エラーから始まる異世界生活

第1章

落ち着きなさい

「落ち着きなさい」

　俺はクロエに怒られていた。クロエにピシャリと言われた。そう俺に黙って10人以上の妻がダンジョンに行ってしまったのだ。これが落ち着いていられるか！という事だ。俺は子供のように反応してしまったのだ。

「だってセレナ達がいないんだよ！もしも、もしもの事があったらどうするんだよ？俺は今からあいつらの所に行く！」


「何バカな事を言ってるの？ランス。少しは落ち着きなさい。今から行ってもどうしようもないでしょ？今二つのダンジョンのどちらかに急遽助けに行く事になった場合、それができるのはあなたしかいないのよ？一体何の為にセレナも入ってると思うの？いつもセレナは待たされてばかりで、ランスは一度も許可していないでしょ。彼女もダンジョンで役に立ちたいのよ。だから怒らないであげて」

　俺は項垂れて分かったとしか言えなかった。

　ただ、もしもに備えたいと。ダンジョンには入らないからと、念話が来たら直ぐに動けるように入り口を見たいと言った。俺が約束したので流石に反対はできなかったようで、渋々了承してくれた。正確な場所を知っている中で夜目の効くトリシアが案内をしてくれる事になった。

　アトランジェを手招きし、二人を伴いダンジョンの近くの転移ポイントにゲートを出した。

　セレナが俺に渡していた転移ポイントの地図にある場所からのスタートだ。セレナが留守を統括するクロエに俺がこうするだろうからと、最寄りの転移ポイントを伝えてからダンジョンに入ったのだ。

　流石はセレナといった所だ。なんだかんだと言って彼女が俺の事を一番知っている。ひょっとしたらこの世界に来た時に最初に触れたのが彼女だからかもだ。トリシアにダンジョンの場所を案内されたが、やはりセレナがこうなる事を予見しており、予めトリシアが案内出来るように、道案内をおねがいしていた。かつて一緒にダンジョンに入っていたからよく知っていた。

　やはりだが、ダンジョンに入っている者とは連絡が出来なかっな。ただ、俺のステータスの刻印者一覧には今の所誰一人欠けては居ない。それはつまり全員生きていると言う事だ。


　1つ目の入り口を確認し、中を覗いたがシーンと静まっていた。トリシアに促され2つ目に行った。やはりこちらも軽く中を覗いたがどうにもならなかった。

「大丈夫だから、ね、帰ろう？ランスがドンと構えてくれていると皆安心するんだぜ！な！帰ろうぜ！」

　俺はうんと頷き、屋敷に帰った。

　俺はトリシアにああ言われたが、やはり心配だ。

　落ち着きのない俺をアヤメとリリアは俺の部屋に半ば引きずるように連れて行った。
　そして歯を食いしばって！と言うと、二人から平手が飛んできた。呆気に取られていたが、見事にパチーンと音がした。

　非戦闘系の二人にしっかりしてと言われたのだ。ダンジョン組が帰ってきたらお帰りと、お疲れ様と言ってあげてと泣いて頼まれた。この二人は言わば影だ。皆の為に裏方に撤している有り難い存在だ。しかし珍しく行動に出ていた。

　そのお陰で、俺も漸く俺のすべき事を思い出した。

　その後食事をし、風呂に入った。皆が入ったあと、そっと風呂場に行った。この屋敷で俺がやらせてもらえるのは修繕は除くが、日常の事として風呂掃除だ。

　皆を迎えるのにいつにも増して掃除に勤しんだ。勿論普段から掃除は行き届いている。俺のポリシーで、半年に一度クリーンで屋敷全体の汚れを取る以外ではクリーンを使わない。ブラシで床を擦る。すると僅かに、ほんの僅かに削れていく。年月と共に味と言うか風格が出てくる。クリーンではそうは行かない。俺は真心を込めて掃除をした。セレナ達に俺が綺麗にしたお風呂で気持ち良く疲れを癒やして貰う為に。