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第45話 捧げられし剣と国王

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 ライの復帰1日目は講義室に入った途端にひと騒動があったが、それ以外は特に何もなく平和そのものだった。

 まだダメージが抜けていないし、明日に備えてこの日は久し振りに自分の部屋で寝る事になった。ミーニャも流石に家族水入らずに水を差す事ができず、ライのところに転がり込むのを断念せざるを得なかった。

 勿論ライは帰ってきてから家族と会ってはいるが、何かと来訪者が絶えず騒がしく、ライの家の大きさでは対応が難しかった。その為、少ししか話が出来ず、家族は片腕となり半病人の状態に狼狽えていた。特に妹の狼狽ぶりが激しかった。

 見兼ねたメアリーの両親が翌日に、こちらで寝泊まりするようにと手を差し伸べてきたので、結局甘えてメアリーのところに転がり込んでいたのだ。

 それと正式に婚約者となった。

 復帰後はやらねばならぬ事が目白押しだった。翌日には大事な行事があり、ライはそれに備えて早目に休んでいた。
 学園には魔法等の試合や各種訓練や練習をする為の広い練習場がある。そこに全校生徒が集まり、ライ達ダンジョン攻略班が帰還した事の報告及び、亡くなった者の追悼の儀式、ミーニャ達の転入の報告、ダンジョン攻略者のお披露目の場になっており、やる事が目白押しだ。そこは日本の地方の陸上競技場の作りに近く、ほぼ正確な400mトラックがあった。

 町長を始め、各方面の主だったものが来るのだ。王都から比較的近いので、ライのいる町は直轄領で町長は国から派遣された役人だった。

 その時ライは知らなかったが、お忍びで国王が来ていた。ライの体調の回復がかなり遅く、未だ一人で歩ける迄に回復していない。養生する為に地元に帰り、仲間の死亡報告を家族の元にしに行くと聞いていたので、自宅に帰る事に対してとやかく言う筋合いはないとして黙って送り出し、謁見させるのを見送ってはいたが、ダンジョンをクリアしたライの人となりをこの目で見ておきたかったのだ。

 ただ、寝込んで意識の無いライの所には治療団に潜り込んで直接見に来てはいて、それを見たミーニャが呆れていた。勿論ミーニャ達はずっと張りついていたので、その時は直ぐに気が付いた。お祖父様と言ってもまだ50歳になっていない壮年の国王が、お忍びで覗きに来たのを見た時にはやはりこの人は見に来たか!と思った位に奔放な国王だ。

 挙げ句これがミーニャのハートを射止めた王子様か!と言い、今のままだと身分が足らんなと言っていたのを思い出した。問題はなんの爵位をビークル家に授けるのかだ。これでお互いに貴族の子息子女となる。ただ自分は王族だと、その辺りをどうするかと悩んでいたのだ。

 とっとと既成事実を作り、最悪は王位継承権を放棄し、半ば駆け落ち状態でライの妻の一人に収まる事すら考えていた。

 この世界ではまずもって王族と平民の婚姻は許されないからだ。男爵でも良いから、大手を振って結婚するのには何かしらの爵位がライには必要なのだとミーニャは理解していた。

 その為、折を見て国王にダンジョンクリアの褒美としてライに爵位を授けて欲しいですと、又はライを王家に迎え入れる為に自分を褒美として差し出し、王族の夫とし、貴族の仲間入りをとお願いするつもりだった。 

 国王の命とあらば、周りは反対出来ない。ミーニャが反対すれば別だが。

 国王はお忍びで学園関係者の来賓として、そう、その他もろもろの十把一絡げの頭数揃えの為として出席している者の一員とし、その中に紛れ込んでいた。

 その為、護衛の者は老齢の者になっていたりする。

「・・・であるからにして、この度無事にとはいえないが、生きて帰還したのみならず、ダンジョンが出来てから約600年誰もなし得なかったダンジョンクリアという覇業をなした初クリア者のダンジョンクリア者にしてダンジョンマスターとなった我らのラインガルト君の功績をここに称える!」

