上 下
22 / 87

第22話 謎の女

しおりを挟む
 ライが転生時の出来事を見終わると同時に、前世の記憶が蘇ったが、今更だなと思った。

 確かにおっさん臭いなとか、落ち着き過ぎているとか、子供らしい所が少ないと言われていたが、そういう事だったのかと。おっさん臭いと言われていたのも無理もない。実の所前世で死んだ時はまだ青年だった。そう、30代の精神の持ち主が記憶をなくして転生していたのだ。

 しかし、ライは前世の事は忘れ、やはりライとして生きようと再決心した。だが、前世の記憶はこの世界を良くしたり、メアリーやユリカを喜ばすのに使おうと思ったりはした。

 ただ、最早勇者にはなりたくはないと思ったが、嫌な予感しかしなかった。ライの嫌な予感は高確率で当たる事もあり、ため息が出た。

 すると目の前にいる者から声が掛かった。女性の声だった。

「私とのキスはお嫌でしたの?私のファーストキスなのに主様、酷いですわ」

 目の前には顔を真っ赤にした和服の美女がいた。見事なロングヘアだが、その首には特徴的な赤黒い首輪が嵌められていた。

 年齢は18~20歳くらいで、今のライよりは歳上の大人の女性に見えた。
 前世だと超がつく程の理想のタイプだ。

 目は細くキリッとしていて、髪は腰まで届く漆黒のストレートで、誰もが振り向くような美人だ。声もライの心を打つような低い声だ。
 もしも足をお舐め!と言われれば、つい足に手を伸ばしたくなるような位に美人なのもあり、正直どきりとした。

「えっと、貴女は誰で、キスしたって意味が分かんないんだけど、どういう事?その、キスした記憶が無いんだけど。こんな美人とキスしていたら絶対に忘れない筈なんだけど」

 メアリーとユリカは目の前の相手が何者か分かっていた。先程までライは前世の記憶が戻っている最中であり、呆けていてその瞬間を見ていなかった。

 ライの唇にドラゴンの唇が触れた瞬間、ドラゴンが光り輝き、数秒程で光が爆散した。するとそこには今ライの目の前にいるこの美しき女性が立っていたのだ。即ちドラゴンが人間の姿に变化した事を意味する。

 またそれは、ドラゴンが相手に屈服した事を意味する。ドラゴンは相手に下る時は、相手種族の姿に变化して、配下に入るからだ。実際はこの数百年無かったが、古い文献に記されていた。最後の記録はかつて真の勇者と呼ばれた者が、ドラゴンを屈服させ下僕として使役し、そのドラゴンを従え魔王を打倒したとある。

 メアリーは直感した。ライバルが増えたと。見た目で負けているかと。胸しか勝っていないと感じた。女の目から見ても物凄く綺麗なのだ。次の一言を聞くまではライを取られたと思ったのだ。

「ああ、ご主人様は鬼畜な御方なのですね!素敵です!あのように激しい一撃を貰うのは久し振りです。とても感じましたの。しかもお慈悲をくださいと訴えたにも関わらず。もう少しで死んでしまう程の無慈悲さ。鬼畜としか言いようがありませんわ。私、こんなに感じたのは生まれてこの方初めてだと思います。素敵です。どうぞ私を奴隷として思うがままになさってください。なんなら今宵の夜伽をいたしましてよ」

 そういうといきなりその女性はライにキスをした。正確には唇を噛んだのだ。

 まさかの行動にメアリーとユリカが慌てふためいた。

 慌てたのはライも同じだ。何故か口の中に血の味がし、しかもいきなり唇を噛まれたのだ。それに自らも血が出たと認識したからだ。

「あれ?危害を加えられないんと違うんかい!」

 とツッコミを心の中で入れたが、いきなりキスをされてドキドキしていた。

 そう、お互い唇から血を流しており、出ている血が混ざり合い、お互いの唇に触れたその途端に2人は光り輝いた。要は血の交換をしたのだ。

「契約完了でございます。これで私の全てはご主人様のモノ。このような無粋な首輪とは違う完全なる主従契約をいたしましてございます。死ねと命ぜられれば死にましょう。もしご希望されるならば、今この場で私を手篭めにされる事も可能ですわ。それを厭わない所存で契約を致しました。抱きたいというのでしたら抱かれましょう。ただ、出来ましたら主様のお役に立たせてくださいませ。私はこの命ある限り主様のためにその持てる力の全てを振るいましょう。血の契約により私はご主人様のモノとなりました。ただあのように私を痛めつける必要などございませんでしたのよ。私は最初から貴方様に助けを求めておりましたのに、流石は鬼畜な御方。何でも致します故、お側にいさせてくださいませ」

