げた者がいるとの事だから、また襲ってくるのだろうなと意見が一致した。

 ではどうするか?となった。

 ライは予め断りを入れた。

「今ここで出る意見は敵も考えている可能性があり、否定するにしろ、採用するにしても、向こうが考えていそうな事を確認するのが目的だよ。だから否定される事を恐れずに意見を言って欲しい。もちろん大半の意見は色々問題があり却下する事になるけど、多くの意見の中に最適解が見つかるかもだし、俺一人の考えでは思いつかない事も有るとおもうんだ」

 そのように前提条件をつけた。

 まず手を挙げたのはユリカだ。

「あの、暫くの間ライ様が私の家に寝泊まりするというのはどうでしょうか?」

「1日か2日だとそれもいいと思うけども、何日もは無理かな。学園に行かなきゃいけないし、そうするとこの家にいないと分かったら後をつけて滞在している場所を突き止めようとするかな」

 次にメアリーが手を挙げた

「じゃあ毎日寝る所を変えてみたら?例えばユリカのところ、次が私のところ、その次がこの屋敷、その次が元の家とかはどうかな?」

「うんそれも中々居場所を特定するのは難しくなると思うけれども、先に言った通り後をつけられたら終わりなんだよね。目くらましにはなるとは思うけども」

 次にクラウディアが手を挙げた。

「居場所が突き止められると言うならば、この屋敷以外で寝泊まりするのはかえって危険なのだな。ならば屋敷の周辺に護衛の兵を配置すれば良いのではないか?」

「うん、確かにそれもいいかもね。でも今度はそれだと相手の尻尾を掴めないんじゃないかな?」
  
 ミーニャがため息をつきつつ話し始めた。

「何そんな事を言ってるのよ?そんなの無警戒を装ってこの部屋に罠を張ればいいだけの事でしょ?のこのこと暗殺しに来たところを捕えればいいのよ。違って?」

 ミーニャの一言にライが食いついた。

「具体的にどんな感じになるかな?」

 ミーニャの話はこうだ。ライをベッドに寝かせるのではなく、クッションなどでそこにあたかもライが寝ている感じの膨らみを作り、ライが寝ているのを装う。

 敢えて部屋の周りには護衛等を置かずに、無警戒を装う。予めクローゼットなどを多目に配置しておき、その中に皆が隠れる。そしてのこのことライを襲いに来たところを皆で全力で捕える。もし取り逃がした場合に備え、ラルファは追撃体制をとる。そんな感じだった。

 パトリシアが手を挙げた。

「確かに良い案だとは思いますが、もっと細かく検証しないとでしょう。まずクッション等を置いてしまえば生きている者がそこにいる気配がしないので、襲撃されない可能性があります。暗殺者は気配に敏感かと思います。これはどうしましょう?」

 ライが手を挙げた。

「分かったよ。確かにパトリシアの言う通りだね。そこは俺がベッドで横になっていれば良いだろ?他の者に頼む訳にはいかないしな」

「それだとライがベッドで一人というのは危険じゃなくて?」

 ラルファがミーニャを見た

「ミーニャ、危険だがライと一緒にベッドに入り、布団の中にずっと潜る事が出来ないだろうか?息苦しいかもだが、私やクラウディアでは背が高過ぎて頭が見えてしまう。ベットには一人しかいないと思った方が相手も襲い易いと思うのだがどうだろうか?」

 妹が手を挙げた

「私が兄様と一緒にいましょうか?私も小さいですよ」

 そう実際問題ミーニャと同じぐらいの身長だ。まだ12歳だからだ。

 ラルファが首を横に振った。

「ニース殿の申し出はありがたいのだが、残念ながらニース殿には戦う力がない。少なくとも剣をある程度扱えるか、魔法で相手を弾き飛ばす、それ位の力がなければライの足を引っ張ってしまう。だから気持ちだけありがたく受け取らせてもらおう」

 ニースはしょんぼりとしていた。ニースは最近すっかり一緒に寝てくれなくなった兄と一緒に寝られるチャンスと思ったから、駄目だと言われしょんぼりとしたのだ。

 あまりにもしょんぼりしているので、パトリシアがついボソッと言ってしまった。

「ライ様のスキル付与であればニース様も魔法が使えるようになるのではないでしょうか?魔力は誰でも持っているのに、多くの者は適正属性を持っていません。その為に魔力を外に出せませんが、スキルさえ有れば魔法もいけると思いますよ」

 ニースがパッと明るくなった。

「兄様!そのような事ができるのですか?私にも魔法が使えるようになるのですか?」

 ライはため息をついた。

「うん、出来なくはないのだけれども、そのなんだ、さっき言ったと思うけど、スキル付与をするのは絶対に女にしかしないって言ったよね?」

「はい、確かに兄様は言いましたわね」

「そのなんだ、スキルを付与する時にある条件があって、実の妹とそれをするのはどうかと思うんだ」

 なるほどと頷きクラウディアが告げた。

「男女の契りをするのだな?なるほど、それならば妹君とは厳しいな」

 ライは真っ赤になっていた

「違うよ。それじゃないよ。その舌を絡めないとダメなんだ。ベロとベロが当たっていないとダメなんだよ。キスならまだいいけども、舌を絡めなきゃならないんだぞ!少なくとも気持ち悪くて男相手にはやれないぞ」

「その、舌をこうやって突き出して、舌と舌が当たっていればいいのですわね?キスではないのでしょう?別段キスされても構いませんわ。その、私のファーストキスの相手が兄様でも構いませんわ。それに兄様のお嫁さんの一人にしてもらっても私は構わないのですよ!」

 ライは真剣に話をした

「知ってるだろうが、この国では近親者の婚姻が認められていない。俺も生物として駄目な事だと知っている。特に俺のように魔法を使える者はダメなんだ。それだけじゃない。愛し合って子供ができたとして、その子供に異常が発生する確率が高くなるんだ。これは近親交配と言って、獣でも避ける禁忌なんだ。獣は本能がそれを知っている。俺の事を好きだと言ってくれるのは嬉しいけども、基本的にニースとの間に子をなすのは不幸な結果になる。もし本当に俺の妻の一人になると言うなら子を産めないと思って欲しい」

 あまりにも真剣に言ったのでニースは俯いた後にくすくすと笑った

「冗談ですわよ。兄様?まさか本気だと思ったのですか?その、確かに私も好きな人とのキスがファーストキスでありたいとは思うので、なるべく唇と唇が当たらないようにしてもらえれば嬉しいですわ。それはいつやってもらえるのですか?」

「分かったよ。確かに今後の事を考えると、ニースも自衛できるぐらいの力は持っていないとダメだと思う。だから今から魔法のスキルを付与したいな。でも今までに魔法やスキルを作った事がないから、それが出来る条件が整ってから彼女達にまず付与を行い、きちんとできる事を確認してからかな。それに今はまずこの危機を乗り越えなきゃだし、唇に当てず、舌と舌のみ当てる練習を彼女達とするさ」

 それとスキル付与は能力に制約がある。自力や生まれ持って持っているのに比べれば力が最大半減するのだ。だから自力で得られる可能性のあるのは避けなければと思うライであった。
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