上 下
56 / 73

第56話 ピコピコ

しおりを挟む
 その武器は【ピコピコハンマー1号】と浅香により名付けられた。見た目はまさに子供が遊ぶあの赤い【ピコピコ鳴るハンマー】をそのまま巨大化させたものだ。

 持つとコミカルに見えるが、実際はかなりの威力を秘めている。サイズは2歳児が持つおもちゃのハンマーの比率でスケールアップしたような感じで、全長も大きく、重さは8kgほどだ。

 そして見た目以上の破壊力がある。特に、質量以上の衝撃力を持つため、レアリティとしてはSSR級の性能を誇る。
 恐らく魔力を吸い上げて攻撃力を上乗せするのだろうと思った。
 詳しくは鑑定待ちだが、浅香のツボに嵌ったようだ。

 難点はその『ピコピコ』という音だ。
 攻撃するたびに大きな音が鳴り響くため、隠密行動には不向きだが、浅香はそれさえも楽しんでいる様子だ。

 試しに2階に降り立ち、最初に出現した魔物に浅香がハンマーを振り下ろすと一撃で粉砕した。威力は確かに折り紙つきだが、見た目と音のために人気がないのも納得できる。
 ネットでと言うか、配信サイトでピコピコハンマーゲットしましたと、視聴稼ぎの為にネタ配信をしているハンターがおり、以前クラスの奴のスマホで見た覚えがある。
 驚いたことに浅香はガチで使うつもりのようだ。

「やりました! こんなに強いなんて!」 

 浅香は大喜びで、その様子に友梨奈と弘美も驚きつつ、その異様な見た目の武器に少し笑いをこらえていた。

 ダンジョンを出た俺たちは更衣室で着替え、荷物をまとめてギルドに向かった。道中、浅香がピコピコハンマーを抱えてバスに乗ると、車内の乗客たちから奇異の目で見られる。仕方なく、俺の黒い外套を貸して隠そうとしたが、大事なレアアイテムである外套の使い方が雑すぎて「なんか違う・・・」とぼやくしかなかった。目的外の使い方が多すぎるんだよな・・・

 ギルドに着くと、水木さんがカウンターで迎えてくれた。俺たちが近づくと、例のピコピコハンマーを目にして生暖かい目を向けてきた。

「また可愛い女の子を連れてきたんですね。それにしても・・・その武器、なかなか個性的ですね。名前、考えました?」

「『ピコピコハンマー1号』です」
「いい名前ですね」

 浅香が少し得意げに答えると、水木さんは微笑みを浮かべたが、どこか言葉の端々に皮肉が混じっている気がした。また、顔が少し引きつっていたような気がするが、指摘しないのが皆の幸せのためだろう。

 換金作業が進み、最終的な金額が算出される。1階層の魔物12体、ボス1体、そして2階層の魔物2体の戦果で合計は42,000円ほど。思ったより良い成果だ。俺と友理奈が索敵をし、発見次第2人が対処するのを繰り返していたから、短時間でそこそこ倒せていた。
 まあ、4人でという事を考えたら及第点となる。

「さて、分配だけど・・・2人で分けてよ」

 俺が切り出すと、浅香がすぐに手を振って言った。

「私はいいです!だって、ほとんど先輩と友梨奈さんが頑張ったんですから!それに私にはこのピコピコハンマー1号があるよ!」

 弘美も頷きながら口を開く。

「そうです。私も分配なんていりません。ただ、申し訳ないので4等分にしておけば公平ではないですか?倒したのは私たちですが、指導してもらっていましたから」

 だが、俺は首を振った。

「いや、それはダメだ。今日の稼ぎは全員での成果だ。経費を引いて、残りを均等に分けるのがパーティーのルールだよ」

「でも・・・」

 浅香が納得いかない様子で言葉を濁す。

 友理奈が追い打ちをかけた。「それなら私の分も浅香さんと弘美さんの分に回してください」

 などと言い張り、収拾がつかない。仕方なく俺は少し強引に分配を決めた。

「じゃあ、こうしよう。弘美、君は装備を買わないといけないから多めに持っていけ。そうだな、浅香が、1で、弘美が2だな。それでもだめだと言うなら全員で均等に分けるぞ」

 そう言って俺は強引に浅香と弘美のカードに、それぞれ適切な金額を振り込んだ。

「ありがとうございます・・・でも、なんだか申し訳ないです」
「次はもっと頑張ります!ありがピコピコなの!」
 弘美が小声で礼を言うと、浅香もと拳を握りしめてお礼を言ったが、言質がピコピコになっていて皆の笑いを誘った。

 そのやりとりを見ていた水木さんが、生暖かい目を俺に向けながら言った。

「市河様、いいリーダー振りをしてますねぇ。でも、あまり無理しないでくださいね。特に他の方のお財布事情とか考えてくださいね」

「・・・わかってますよ」

 俺は水木さんの指摘に肩をすくめるしかなかった。

 外に出るとすでに日が暮れていた。明日はもっとスムーズに動けるように準備しないとな、と心に決めながら4人とも帰路についた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

現代ダンジョンで成り上がり!

カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる! 現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。 舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。 四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

落ちこぼれの烙印を押された少年、唯一無二のスキルを開花させ世界に裁きの鉄槌を!

酒井 曳野
ファンタジー
この世界ニードにはスキルと呼ばれる物がある。 スキルは、生まれた時に全員が神から授けられ 個人差はあるが5〜8歳で開花する。 そのスキルによって今後の人生が決まる。 しかし、極めて稀にスキルが開花しない者がいる。 世界はその者たちを、ドロップアウト(落ちこぼれ)と呼んで差別し、見下した。 カイアスもスキルは開花しなかった。 しかし、それは気付いていないだけだった。 遅咲きで開花したスキルは唯一無二の特異であり最強のもの!! それを使い、自分を蔑んだ世界に裁きを降す!

世界中にダンジョンが出来た。何故か俺の部屋にも出来た。

阿吽
ファンタジー
 クリスマスの夜……それは突然出現した。世界中あらゆる観光地に『扉』が現れる。それは荘厳で魅惑的で威圧的で……様々な恩恵を齎したそれは、かのファンタジー要素に欠かせない【ダンジョン】であった! ※カクヨムにて先行投稿中

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜

むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。 幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。 そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。 故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。 自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。 だが、エアルは知らない。 ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。 遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。 これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。

処理中です...