「ちょっと意味が分かんないんだけど!それに貴女は何者だい?それに貴女程の美人がなんでもって駄目だよ!僕がエッチな事を要求したら困るでしょ?」

「いえ。先程から申し上げておりますように、寧ろ抱いて頂き、名実共にご主人様の女にしてくださる事を望んでおります。夜伽を希望されますならば、今夜から致します故よしなに」

 わなわなと震えていたメアリーが漸く口を開く事ができるようになり、たくし上げた。

「何よあんた!私達のライに何してるのよ!ライが許しても私達が許さないんだから!」

「夜伽なんて不潔です!」

「ふふふ。大丈夫です。勿論奥様方にご迷惑をお掛けしませんわ。私の事は妾や性奴隷として主人様のご寵愛を賜れればそれで満足ですわ。子をもうけさせて頂ければ幸いです。奥様方から主人様を奪うつもりはございません。ハーレムの末席で大丈夫ですわ。」

「お、奥様なんて!は、恥ずかしいですわ」

「そ、そういう事なら仕方がないわね。第一夫人になるのは私とユリカだから忘れないでね!」

「はい!弁えております。奥様方。それと先のは契約の儀式であり、接吻とはまた違いますので、よしなに」

「わかっているなら良いのよ。それよりあんた怪我は大丈夫なの?死にかけていたわよ。それと貴女はひょっとして先の勇者が使役していたのでは?」

「怪我はご主人様に治して頂き、完治しております。はい。先の勇者様は私の友人であります」

「あ、あのう、その、話が見えないんだけど、貴女には名がないの?僕がつけるって、元の名は無いの?」

「ライ、この女性はかつてパトリシアと呼ばれていた筈よ。勇者キョウコの相棒が何故こんなダンジョンに居るのかの方が気になるわ」

 益々ライは意味が分からず、首を傾げるのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ハズレ職の<召喚士>がS級万能職に化けました~世界で唯一【召喚スポット】をサーチ可能になった俺、次々と召喚契約して一瞬で成り上がる~

ヒツキノドカ
ファンタジー
 全ての冒険者は職業を持ち、その職業によって強さが決まる。  その中でも<召喚士>はハズレ職と蔑まれていた。  召喚の契約を行うには『召喚スポット』を探し当てる必要があるが、召喚スポットはあまりに発見が困難。  そのためほとんどの召喚士は召喚獣の一匹すら持っていない。  そんな召喚士のロイは依頼さえ受けさせてもらえず、冒険者ギルドの雑用としてこき使われる毎日を過ごしていた。  しかし、ある日を境にロイの人生は一変する。  ギルドに命じられたどぶさらいの途中で、ロイは偶然一つの召喚スポットを見つけたのだ。  そこで手に入ったのは――規格外のサーチ能力を持つ最強クラスの召喚武装、『導ノ剣』。  この『導ノ剣』はあらゆるものを見つけ出せる。  たとえそれまでどんな手段でも探知できないとされていた召喚スポットさえも。    ロイは『導ノ剣』の規格外なサーチ能力によって発見困難な召喚スポットをサクサク見つけ、強力な召喚獣や召喚武装と契約し、急激に成長していく。  これは底辺と蔑まれた『召喚士』が、圧倒的な成長速度で成り上がっていく痛快な物語。 ▽ いつも閲覧、感想等ありがとうございます! 執筆のモチベーションになっています! ※2021.4.24追記 更新は毎日12時過ぎにする予定です。調子が良ければ増えるかも? ※2021.4.25追記 お陰様でHOTランキング3位にランクインできました! ご愛読感謝! ※2021.4.25追記 冒頭三話が少し冗長だったので、二話にまとめました。ブクマがずれてしまった方すみません……!

