異世界の約束：追放者の再興〜外れギフト【光】を授り侯爵家を追い出されたけど本当はチート持ちなので幸せに生きて見返してやります！〜

第138話 ドナルド

　矢を放ったのは、アイリーンの護衛であるドナルドだった。
　彼は隠れていた窓際から、満足げに様子を見ていた。

　矢は窓の外から射掛けられたのだ。

　彼は最近国許からアイリーンかこの国の国王を殺すように命令を受けていた。
　しかし、彼は女を殺すことができなかった。彼はアイリーンの影武者であるヤーマに想いを寄せていたのだ。

　だから、彼は代わりにヤーマを寝とろうとした。彼はヤーマがアイリーンの身代わりであることを知っていた。
　
　実際のところ彼はアイリーンには興味なかった。確かに美人だが、彼は上品な美しさより肉体美を好んだ。　　

　剥いてみないと分からないが、経験上上位貴族の女は体が鍛えられておらず、彼の欲望は万足することができなだろうと。

　しかし、ヤーマは違う。
　きつい性格だが、鍛えている。
　卒業式までは手を出せないが、その後ならと機会を伺っていた。　　

　しかし、ヤーマは彼の誘いを拒んだ。彼女はセルカッツに心を奪われていたのだ。
　ダイランド家に行き、影武者の役目が終わったたら結婚してくれと言ったが、女たらしに用は無いと平手打ちをくらった。

　セルカッツに惹かれたのだと気づいたドナルドは激怒した。
　彼はセルカッツを憎んだ。
　彼はセルカッツが自分の邪魔をすると思った。
　だから、彼はセルカッツを殺すことにした。
　それは今朝の話だ。
　前夜なら寝首を掻くところだった。
　彼の頭の中で命令が刷り変わったのだ。

　卒業式の日、彼は狙撃の準備をした。彼は国王がセルカッツとアイリーン（ヤーマ）に婚姻の契りを交わさせるという話を聞いて驚いたが、それを好機と見た。彼はその時にセルカッツを射殺しようと決めた。

　そして、その時が来た。セルカッツとヤーマがキスをして魂が結ばれる瞬間、彼は弓を引いて矢を放った。
　しかし、その矢はセルカッツの額でも国王でもはなく、セルカッツの手に刺さった。

　それでも、彼は満足した。
　即死しなかったが、毒が効けばセルカッツは死ぬだろうと思った。
　どちらを狙ったのか思い出せなかった。

　しかし、彼の思惑は外れた。セルカッツもヤーマも死ななかった。神々の加護によって、彼らは奇跡的に助かったのだ。
　セルカッツのギフトの力により、毒が解毒され息を吹き返したのだ。

　ドナルドは信じられないと、怒りと恐怖で震えた。
　彼は自分の失敗に気づいて逃げようとしたが、その前に捕まった。

　国王の護衛や魔法学校の教師や生徒が駆けつけてきて、ドナルドを取り押さえた。
　即時に彼らはドナルドが暗殺者であることを見抜いた。

　「お前は何者だ？どうしてこんなことをした？」

　即事に国王の前に引き出されたドナルドに国王が怒鳴った。

　「私は・・・私は・・・」

　ドナルドは言葉に詰まった。彼は自分の行動に正当性を見出せなかった。
　彼はただ自分勝手な欲望に駆られていただけだった。
　しかも何をしたのかよく分かっていなかった。

　「私はヤーマを愛しているんです！あなたやセルカッツ様みたいな偽善者には分からないでしょう！私はヤーマ様のためになら何でもするんです！」

　ドナルドは必死に叫んだ。彼はヤーマに対する執着を見せた。

　しかし、その言葉に誰も同情しなかった。むしろ、皆がドナルドを嫌悪した。

　「お前はヤーマとやらを愛しているのではない。お前はその女を自分のものにしようとしているだけだ。お前はその女の幸せを願っていない。お前は女を苦しめてる」

　国王が冷たく言った。

　「それに、お前はセルカッツとアイリーンを殺そうとした。彼らは私の目の前で婚姻の契りを交わした。彼らは正式に夫婦だ。彼らは愛し合っている。お前は彼らの愛を汚した」

　国王が憤った。

　「お前は許されない。お前は重罪に問われるだろう。お前は死刑になるだろう」

　国王が宣告した。

　ドナルドは絶望した。彼は自分の運命に泣き叫んだ。

　「やめてください！助けてください！アイリーン様！助けてください！」

　しかし、誰も彼に耳を貸さず、彼は連行されていった。

　その後、数分でセルカッツは回復し、彼らは国王から祝福を受けた。

　しかし、ドナルドが連れ去られる様子を見たセルカッツが、あろうことかドナルドの助命を願い出たのだった。