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第7話  4階層ボス部屋

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 中に入ると戦闘中だというのがすぐに分かった。

 予測通りでメアリーとユリカの2人が見えた。

 感慨深いものがあった。僕の為にメアリーは来てくれたと。しかもユリカちゃんまでいるのだ。

 戦っている相手はカバ程の大きさの犬型の魔物で、頭は双頭だ。

 口から火を出し、ユリカの氷の壁で必死に耐えている感じで、ボスにはメアリーが放った矢が何本か刺さっていたが、どうみてもジリ貧で、2人が倒されるのは時間の問題だ。

 扉を入った所から距離がある。

 30m程先にいるのだ。ライは駆け出した。

 メアリーが矢を放つと前脚に刺さったが、叫んでいた。
 
「今のが最後の矢よ!」

 そして氷の壁が砕け、その場にへたり込んでいる2人にボスの前脚が振りかざされていた。

 ライは全力で掛け、2人とボスの間に割って入った。ジャンプして2人の頭上を飛び越えたのだ。ライの身体能力が大幅に上がっている為に出来た荒業だ。

 ボスの一撃を片腕にも関わらず、軽々と長剣で受け止めた。
 ボスの膂力はそれなりにある筈だが、何故か片手で受け止める事が出来た。

 間髪入れずに回し蹴りを繰り出しボスを吹き飛ばした。

「ライ君!」
「ライ様!」

 メアリーとユリカは思わず叫んだ。

 ライは2人に背中を向けたまま剣を構えていた。

「ごめん。遅くなったね。今倒すから。君達の事は僕の命に変えてでも守るから!」

 普段では言わないような事をついついライは言っていた。

 根拠がないわけではないが、あれなら殺れると直感が告げたのだ。

 2人は短剣すら無いようで、背嚢を降ろした。

「ラ、ライ君左腕が!?」

「話は後だ。その中に短剣が有るからそれを使って!」

 先程見えた2人は重症には見えないが、小さな怪我をしているようだ。
 これまでの戦いで、2人は装備品の殆どを失くすか使い切ってしまったようだ。 

 2人がうんと返事をしたのを確認し、ライはボスに駆けて行った。

 口から炎の玉を吐き出してきたが、剣で切り裂いた。熱波が顔に届くが、ファイヤーボールのようだった。つまりレベル2の魔法だ。顔が炎に包まれたがノーダメージだった。

「残念だったな。僕には効かないよ」

 ライはよく分かっていなかったが、全属性適正による魔法防御力ではなく、全属性魔法防御のスキルを勇者学園に入ってからいつの間にか取得していた。正確には入学当初は解放条件を満たしておらず、約3年前に条件を満たして開放されたのだ。

 実際には適正のある魔法に対しては50%の威力軽減しかない。
 ライの場合は少なくともレベル3の魔法ならば完全に防ぐのだ。

 剣で斬りかかるもバランスを崩し、かすりもしなかった。

「やっぱ片腕だと厳しいか」

 一瞬2人の方を見た。

「ギフトを使うから、時間稼ぎの牽制を頼む!」

 ライは2人を信じ、ライオットの発動に備えた。

 しかし、2人を見た隙に前脚が届く間合いに入られた。

 咄嗟に剣で受け止めたが、今度は体重が乗っており、剣を落とした。
 しかし、そこに2人の魔法が飛んできて、ボスは避ける為に後ろに飛び退いた。

「我の求めに応じかの敵を討ち滅ぼせ!ライオット!」

 すると強めに込めた魔力が手に凝縮され、手から天井に流れていった。ボスは2人からの攻撃を避けるのが精一杯で、異変に気が付かなかった。

 ライがライオットと唱えてから5秒程で刺さった矢を目掛け、雷鳴と共に稲妻が襲い掛かった。

 ボスに当たったが一瞬光り、体から湯気というか、煙が立ち込めていた。そしてフラフラになり、やがて倒れた。倒れてから10秒程だろうか、力弱く藻掻いていて何とか立とうとしていたが、ついに力尽きた。そして霧散しドロップを落としていた。

 この時は部屋の隅をみる余裕がなかったが、もし見ていたならば、部屋の片隅に3人分の装備品の一部が転がっていたのが分かっただろう。

 ボスが倒れた事を確認したので、2人は手を取り合いその場で飛び跳ねて喜んでいた。

 ライは間に合ったと安堵したが、2人を見ると怪我をしているようだった。メアリーの服に着いている血の量が多く見えた。

 慌てて2人に駆け寄り、先ずはメアリーの体を触り始めた。ヒール、ヒールと唸りながら。

 真っ赤になったメアリーはライに告げた 

「わ、私は大丈夫だから。かすり傷だけよ。その、ありがとう。私はヒールで大丈夫だからユリカを見てあげて。回復が追いついていないの」

 ライは隣りにいるユリカの体を触り始めたので。ユリカは固まった。ライはユリカの体をさっと見たが、一番の重症箇所として右手に裂傷を認め、その手を取り袖をまくった。

 うっ!と呻いていたが、ライは冷静にヒールを唱えた。

 傷はポーション以上のスピードで瞬く間に癒えていった。ユリカはその回復のスピードに驚き、えっ!?と呻いた。 

 ユリカは男の子に体を触られた恥ずかしさよりも、ヒールの筈が回復スピードが早い事に驚いていた。ミドルヒールとハイヒールの間くらいのスピードだ。

「あの、ライ様、ありがとうございます。その、怪我をしたのは右腕だけですからもう大丈夫ですから」

 ライはお腹を触ったり脚を触ったりと、普段ならビンタ炸裂レベルの事をしていた。

「本当に大丈夫?」

「はい!その、恥ずかしいのでそろそろ確認するのを終わって頂けると嬉しいですわ」

 ライは自分が何をしていたのかに気が付き慌てていた。 

「ご、ごめんなさい。その、わざとじゃなくてその」

 メアリーが急にライに泣きながら抱きつき、続いてユリカも泣きながら抱きついてきた。

「えっ?その、えっと」

 ライはどうしたら良いかわからずオロオロしており、2人にしたいようにさせていた。右腕で二人をギュッと抱き締め、ライも涙を流していた。2人が生きていて、間に合った事が嬉しかったからだった。
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