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第44話  だーれだ?

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 ライが久し振りに学園に来ると聞いてひと騒ぎがあった。一目その雄姿を見ようと学園の入口に人集りが出来たのだ。

 騒ぎを聞きつけた教師が解散させたり、講義室まで付き添ってくれたので何とか席に辿り着いていた。
 ほぼ同時に担任の教師が入って来た。

「はい皆さん座ってくださいね。もう気付いているかと思いますが、今日から我らが 英雄であるライ君が復帰しました。分かっているとは思いますが、まだ完全に回復している訳ではありませんから、あまりライ君の負担になるような事をしないように」

 皆が一斉におかえりとか、俺はお前が大物だと分かってたぜ!こいつはいつか何か凄い事をやる奴だとな!流石10位だ!等と今までと態度がコロッと違うのだ。

「はい、静かに!それとここにいるパトリシアさんは暫くの間ライ君の介添をする為につきっきりで世話をしているので、残り短い期間ですけれども彼女も私達の仲間となり、後ほどクラスの一員になるので失礼のないように」

「パトリシアと申します。我が主ライ様のお世話をさせていただきます。よしなに」

 一騒ぎがあった。ものすごく美人な大人の女性がライを我が主と言ったのだ。

 そんな人騒ぎがあったが、扉がばーんと開いたので後ろの方を見た者により更にざわめきが起こった。ライの後ろから入ってきた者を見てざわめきが起こったのだ。

 3人の女生徒が入ってきたのだが、そのまま一直線でライの背後に回ったかと思うと、そのうちの一人がいきなりライの顔を手で覆ったのだ

「だーれだ♪」

 斜め後ろに付き従っていた美丈夫もとい、男装の似合う女騎士が声を発した。ライは唖然としたが周りの生徒達も唖然としていた。

「あれ?そんな筈はないんだけどな?僕の耳がおかしくなったのか幻聴かな?ラルファの声がするけども、この小さな手はラルファの手じゃないよね?なぜだろう?ミーニャの手のような気がするんだ。そんな筈はないんだけどな。香水もミーニャ達の使っているのと同じだな。確かにアイツラに会いたいけどさ、僕は遂に白昼夢を見るようにまでなってしまったのかな?」

 ライの後ろにいた女生徒が顔から手を離し前に回った。そしてくるっと周り、スカートをちょこっと摘み、淑女の挨拶をした。流石に王族だけあって完璧な所作だ。

「うふふライ様お久しぶり。って数日ぶりですわね」

 ライはついつい頬に手をやり本物か確かめていた。

「ライしゃまはちゃんしょ私の手の感触を覚えちぇいてくれたにょね。うふふ。来ちゃった!」

 ライが顔を触っているのに怒りもせず、その手にそっと自らの手を重ねていた。

 本物と分かるとライはウヒィあああぁと叫びながら講義室の反対の方までひとっ飛びで飛び去った。

「ど、ど、どうしてここにミーニャが!しかもなんでラルファとクラウディアまでいるんだよ!お、お前ら卒業するまで王都の学園にいるんじゃないのかよ?」

「あら?つれない事を言うのですわね。私と再会して喜んではくれないのですか?」

「そりゃあ僕に会いに来てくれたのは嬉しいけどさ、だーれだ!はないだろう?お前一応王族だろ?」

「だーれだをしちゃだめでした?」

「そりゃあ可愛いけどさって違う!俺に会いに来る程お前ら暇じゃないだろ?一体何をしに来たんだよ?」

「あら、可愛いと言ってくださるのね。ありがとう。そうですわね。取り敢えず今の段階で来たのは明日の式典に参加をする為ですわ。それとライ様は確かに言いましたわ。私達がダンジョンの影響から抜けて、それでも尚ライ様のパーティーに入るというならば受け入れてくれると。ですからこうしてライ様のパーティーに入る為に来たのですわ」  

 ライはあっと唸った。確かに言った記憶がある。

「それにラルファもライ様にもう一度剣を捧げると言っておりますわ。勿論受け取りますわよね?」

 皆唖然としていた。ミーニャが何者かという事が分かっているからだ。二日前に突如転入生として来たのだ。彼女も有名だ。
 ライ達の次に入ったパーティーと聞いているが、彼女達もダンジョンクリア者なのだ。ダンジョンクリア者がこの600年いなかったにも関わらず、今年2組がクリアしたのだ。

 ミーニャが雲の上の存在、公爵家の令嬢だというのは有名な話だ。母親が国王の娘で、基本的に娘は公爵、息子は大公だ。つまりミーニャは国王の孫で、その多くいる孫の中でもミーニャが一番可愛がられており、懐刀とさえ言われている。またミーニャの公式の付き人は姫騎士のラルファだ。そしてライが彼女達の事を呼び捨てにしていた。

 そう、ライは王都にいる時に、途中からミーニャ達の求めに応じて彼女達の事を呼び捨てにしていたのだ。皆の前で呼び捨てにしているにも関わらずミーニャ達もそれを咎めなかったし、それどころか心地よく受け入れていたからだ。

「ライ 様でも狼狽える事があるのですわね。さすがのライ様でも私達がここに来る事は予測できなかったようですわね。ふふふ。申し訳ありませんが、私は一度ターゲットにしたモノは地獄の底までも追い詰めてでもモノにしないと気が済みませんのよ。お分かりでしょ?」

「はあ。お前らがここにいて王都の方は大丈夫なのかよ?」

「大丈夫ですわ。向こうにはダンジョンクリア者が一人おりますもの。体面的にも大丈夫でしょう。見ての通りフォッカーは向こうに置いてきておりますわ」

 ライはパトリシアに肩をポンと叩かれ項垂れていた。そうその叩き方というのは諦めろというような感じで、可哀想な子を見る目でよりによってパトリシアにそうされたのだ。

「ああもう、分かった、分かったよ。俺達もちょうど3人になっちゃったから、お前らを入れて6人のパーティーにしてやるよ。それと卒業後はパトリシアを入れてパーティーを組み、7人で冒険者をする!それで満足だろ?」

 そう基本的にこれからは学園での模擬試合なども6人のパーティーでやらなければならない。パトリシアはもちろん誰かのパーティーに入るわけではない。年齢が違うからだ。どちらかと言うとライの世話をしつつ講師のお手伝いをする立場になっている。または試合の時の審判などを務めるのだ。

 ライ達の会話を聞いていた生徒達が皆唖然としていた。貴族でもないライが上級貴族のミーニャと対等どころか、上から目線で話をしているからだ。しかもどう見てもミーニャが押しかけ女房なのだ。そしてラルファだ。彼女もまた姫騎士として剣の才能に溢れた才色兼備として有名だった。それに大の男嫌いとしても有名だ。そんな彼女が剣を捧げると言っており、しかも再びと言うのだ。極め付けは実際に今この場で剣を捧げようとしていた。ただ、制服の為場違いだ。

 講師から待ったが入った。

「ラルファさんちょっとこちらに来なさい」

 耳元でボソボソと講師が呟いた。講師は20代前半の若い女性で魔法を担当している。おっとりとした優しいタイプの講師だが、ラルファに助言を与え、この場で剣を捧げるのはやめなさいと言い、ラルファもその助言の内容から納得していたのであった。
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