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第1章

第1話 プロローグ

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 俺の名は杉浦 栃朗(すぎうら とちろう)  
年齢 49歳
身長 165cm
体重 70kg

 少しお腹の出ているどこにでもいるバツイチのおっさんだ。
 いや、正確にはバツイチじゃないんだ。死別をバツイチだと言う人もいるけれども、5年前の今頃かな?妻に先立たれたんだ。長年の不妊治療の末に漸く着床したところだったんだ。
 交通事故でね。妻はタクシーに乗っていたのだけど、一般道を130km/hで暴走していたベ○ツに突っ込まれ・・・即死だったそうだ。

 だからおっさん今は1人さ。
 もう家族を喪う辛さを味わいたくなくて、再婚は考えていないんだよ。

 まあ、こんなおっさんの身の上話はどうでも良いよね。
 今の最大の趣味は結婚前にのめり込んでいた花火写真を撮る事なんだよ。
 全国を旅しているんだ。休みの度にどこに行くか決めてね。
 でもおっさん迫力も好きだから、観覧席から撮るのさ。
 無類の車好きなので、ドライブを兼ねて全国の有名な花火を中心に見に行くんだ。
 花火が終わった後は温泉に入ったり、ひとりキャンプをしたり自由人さ。

 久し振りに長期休暇を取ったんだけどね。おっさん銀行で働いていて、支店長代理ってのをしているんだ。
 一時期次長に上がる話もあったんだけど、妻が亡くなってからは出世欲もなくなり、上には代理止まりにしてくれと頼んだのさ。

 まあ銀行はね、不正が有った場合に発覚する事を目的として、1週間の連続休暇を取らされるんだよ。
 決して福利厚生を目的としている訳じゃないんだ。
 おっさんは妻が亡くなるまでは総合職でずっと投資信託の営業をしていたんだ。
 つまり渉外でずっとやっていて、行内でもトップ5に居続けていたのもあり出世も早かったんだ。
 妻が亡くなってからは、渉外をするのが精神的に辛くなり、退職を考えたんだけど引き止められてね。預金の方、つまり営業店の内勤のお仕事にして貰ったんだ。

 そんな訳で6月上旬に休みを取らされたんだけどさ、この時期は横浜の開港祭ってのがあってね、そこで花火があるんだよ。今回はそこに行くんだよね。

 おっさんにしては珍しく今回は電車で移動するんだよ。
 如何せん愛車のインプレッサWRXを完全にサーキット仕様にするのにショップに預けていてね、公道を走れるのは妻の乗っていた軽乗用車しかなくて。流石に横浜迄は厳しいんだ。

 銀行の駐車場にど派手なカッティングがされたブルーのインプで乗り付けると、流石に浮いてしまうから、滅多に通勤では使わなかったな。
 ラリー仕様のカッティングといえばその派手さが分かるだろう。
 痛車じゃないから。

 車検にギリギリで通るような派手な車が銀行の駐車場にあると、それなりに話題になり、車の持ち主がおっさんだとバレた時に、この人はやばい人だ!と見られたりもしたな。昔はブイブイいわしていたけど、今じゃあすっかり毒素を抜かれた、ただの銀行マンさ。しかもおっさん。

 それで今は中古になるけど、レガシィの末期モデルのMT車を探しているんだ。
 妻が乗っていた車はガタが来ていて、遂にオイル漏れを起こしたんだ。これを契機に買い替えをする事になったんだけど、レガシィは通勤と花火観覧の為の車さ。
 しかし譲れないのはMT車さ。もうレガシィの新車は買えないから中古を探さないとなんだよね。言っとくけどレガシーじゃないからね。

 それと知り合いのインプオーナーにサーキットデビューを誘われてね。
 それなりに危険だけど、最早反対する家族がいないからやり始めたんだよね。
 やはり公道を走る仕様のままでは限界が早く、思い切って改造をする事にね。
 そうそう、積車も買ったんだ。まあ、今は独り身だから趣味にお金を使えるからね。銀行に就職する前、つまり大学の頃は車関係で結構ブイブイいわせていてね。

 中学の時、両親は事業に失敗して俺を捨てて夜逃げ。1年位して遺体で発見されたよ。煉炭自殺だった。
 その後祖母に引き取られたのだけれども、その祖母も大学に入った途端に亡くなったよ。 

 高校の時にバイトをしていて、バイトで稼いだなけなしのお金で買った宝くじが当たり、それで大学に。
 因みに両親のも祖母のも相続放棄した。借金まみれだったんだ。
 
 大学の時は車にはまり、ラリーとジムカーナをしていたんだ。お金は宝くじのがあったけど、就職する頃に底をついたかな。勿論計画的に使ったよ。
 まあ、知り合いはその後車関係の仕事をしていて今もつるんでいるんだ。
 危険な趣味はお金が尽きたのもあり、大学卒業と共に卒業していた。

 まあ横浜なら車で行く必要も無いから、おっさん新幹線で向かう事にしていて駅に着いたんだ。
 そして今は新幹線の改札口に向かって歩いている。

 ジーパンにポロシャツと何の変哲のない出で立ちで、カメラバックを背負っている。
 キャリーバッグをコロコロ転がしながら歩いていると、前方に高校生の団体が固まって待機しているのが見えたんだ。
 クラス単位かな?その横を歩いていると、1人の男の子が慌ててそこから離れた時によく見ていなかったようで、おっさんにぶつかってね。
 ごめんなさい!走りながら謝っていったな。漏らすなよー!とか聞こえたから、慌ててトイレに向かったんだろうね。

 おっさん倒れちゃって、その時に女の子にぶつかったんだけど、逆に謝られちゃった。
 いま時珍しい黒髪かと思ったら、全員黒髪だから校則が厳しいのかな?腰までのロングヘアーの整った美人顔のお嬢さんで、いるところにはいるんだなあ!と思うような子だったな。

「おじさん、ごめんなさいね。もう、あいつったら、ちゃんと謝りもせずに!」

「おじさんは大丈夫だけど、君の方こそ怪我はなかったかい?」

「あっはい。大丈夫です」

「まあ、トイレを我慢していたようだし、お互い怪我もなかったから大目に見ましょう。お嬢さん達は何処に行くんですか?」

「あっはい。長崎です」

「素敵な修学旅行になると良いですね。それでは」

 お互いお辞儀をした所、突如周りが光り輝き出した。
 おっさんは咄嗟にその場から離れようとしたのだけれども、見えない壁のようなのがあって離れられず、その場に留まるしかなかったんだ。

 段々光が強くなっていき、やがて目を開けていられなくなったんだ。いつの間にかさっきの女の子がおっさんにしがみついていたんだ。
 こんな時にだけど女子高生にしがみつかれて、おじさんちょっとラッキーかな?なんかいい匂いがするって思ったんだ。
 今は独身だからね。でも場違いな感想だよね。
 そして光が弾けて直ぐに消えたんだけども、次の瞬間、見知らぬ場所にいたんだ・・・
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