上 下
152 / 173

第152話 出立

しおりを挟む
 舞踏会の翌朝、セルカッツは1人では起きることが出来なかった。
 酒をしこたま飲み二日酔いだったからだ。
 国王に注がれると飲まない分けにはいかず、結果限界を越えて飲んだのだ。
 次の日の朝、客室を出ると妻となったアイリーン(ヤーマ)の友人が待っていた。
 ヤーマは純白のドレスを着ていたが、そのドレスの胸元に大きなリボンをつけている。
 そしてその頭には大きいシルクハットが。
 シルクハットにもドレスと同じような白いレースが飾られているが、なぜかシルクハットからは大きな兎耳が生えている・・・

「ど・・・どうしたんだ?」

「あら?見て分かりませんこと?」

 シルクハットと兎耳を触って見せた。

「これはあなたが選んでくださったものですわ」

 そう言うと彼女はクルクルと回った。
 彼女が回るたびにスカートが広がり、生地に施された刺繍が見え隠れして美しかった。
 彼女の金色の髪もふわっと広がり、髪飾りも揺れる。
 その姿はまるで絵本の中から飛び出してきたようだった。
 いやそうじゃない!今はそれを考えている場合ではなかった。

「似合うかしら?」

 彼女は目をキラキラさせながら、両手を前にし小首を傾げる様に聞いた。

「可愛らしいね」

 そんな会話もあったが、メイドが朝食の時間が迫ってきたから着替えるようにと伝えてきた。
 この後陛下と食事をし、アルカン王国に向け出発する。
 何年後か分からないが、また戻ってくるはずなので暫しの分かれというものだ。

 ただ、帰りは気楽だ。
 何せ騎士団の護衛付きだ。
 帰りに鏡(姿見)を持って帰るのがメインとの話もあるが、大所帯だ。
 騎士団がいるのはドナルドのその妻となったミリアムがおり、ミリアムの護衛だ。

 朝食後に城の庭園を散歩しながら、妻の友人のシーシャと話をした。

「何で兎なんですか?」

「なぜかしら?」

 彼女は笑いながらとぼける。もちろん似合っているのは事実だが、意図がわからないと謎は解決されない。ひ
 セルカッツが答えられないでいると彼女が言った。

「今日は良い天気ですね」

 セルカッツの質問を無視する彼女に仕方ないので話を逸らすことにした。

「そうだね。ここの庭園はとても綺麗だね」

 すると彼女は思い出したように話を振ってきた。

「そういえばセルカッツ様?あなた殿方に人気がありますね」

「ん?そんなことはないと思うぞ」

「そうですか?ドナルドさんと懇意にされていましたわよね?」

「ドナルドさんで思い出した。シーシャさん、ドナルドさんと仲良くされていましたが、どうなりました?」

「そ、んなことはどうでも良いので、それより今日はどうなされるのですか?」

 シーシャは話を変えたかったのか別の質問をしてきた。
 セルカッツは正直に答えることにした。嘘を言っても仕方ないし、彼女に隠し事など出来る筈もないからだ。もちろんサプライズなら話は別だが・・・

「これから城を出てアルカン王国に行きます」

「え!?もう出発なのですか?少しはゆっくりしていらしてもよろしいのに」

「そうですね。ですが私どもは先を急いでおりまして・・・」

「・・・そうですか」

 ヤーマが寂しそうな顔をするも直ぐに笑顔に戻るとシーシャは更に聞いてきた。

「またお会いできますか?」

 その質問に彼は妻の目を見てから答えた。

「はい。またお会いできますよ。数年以内には。陛下から移住するよう招請もありましたし。案外早いかもですよ。その時はまた彼女と仲良くしてください」

 すると彼女は満面の笑顔で言った。

「約束ですよ!次は私が夫を紹介いたしますわ」

 セルカッツはシーシャと再会の約束をすると、早々に馬車に向かった。
 今回の旅に護衛として同行する騎士団の副団長に挨拶をするためだ。
 れ彼は自分が国王になる前からの付き合いで、国の中でも信頼が出来る数少ない部下だった。見た目はイケメンだが無口で厳つい顔つきをしているが根はいいやつだ。彼に挨拶をしていると、他の騎士達も挨拶に来た。
 彼らとも話をし、その後随伴者の名簿を渡され、セルカッツが確認していく。