【3章完結】隠れ主人公にざまぁされた勇者は辺境でスローライフを送ります~今頃お前の、勇者の力が必要だと言われても、魔王になったのでもう遅い~

柊彼方
ファンタジー
「レイ…………今日でお前はクビだ」 「え……………」  ある日、勇者であるにもかかわらず、力不足という理由で俺は勇者パーティーから追放されてしまう。  しかし、俺もそこまで勇者という肩書に興味がなかったのでそこまでショックではなかった。 「おっしゃああああぁぁぁ!」  しかし、そう簡単にうまくいくはずがなく………… 「な、なんでお前がモテてんだよぉ!」  勇者パーティーを抜けた理由の一つである恋愛禁止がなんとなくなっており、元勇者の俺ではなく現勇者のカルマがモテまくっていたのだ。  そう。隠れ主人公にざまぁされたのだ。 「もう…………いいか…………」  勇者とかいう重い肩書きがなくなった俺は辺境でのんびり暮らすことにした。  しかし、そこは辺境ではなく………… 「「「魔王様! お帰りなさいませ!」」」  これは、勇者パーティーにいたため抑えられていた俺の力が追放されたことによって爆発してしまい、辺境や学園で呑気に暮らすような物語。  え? 呑気? いいえ。本当は配下たちも山ほど増え、一国の王になります。  本当のことを言うなら、これは元勇者が魔王になってもう一度主人公に返り咲くような物語。 *6月16日 ホトラン54位! 6月18日 ホトラン18位!

地味すぎる私は妹に婚約者を取られましたが、穏やかに過ごせるのでむしろ好都合でした

茜カナコ
恋愛
地味な令嬢が婚約破棄されたけれど、自分に合う男性と恋に落ちて幸せになる話。

お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。

ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの? ……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。 彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ? 婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。 お幸せに、婚約者様。 私も私で、幸せになりますので。

「異世界で始める乙女の魔法革命」

 (笑)
恋愛
高校生の桜子(さくらこ)は、ある日、不思議な古書に触れたことで、魔法が存在する異世界エルフィア王国に召喚される。そこで彼女は美しい王子レオンと出会い、元の世界に戻る方法を探すために彼と行動を共にすることになる。 魔法学院に入学した桜子は、個性豊かな仲間たちと友情を育みながら、魔法の世界での生活に奮闘する。やがて彼女は、自分の中に秘められた特別な力の存在に気づき始める。しかし、その力を狙う闇の勢力が動き出し、桜子は自分の運命と向き合わざるを得なくなる。 仲間たちとの絆やレオンとの関係を深めながら、桜子は困難に立ち向かっていく。異世界での冒険と成長を通じて、彼女が選ぶ未来とは――。

【完結】お飾り契約でしたが、契約更新には至らないようです

BBやっこ
恋愛
「分かれてくれ!」土下座せんばかりの勢いの旦那様。 その横には、メイドとして支えていた女性がいいます。お手をつけたという事ですか。 残念ながら、契約違反ですね。所定の手続きにより金銭の要求。 あ、早急に引っ越しますので。あとはご依頼主様からお聞きください。

異世会男子の聖女物語〜能力不足の男として処刑放逐した召喚者は実は歴代最強勇者(男の娘判定)だった!〜変装の為の女装だ!男の娘言うな!

KeyBow
ファンタジー
召喚時に同名の幼馴染と取り違えられ、勇者と聖女がテレコになった。男と言うだけで処刑の為追放される。初期に与えられたギフトは異空間収納と一日一度限定の時間遡行のみ。生き延びられるか?召喚される前に、異世界で知り合った謎の美少女達と逃避行をする為に女装している夢を見たのだが・・・

悪役令嬢は、初恋の人が忘れられなかったのです。

imu
恋愛
「レイラ・アマドール。君との婚約を破棄する!」 その日、16歳になったばかりの私と、この国の第一王子であるカルロ様との婚約発表のパーティーの場で、私は彼に婚約破棄を言い渡された。 この世界は、私が前世でプレイしていた乙女ゲームの世界だ。 私は、その乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった。 もちろん、今の彼の隣にはヒロインの子がいる。 それに、婚約を破棄されたのには、私がこの世界の初恋の人を忘れられなかったのもある。 10年以上も前に、迷子になった私を助けてくれた男の子。 多分、カルロ様はそれに気付いていた。 仕方がないと思った。 でも、だからって、家まで追い出される必要はないと思うの! _____________ ※ 第一王子とヒロインは全く出て来ません。 婚約破棄されてから2年後の物語です。 悪役令嬢感は全くありません。 転生感も全くない気がします…。 短いお話です。もう一度言います。短いお話です。 そして、サッと読めるはず! なので、読んでいただけると嬉しいです! 1人の視点が終わったら、別視点からまた始まる予定です!

処理中です...