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第54話 オーバーキル
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翌日の放課後、俺が教室を出た瞬間、元気ハツラツな浅香が勢いよく背中に飛びついてきた。
「市河先輩、今日は一緒にダンジョンで暴れましょう!」
突然の衝撃に思わず前のめりになったところ、呆れ顔の弘美が浅香を引き剥がしてくれる。
「ちょっと、浅香! 無茶するんじゃないってば!先輩が困ってるじゃない」
「だって一緒に行ってもらえるから嬉しいんだもん!それにほら、先輩困ってはいないと思うよ!」
浅香はニコニコと笑顔を浮かべながら、今度は友理奈の腕を取る。
まさか背中に感じた幸せな感触で顔がにやけたか?友理奈に見られてないか?余計なこと言わないでと顔が引きつる。
「さあ行きましょう!」
そして浅香は元気よく声をあげ、ダンジョンに行こうと校舎の外に向かって歩き出した。友理奈も困惑しているが、弘美がペコリと頭を下げ俺の隣、いや半歩後ろを歩く。
おかしいな・・・下駄箱のところで待ち合わせだったはずだけど、まあ良いか。
・
・
・
ダンジョンの入口に到着すると、入口の直ぐ横手にある建物に向かう。
そこには男女別の更衣室兼ロッカールームがあるが、建物と言っても元々普通の家だったところだ。
流石に一般人がダンジョンの直ぐ近くに住むなんてのは、恐ろしくてできるようなものではないから、ハンター協会が買い上げて更衣室として使っている。
俺たちはその元民家に入り、服やら通学カバン、スマホなどをロッカーにしまう。スマホをダンジョン内に持っていく人もいるけど、いくらハンター用のタフネス仕様のスマホとはいえ、例えばバットで殴れば壊れてしまう。だからよほど自信がある人じゃないと、ダンジョンに持ち込むのは避けるものだ。もしくは壊れても痛くない安物だ。
俺も武器(槍)の封を解き、そのケースをロッカーにしまうと、いつもの黒い外套を羽織る。
「今日も頼むぜ! 相棒!」と心の中で言いながら、ダンジョンでの相棒となる槍と盾、そしてこの外套をしっかりと装備した。
そして更衣室から出て来た浅香と弘美の格好を見て驚いた。
弘美は先日の戦闘服をそのまま継いだり直して使っているが、浅香の方はどう見ても安物の厚手の作業服を着ている。
しかも、彼女の手には野球用の金属バットが握られていた。弘美も木刀を持っているが、それもかなり使い古されているようだ。この前までの俺の格好を彷彿とさせる。
俺が驚いていると、浅香が申し訳なさそうに言った。
「先輩も知ってると思うけど、この前、ダンジョンで装備を失っちゃって・・・親には内緒だから、こんなのしか買えなかったの」
弘美も少し恥ずかしそうに頷き、二人とも事情を察して俺は納得した。
「じゃあ、今日は1階層から始めよう。まずは二人の戦いを見させてもらうよ」
そう宣言し、見守ることにした。
ダンジョンの1階層で、二人の戦いを見るのだが、すぐに予想を遥かに下回る結果に唖然となる。
浅香は現れた弱い魔物・・・ラットにいきなり種を投げ、スキルを発動してその魔物を拘束するが、その後の次の攻撃が大振りすぎ、一度空振りをしてしまう。
隣で弘美も別のラット相手を始めたが、同様にスキルを発動する。
大量の石礫を放つなど、いきなり全力の「オーバーキル」だ。それも必要以上の魔力を使っているせいか、二人ともドヤ顔で得意げにしているものの、見ているこちらが心配になる。
石の盾を形成する時に相手の魔力を魔物に向けると、形成するはずの石礫をぶつける形での攻撃が可能で、ストーンバレットモドキを放つ。
俺はため息をつきながら苦言するしかなかった。
「おいおいおい・・・お二人さんや、1階層からそんなにスキルを使ってたら直ぐに魔力が尽きるよ。攻撃を受けたら助けるから、怖がらずにここは武器だけで戦ってようか」
アドバイスというか、指示をする。
それでも二人は慣れていない様子で大振りの攻撃を繰り返し、間合いも掴めていない。
それにより攻撃がなかなか当たらなく表情が険しい。魔物が反撃してきた際、慌てて俺が盾で攻撃を受け止める羽目になることもあった。
5階層では何体か倒しているはずだから、当たれば倒せるのに、的が小さいからか中々当たらない。
隣では友理奈が浅香を助けながら戦っており、俺はそんな様子を見て、これからの道のりが前途多難であることを痛感する。
なんでこうなるか・・・俺なんかよりよっぽど初期パラメーターが上なのにと、一瞬天を仰ぎ見た。
