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第1章

第6話 町に

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 弓弦、いや弓弦改めトニーは道端で足をさすっていた。2人を葬ってから15分位歩いただろうか、履き慣れていない靴のうえ、荷物を背負っている。おまけにした事もない帯剣した状態で歩いている為姿勢も悪く、足腰に負担が掛かっていて本来歩くのに必要な力よりも更に力を使っていた。無意識に力んでいたのだ。

 先ほどの戦闘の事もあり、足が悲鳴をあげていたのだ。そして腰をポンポンと叩いており、腰も相当きている事が見受けられる。

「くそ!足も痛いし、腰もいてーな!なんなんだよ!異世界召喚とかの特典で体力とか上げとけよ!魔物と戦う為に強靭な肉体を持っているんじゃないのかよ!ゲームだとそういう設定だろうがよ!くそ!」

 トニーは無駄なぼやきをしていた。そう、なんの事はない。ただのモブである。ゲームの中では筋肉痛や、腰が痛くなる事もなかった。たかだか移動ではあるが、舐めてはいけない。トニーは運動部に所属しているわけでもないし、高校の授業が終わるととっとと帰宅し、少し受験勉強をしてからゲームに没頭する毎日を過ごしていた。いわゆるもやしっ子というやつで、身長はそれなりに高いが、鍛えているわけでもなく、体力は一般生徒のそれである。なので体力が現地人に比べるとかなり低い。現状5分歩くと5分休まなければならないような状態にまでなっていた。靴が合わなかったのが一番の要因ではある。至極簡単だ。靴が大きいのだ。その理由も単純で、年齢を17歳から15歳にしたので体が少し小さくなったから、丁度良かった靴がぶかぶかになったのだ。流石にそのようになってしまうとは気が付かなかった。身長はそのままだが、足のサイズだけ27.0cmから26.0cmになっていたのだ。それに対して靴は27.0cmだ。

 昔の人って荷物をいっぱい背負いながら歩いていたんだよな?昔の人はすげぇよなぁ!そんな事をボヤいている。そして別種の危機感を感じた。やっぱり闇魔法を早々に上げていかないとかな?そんなふうに思ったりする。そう収納魔法であるストレージが欲しい。今のように物を背負って歩いていれば体力を大幅に削られてしまう。そんな事ではいざ戦闘となると体力の低さが己の首を絞める事になる。

 運がどうこういうレベルの問題の話ではない。ゲームの知識で良いステータスを引こうとしていたが、それは実際の所どうなのだろうかと考えざるを得なくなってきた。それともなんとか耐え抜いて、この運の値がカンストするまでは運を上げまくった方がいいか?そんな事を考えていたが、首を振った。リアルとゲームの違いによる壁が立ち塞がりつつある。

 今はそんな事を考えるのはよそう。危険な魔物が出るような外でそんな考えにふけっていると、接近に気付かずにぶすりと殺られるぞ!頬を叩き、気合を入れてから再出発した。

 不安もある。道沿いを歩いていたが、まだ誰ともすれ違っていない。ふと思うのだが、そういえばステータス画面に時計ってないかな?そう思ってステータスを見てみると隅っこの方に時間表示があった。有るじゃないか!と唸る。

 先ほどの戦闘から1時間位が経過していたと思われるが、今の時間は8時となっていた。あれっ?となる。つまり先ほどの戦闘は7時位の事である。

 朝早かったのかと唸る。

 なるほどと、あの2人が襲われていた場所に行くまでに30~60分程掛かった筈だ。俺は早朝の時間帯に送り込まれたのかよ!と呟く。

 となるとあんな時間にあの場所にいた2人は余程朝早く出てきたか、野営でもしていたところを襲われたのだろうか?となると周辺を探せばテントなどがあったかも分からないなとため息をつく。

 トニーは必死に歩いた。暫くすると向こう側から何かが向かってきた。馬車のようだ。
 馬に似た別の動物に曳かせているのが分かる。道の端に避けてやり過ごす。
 御者はふん!といった感じでゴミを見るように一瞥して過ぎ去った。

 希望が見えてきた。
 馬車が1台だけだが、人とすれ違ったのだ。町か村が近いのだろうと感じた。

 そこからは気持ちの持ち方の違いからだろうか、不思議とトニーの足取りは軽くなった。

 その後5分程で4人組の冒険者?とすれ違う。

「あのう?」

 4人組の脚が止まる。

「ここから町は近いのでしょうか?」

「ああん?てめぇよそもんか」

 仲間の女がそっと手を触れて制止する。

「彼が失礼しました。昨夜は賭博で大負けして機嫌が悪いのよ。そうねぇ、15分も歩けば町よ。先を急ぐので失礼するわね。ごきげんよう」

「ありがとうございます!」

 ローブのフードを被っているので分からないが、男同様10代後半位だろうか。

 余計な事を言ってんじゃねえ!とか聞こえたが、仲の良いパーティーのようだ。残りの2人もフードを被っており、性別すら分からなかった。

 だが、もう少しだ。あと少し、今の俺だと20分位歩くと町に着く。少なくとも見えるだろうと。
 取り敢えず安全な所で座りたかった。椅子やベンチではなくても良い、地べたで良いんだ!そうして町が近いと教えられたので俺は最後の気力を振り絞り先を急ぐ。

 そこから馬車とすれ違ったり、旅人や農作業者?大きな籠を背負った者等20人位とすれ違う。皆会釈だけはするので、こちらも会釈を返す。

 そうして10分位歩くと壁が見えてきた。ゲームではあまり意識しなかったが、確か危険な魔物から身を守るために防壁を築き、町と外の世界を隔てていると。だから町の外に出て移動や狩猟をするのも命懸けになると有ったなと。

 なるぼどなと俺は呟き、町の入り口に着いた。高さ3m位の壁に囲まれており、正門?が見えてきたのでそちらに向かう。時折町から出る者がいたが、時間が早い為か町に入る者は皆無だった。

 門から中に入ろうとすると門番?に誰何された。

「お前見ない顔だな。他所から来たのか?」

「あっはい。この町は初めてです」

「規則だからな。カードを出せ!」

 俺は首を傾げる。ゲームには無かったからだ。はっとなる。死体から出ていたあれかと。

「あのう、俺は持っていないんです」

「はっ?何馬鹿な事を言っているんだ?出した事がないのか?ずっと山の中にでもいたのか?こうやって胸に手をやり、い出よライフカード!と言ってみろ。本当は念じればよいが、初めての時は口に出した方が良いな」

「い出よライフカード!」

 そうすると一瞬頭が痛くなり、胸から白いカードが出てきた。

「白カードで一般人か。よく一般人のお前が一人でこの町まで来られたな。まあいい。入っても良いぞ」

「あのう、この方達が亡くなったのですが、俺はどうすれば?」

 俺は背嚢に仕舞った彼らの荷物の中から彼らのカードを出した。

「ダルンとマイラスのカードじゃないか?確かに死んだ奴のカードだな」

 俺は門番にがっしりと肩を掴まれたのであった。
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