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第135話 卒業式

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 宿にてドナルドにヤーマの事を聞いたら、流石にアイリーンの姿のままだと王女の為手が出せなかったがと言いつつ、本当のヤーマの姿を見ると、その肢体について評価を始めた。

「まだ胸が膨らむ前の姿しか知らないが、中々そそる体になってきたじゃないか!あの体であのしぐさ、剥くとさぞや美味しいんだろうな。あの子より抱き心地はよさそうだな」

「なぁ、お前に何があったか知らんが、護衛はどうしてたんだ?」

「あの生意気な女をひぃひぃ言わせたくなる思いをしたとしか言えんな。悪い事は言わん。ちょん切られたくなかったら手を出さない方が良いぞ。ああ、護衛だったな?寮には入れないし、実質週に1度の休息日に買い物に出る時の護衛しか必要ないから、娼館に行ったりしていたよ。それより卒業式のあと、あいつを襲って汚してやろうぜ!ああ、あんたお貴族様だったな、初めてを奪うのはあんたに譲ってやるから、その後は俺にくれよ!な、よいだろ?」

「お前、女をなんだと思っているんだ?」

「ああん?そんなの股を開くしか能のない男の奴隷に決まってんだろ!あんたは沢山の美人を侍らせてうまくやってるよな!羨ましいぜ。美人のお守りをするのにやれないなんて苦痛だぜ!」  

 俺は声が出なかった。
 病んでいるのだろう。
 話に一貫性がない。
 ヤーマに手を出すのはやめたほうが良いと言った次の瞬間、一緒に彼女を襲い、回そうとヘドが出るような事をいけしゃあしゃあと言ってのけた。
 真面目な騎士だと聞いていたが、どうやらヤーマに知られないようにしつつ、相当やんちゃをしていたようだ。

「護衛の割に好き放題やってたんだな。まあ人の事を言えないんだろうが、そのうちベットの上で噛みちぎられ兼ねないぞ!悪いが旅で疲れているからそろそろ寝るよ」

 何か言っていたが、本当に疲れていたので横になるとすぐに眠りに落ち、そうやって合流した初日を終えた。

 翌日俺達は宿を分けた。
 アイリーン、タニス、ヨルミクル、イザベルには別の宿に移ってもらい、俺にも所在を伝えないようにした。それはこれから魔法学校を訪れるからだ。
 俺はヤーマ、リリアナ、メイヤ、ドナルドと共に魔法学校に赴き、校長の前で姿を変え、暗殺の危険から身を隠していることなど話し、明日の卒業式には参加すると伝え、学校を後にした。
 護衛のドナルドがいたので信じてくれたが、今日のヤーマはメイド服姿だ。
 この時期多くの者が訪れるので、そんな中に紛れ込めた。

 ・
 ・
 ・


 魔法学校の卒業式の開始時間が迫っていた。魔法学校の中庭は、まるで夢の世界だった。華やかな建物が並び、高い塔は空に突き刺さっているかのようにみえるほどだ。その塔は星の光で飾られ、夜空に浮かぶ魔法陣のように見えた。

 卒業式当日、生徒たちは白い制服に身を包み、中庭に集まった。彼らは緊張と期待で胸を高鳴らせていた。
 中には感極まり泣いている者もいる。
 魔法学校の先生たちは厳しい顔で壇上に立ち、生徒たちを見下ろしていた。
 長い歴史と格式高い学校の為、卒業式とはいえ、生徒に甘い顔を見せない。
 若い教師の中には生徒と同じく感極まり、目頭を熱くしている者もいるが、それでも威厳を持って挑んでいた。

 セルカッツはヤーマ(アイリーン)と共に列に並んだ。貴族は保護者や婚約者が家を代表して付き添う。
 アイリーンの場合、王族なのを隠す為に婚約者側のダイランド家がそれを担う。

 セルカッツは目を輝かせて周りを見回して1言つぶやいた。

「まるでアニメだな」

 隣にいるヤーマも同じく感嘆の表情を浮かべていたが、アニメ?と首を傾げる。

 異世界もののアニメとかで出てきそうなザッツ学校だったからだ。
 渡り廊下すら絢爛豪華で、金持ちしか入れないような学校の内装に、趣味の悪い成金的なのだなと、内心では毒づく。

 因みに本物のアイリーンは、ヨルミクル、イザベル、タニスと共に宿で待機だ。

 校長先生がマイク代わりの魔道具を持って壇上に立った。

「我らが誇る、優秀な生徒の皆さん、卒業おめでとう。魔法学校での日々はあっという間だったが、皆さんは素晴らしい成長を遂げた・・・・」

 中庭には花々が咲き乱れ、鳥たちがさえずっていた。風はやさしく吹き抜け、生徒たちのローブを揺らしていた。
 長々とした校長の訓示に飽きてきた頃、漸く卒業式も後半に差し掛かった。

「・・・さて、卒業証書授与を執り行います。・・・最後になります。卒業生代表アイリーン・ダイランドさん、おめでとう」

 ヤーマは名前を呼ばれて前に出た。彼女は制服の袖から手を出し、校長先生から証書を受け取った。その瞬間、中庭全体が拍手と歓声で溢れた。

「君は本当に素晴らしい」

 セルカッツはヤーマを見つめ心の中で呟いたが、それはアイリーンに対してなのか、ヤーマに対してなのか?

 こうして魔法学校の卒業式は終わり、卒業生は新しい生活や、心躍る冒険が始まることに、胸をときめかせるのだった。
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