「・・・まだまだ修行が必要だな」
俺は心の中で小さくため息をつくのだった。
「市河先輩、今日は一緒にダンジョンで暴れましょう!」
突然の衝撃に思わず前のめりになったところ、呆れ顔の弘美が浅香を引き剥がしてくれる。
「ちょっと、浅香! 無茶するんじゃないってば!先輩が困ってるじゃない」
「だって一緒に行ってもらえるから嬉しいんだもん!それにほら、先輩困ってはいないと思うよ!」
浅香はニコニコと笑顔を浮かべながら、今度は友理奈の腕を取る。
まさか背中に感じた幸せな感触で顔がにやけたか?友理奈に見られてないか?余計なこと言わないでと顔が引きつる。
「さあ行きましょう!」
そして浅香は元気よく声をあげ、ダンジョンに行こうと校舎の外に向かって歩き出した。友理奈も困惑しているが、弘美がペコリと頭を下げ俺の隣、いや半歩後ろを歩く。
おかしいな・・・下駄箱のところで待ち合わせだったはずだけど、まあ良いか。
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ダンジョンの入口に到着すると、入口の直ぐ横手にある建物に向かう。
そこには男女別の更衣室兼ロッカールームがあるが、建物と言っても元々普通の家だったところだ。
流石に一般人がダンジョンの直ぐ近くに住むなんてのは、恐ろしくてできるようなものではないから、ハンター協会が買い上げて更衣室として使っている。
俺たちはその元民家に入り、服やら通学カバン、スマホなどをロッカーにしまう。スマホをダンジョン内に持っていく人もいるけど、いくらハンター用のタフネス仕様のスマホとはいえ、例えばバットで殴れば壊れてしまう。だからよほど自信がある人じゃないと、ダンジョンに持ち込むのは避けるものだ。もしくは壊れても痛くない安物だ。
俺も武器(槍)の封を解き、そのケースをロッカーにしまうと、いつもの黒い外套を羽織る。
「今日も頼むぜ! 相棒!」と心の中で言いながら、ダンジョンでの相棒となる槍と盾、そしてこの外套をしっかりと装備した。
そして更衣室から出て来た浅香と弘美の格好を見て驚いた。
弘美は先日の戦闘服をそのまま継いだり直して使っているが、浅香の方はどう見ても安物の厚手の作業服を着ている。
しかも、彼女の手には野球用の金属バットが握られていた。弘美も木刀を持っているが、それもかなり使い古されているようだ。この前までの俺の格好を彷彿とさせる。
俺が驚いていると、浅香が申し訳なさそうに言った。
「先輩も知ってると思うけど、この前、ダンジョンで装備を失っちゃって・・・親には内緒だから、こんなのしか買えなかったの」
弘美も少し恥ずかしそうに頷き、二人とも事情を察して俺は納得した。
「じゃあ、今日は1階層から始めよう。まずは二人の戦いを見させてもらうよ」
そう宣言し、見守ることにした。
ダンジョンの1階層で、二人の戦いを見るのだが、すぐに予想を遥かに下回る結果に唖然となる。
浅香は現れた弱い魔物・・・ラットにいきなり種を投げ、スキルを発動してその魔物を拘束するが、その後の次の攻撃が大振りすぎ、一度空振りをしてしまう。
隣で弘美も別のラット相手を始めたが、同様にスキルを発動する。
大量の石礫を放つなど、いきなり全力の「オーバーキル」だ。それも必要以上の魔力を使っているせいか、二人ともドヤ顔で得意げにしているものの、見ているこちらが心配になる。
石の盾を形成する時に相手の魔力を魔物に向けると、形成するはずの石礫をぶつける形での攻撃が可能で、ストーンバレットモドキを放つ。
俺はため息をつきながら苦言するしかなかった。
「おいおいおい・・・お二人さんや、1階層からそんなにスキルを使ってたら直ぐに魔力が尽きるよ。攻撃を受けたら助けるから、怖がらずにここは武器だけで戦ってようか」
アドバイスというか、指示をする。
それでも二人は慣れていない様子で大振りの攻撃を繰り返し、間合いも掴めていない。
それにより攻撃がなかなか当たらなく表情が険しい。魔物が反撃してきた際、慌てて俺が盾で攻撃を受け止める羽目になることもあった。
5階層では何体か倒しているはずだから、当たれば倒せるのに、的が小さいからか中々当たらない。
隣では友理奈が浅香を助けながら戦っており、俺はそんな様子を見て、これからの道のりが前途多難であることを痛感する。
なんでこうなるか・・・俺なんかよりよっぽど初期パラメーターが上なのにと、一瞬天を仰ぎ見た。
「・・・まだまだ修行が必要だな」
俺は心の中で小さくため息をつくのだった。
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