 ミーニャ達が先に紹介されており、ユリカとメアリーも紹介された。そしてパトリシアが紹介され、最後のライが紹介されていた。拍手喝采が起こり、練習場の扉からライがゆっくり、ゆっくりと歩いて来るのを皆固唾を呑んで見守っていた。

 まだ体力が回復しておらず、あまり長い距離を一人で歩く事ができない。本来であれば回復するようなダメージなのだが、ダンジョンの設定変更による影響から回復が遅く、回復魔法も効かなかった。ただ、徐々にではあるが回復してはいた。

 ライは必死に歩いていたが、残り半分というところで膝をついてしまった。ゼーゼーハーハーとかなり息苦しくしており、手で胸を押さえていた。

 前方に並んでいたパトリシアとラルファが慌てて駆けつけようと走り出した。そう、ライに肩を貸そうとしたのだ。

 ライは女二人に肩を貸してもらいながら歩く事になりそうだった。

 国王はライが回復しきっていないとは聞いていたが、そんな状態なのに必死に歩いているライの姿を見てつい駆け寄ってしまった。パトリシア達がライのところに駆けつけるより先に国王がライの所についたのだ。

 その場にいた者は皆が思った。誰だこの人?と。

「ライ君だったね。さあ私の肩に掴まりなさい。ダンジョンクリア者とはいえ、女性の肩に掴まっていては格好がつかないぞ」

「ははは、そうですね」 
 
 ライはそこにいるのが誰か分っていた。そう彼が駆け付けた瞬間に誰だ?となりステータスを見たからだ。どう見ても普通の来賓の者の服装をしていてステータスを見るまでは分からなかった。

 護衛の者達はあちゃあ!という顔をし、手で顔を覆っていた。またミーニャもまさかとは思ったが、ライに話し掛けている者の声が聞こえた。

 口調も間違いなく、誰なのかが分かり全くこの人は!と唸っていた。

 お忍びでしかも毎度護衛を巻いて街に繰り出す事で有名な国王である。一部からは黄門様とも言われていた。

「助けて頂いてなんですが、こんな所でこんな事をしていても良いのですか?それに護衛の方達が泣いてますよ」

「ほう、もう見破ったのかい?流石だね。皆その顔に騙されるのだろうな。しかし、なる程な。あの子が熱を上げ惚れる訳だ。しかし、いつ分かったのかい?今回は完璧な変装の筈だけど?」

「うーん、僕に向かって来た段階であの方と名前が一緒だなあと。僕のギフトを聞いていませんか?ステータスが見えるんですよね。えっと、今は誰さんという事にすれば良いのですか?」

「ほう、驚いたな。君は物怖じしないのだな。ふむ、その胆力、あの姫騎士が落ちる訳だ。そうだね、私の事は今はトーマスと。一応王都の冒険者ギルドの副マスターって事で来ているからね」

 パトリシアはラルファが立ち竦んでいるのを見て様子を窺っていた。ラルファもライに誰が肩を貸しているのかが分かり唖然としていて、その後ろをトボトボとついていた。

 結果的にパトリシアとラルファは儀仗兵の代りになっていた。パトリシアは和服、ラルファは中二病チックなデザインの式典用の鎧を着ていた。

 事情を知る司会が慌てて軌道修正をした。  

「それでは王都の冒険者ギルドの代表兼国王陛下の代理として出席されております、我が国の冒険者ギルドの副ギルドマスターのトーマス殿に目録を授与して貰いましょう!」

 本来は王都の学園長が行う筈だったのだが、それを急遽人を変え行う事にした。ここにいるのが国王だと大っぴらに知られるのはまずいからだ。出番が近かったからこの人はライに助け舟を出した事にしようとしたのだ。

「短めに行こうか。語るまでもないが、魔王が討伐され早600年。この間、誰もなし得なかった偉業を一人で成し遂げたラインガルド=ビーグル殿に敬意を払い、ここに国王の名の元に爵位を授ける」

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