 馬車はアルカン王国の王都まで行くのだが、距離が距離なので日数は掛かる。城の前にて馬車が数台出発を待っており国王陛下が見送りに来ていた。

「君たちがいなくなると寂しくなるね」

「陛下こそご無理を言って申し訳ありませんでした」

「何、可愛い姪っ子の見送りも兼ねているから気にする必要はない。それより道中彼女の事を頼んだよ」

 セルカッツは国王陛下とガッチリ握手をし馬車に乗り、大勢の人々に見送られながら出立した。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

祈りの力でレベルカンストした件!〜無能判定されたアーチャーは無双する〜

KeyBow
ファンタジー
主人公は高校の3年生。深蛇 武瑠(ふかだ たける)。以降タケル 男子21人、女子19人の進学校ではない普通科。大半は短大か地方の私立大学に進む。部活はアーチェリー部でキャプテン。平凡などこにでもいて、十把一絡げにされるような外観的に目立たない存在。それでも部活ではキャプテンをしていて、この土日に開催された県総体では見事に個人優勝した。また、2年生の後輩の坂倉 悠里菜も優勝している。 タケルに彼女はいない。想い人はいるが、彼氏がいると思い、その想いを伝えられない。(兄とのショッピングで仲良くしているのを彼氏と勘違い) そんな中でも、変化があった。教育実習生の女性がスタイル抜群で美人。愛嬌も良く、男子が浮き足立つのとは裏腹に女子からの人気も高かった。タケルも歳上じゃなかったら恋をしたかもと思う。6限目が終わり、ホームルームが少しなが引いた。終わると担任のおっさん(40歳らしい)が顧問をしている部の生徒から質問を受け、教育実習生のミヤちゃん(竹下実弥子)は女子と雑談。タケルは荷物をまとめ、部活にと思っていた、後輩の二年生の坂倉 悠里菜(ゆっちゃん、リナ)が言伝で来た。担任が会議で遅れるからストレッチと走り込みをと言っていたと。この子はタケルに気があるが、タケルは気が付いていない。ゆっちゃんのクラスの担任がアーチェリー部の担任だ。ゆっちゃんと弓を持って(普段は学校においているが大会明けで家に持って帰っていた)。弓を背中に回して教室を出ようとしたら…扉がスライドしない。反対側は開いていたのでそっちに行くが見えない何かに阻まれて進めない。反発から尻餅をつく。ゆっちゃんは波紋のようなのが見え唖然とし、タケルの手を取る。その音からみっちゃんも扉を見て驚く。すると急に光に包まれ、気絶した。目を覚ますと多くの人がいる広間にいた。皆すぐに目覚めたが、丁度三人帰ったので40人がそこにいた。誰かが何だここと叫び、ゆっちゃんは震えながらタケルにしがみつく。王女と国王が出てきてありきたりな異世界召喚をしたむね話し出す。強大な魔物に立ち向かうべく勇者の(いせかいから40人しか呼べない)力をと。口々に避難が飛ぶが帰ることは出来ないと。能力測定をする。タケルは平凡な数値。もちろんチート級のもおり、一喜一憂。ゆっちゃんは弓の上級スキル持ちで、ステータスも上位。タケルは屑スキル持ちとされクラスのものからバカにされる。ウイッシュ!一日一回限定で運が良ければ願いを聞き入られる。意味不明だった。ステータス測定後、能力別に(伝えられず)面談をするからと扉の先に案内されたが、タケルが好きな女子(天川)シズクと他男子二人だけ別の扉を入ると、閉められ扉が消え失せた。四人がいないので担任が質問すると、能力が低いので召喚を取り消したと。しかし、帰る事が出来ないと言っただろ?となるが、ため息混じりに40人しか召喚出

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

ハズレ職業のテイマーは【強奪】スキルで無双する〜最弱の職業とバカにされたテイマーは魔物のスキルを自分のものにできる最強の職業でした〜

平山和人
ファンタジー
Sランクパーティー【黄金の獅子王】に所属するテイマーのカイトは役立たずを理由にパーティーから追放される。 途方に暮れるカイトであったが、伝説の神獣であるフェンリルと遭遇したことで、テイムした魔物の能力を自分のものに出来る力に目覚める。 さらにカイトは100年に一度しか産まれないゴッドテイマーであることが判明し、フェンリルを始めとする神獣を従える存在となる。 魔物のスキルを吸収しまくってカイトはやがて最強のテイマーとして世界中に名を轟かせていくことになる。 一方、カイトを追放した【黄金の獅子王】はカイトを失ったことで没落の道を歩み、パーティーを解散することになった。

「おっさんはいらない」とパーティーを追放された魔導師は若返り、最強の大賢者となる~今更戻ってこいと言われてももう遅い~

平山和人
ファンタジー
かつては伝説の魔法使いと謳われたアークは中年となり、衰えた存在になった。 ある日、所属していたパーティーのリーダーから「老いさらばえたおっさんは必要ない」とパーティーを追い出される。 身も心も疲弊したアークは、辺境の地と拠点を移し、自給自足のスローライフを送っていた。 そんなある日、森の中で呪いをかけられた瀕死のフェニックスを発見し、これを助ける。 フェニックスはお礼に、アークを若返らせてくれるのだった。若返ったおかげで、全盛期以上の力を手に入れたアークは、史上最強の大賢者となる。 一方アークを追放したパーティーはアークを失ったことで、没落の道を辿ることになる。

モブ高校生と愉快なカード達〜主人公は無自覚脱モブ&チート持ちだった!カードから美少女を召喚します!強いカード程1癖2癖もあり一筋縄ではない〜

KeyBow
ファンタジー
 1999年世界各地に隕石が落ち、その数年後に隕石が落ちた場所がラビリンス(迷宮)となり魔物が町に湧き出した。  各国の軍隊、日本も自衛隊によりラビリンスより外に出た魔物を駆逐した。  ラビリンスの中で魔物を倒すと稀にその個体の姿が写ったカードが落ちた。  その後、そのカードに血を掛けるとその魔物が召喚され使役できる事が判明した。  彼らは通称カーヴァント。  カーヴァントを使役する者は探索者と呼ばれた。  カーヴァントには1から10までのランクがあり、1は最弱、6で強者、7や8は最大戦力で鬼神とも呼ばれる強さだ。  しかし9と10は報告された事がない伝説級だ。  また、カードのランクはそのカードにいるカーヴァントを召喚するのに必要なコストに比例する。  探索者は各自そのラビリンスが持っているカーヴァントの召喚コスト内分しか召喚出来ない。  つまり沢山のカーヴァントを召喚したくてもコスト制限があり、強力なカーヴァントはコストが高い為に少数精鋭となる。  数を選ぶか質を選ぶかになるのだ。  月日が流れ、最初にラビリンスに入った者達の子供達が高校生〜大学生に。  彼らは二世と呼ばれ、例外なく特別な力を持っていた。  そんな中、ラビリンスに入った自衛隊員の息子である斗枡も高校生になり探索者となる。  勿論二世だ。  斗枡が持っている最大の能力はカード合成。  それは例えばゴブリンを10体合成すると10体分の力になるもカードのランクとコストは共に変わらない。  彼はその程度の認識だった。  実際は合成結果は最大でランク10の強さになるのだ。  単純な話ではないが、経験を積むとそのカーヴァントはより強力になるが、特筆すべきは合成元の生き残るカーヴァントのコストがそのままになる事だ。  つまりランク1(コスト1)の最弱扱いにも関わらず、実は伝説級であるランク10の強力な実力を持つカーヴァントを作れるチートだった。  また、探索者ギルドよりアドバイザーとして姉のような女性があてがわれる。  斗枡は平凡な容姿の為に己をモブだと思うも、周りはそうは見ず、クラスの底辺だと思っていたらトップとして周りを巻き込む事になる?  女子が自然と彼の取り巻きに!  彼はモブとしてモブではない高校生として生活を始める所から物語はスタートする。

処理中です...