上 下
21 / 73

第21話 トラウマ

しおりを挟む
 俺が死にかけたあの事件から一週間ちょいが経過したが、この間、レイド隊のリーダー田村と第2隊のリーダーてある鷹村が指名手配され、逃亡中だということが明らかになった。
 そして新司は・・・遠く離れた岡山県で保護された。何とか無事だったようだが、事件の影響は大きかった。

 そんなある日、ギルドから呼び出しを受けた。
 会議室に通されるとギルドの重役たちがおり、指名手配された二人以外のメンバーについて、どう処分するかを俺に尋ねてきた。
 市のハンターギルドではなく、県のハンターギルドの幹部が来ていて、他の市のギルドマスターもいた。

「市河君、彼らについてはどうするかきまったかい?」

 俺の所属するギルドのギルドマスターである天藤さんが真剣な表情で問いかけてくる。俺は少し考えを整理し、答えを出した。

「正直なところ、春森新司をはじめ、他のメンバーたちは、あの二人――隊長の田村氏と第2部隊のリーダー鷹村氏の意図に巻き込まれた形だと思っています。彼らが俺を見捨てたのは突然のイレギュラーのことで、咄嗟に判断を誤った結果だったんじゃないかと感じます。全てが混乱していて、分かって俺を生贄にとしたのはあの二人と春森だけだと思いますが、春森は咄嗟のことにパニックになったからああしてしまったと思います。ですがあの二人は元々万が一の時は俺を生贄にすることを決めていたのだと思います」

 俺は冷静に答え、周りを見渡すも誰も何も言ってこないので続けた。

「本当に俺を殺そうとしていたのは、あのリーダーと第2部隊のリーダーだけです。他のメンバーに関してですが、春森新司も含めて、彼らはお咎めなしでいいと思っています」

 そう続けると、ギルドの重役たちは少し驚いたような表情を浮かべた。

「それと、ボスドロップと魔石以外は俺のものにさせて欲しいです。あの状況で俺は命を賭けて戦ったんだからそれくらいの権利はありますよね?。それ以外の戦利品は、人数割りで公平に分けて欲しいんです。彼らにも生活があります。レイド戦に参加し、何も得ないのは流石に可哀想です。最低限の報酬以外支給されない・・・これが俺一人を生贄にした皆さんの罰とし、文句を言わない・・・では駄目ですか?」

 俺はしっかりと要求を伝えた。

 ギルドマスターは少し黙って俺の言葉を噛み締めるように考え込んでいたが、やがてゆっくりと頷いた。

「君の決断、尊重しよう。他の者たちにはお咎めなしとし、君の提案どおりボスドロップと魔石は君に、他のものは公平に分けることとする。ありがとう、しっかり考えてくれたんだね」

 天藤さんはほっとしたように言った。

 俺はその言葉に軽く頷きながらも、まだ心のどこかで引っかかるものがあった。しかし、これが最善の結果だと信じて、ギルドを出てダンジョンへ向かうことにした。今後のことを考えながら、俺は新たな一歩を踏み出す覚悟を固めていた。

 結局、装備や持ち物は手元に残った。俺のリュックはレイド隊のリーダーが持ち去ったと思っていたが、誰かが回収してくれていたらしい。ボス部屋に辿り着く前にリュックに入れておいた物は無事で換金できていた。指名手配中の二人が行方をくらませたこともあって、残りのメンバーに分けた額は、一人あたり三万円にしかならなかった。

 あの二人が俺のリュックを無視したのは恐らく自分たちの荷物の回収を優先したからだろう。一度投げ捨てたり、落とした荷物を拾いに戻る余裕があったのに、俺のリュックには目もくれなかった。それが結果的に俺にとっては幸運だった。

 とはいえお金はすぐに無くなる。
 まだ今は余裕はあるが、今日もダンジョンに向かうことにした。生活費を稼ぐためには、少しでも早く収入を得る必要がある。

 ダンジョンへ向かおうとした途端、森雪さんが俺がダンジョンに向かおうとしていることに気づいたようだ。
 森雪さんは学校から当たり前のようにギルドについてきたが、ロビーで待っていた。呼び出された話をし、また明日ね!とここでお別れとしたが、悟られたようだ。

「私も一緒に行く」  

 迷うことなくそう言った彼女は、かなり前から俺のことを色々と気にかけてくれているし、俺も拒む理由はなかった。
 今日は軽く1階層の魔物を狩るつもりでサブウェポンのコンバットナイフで戦うつもりだった。だからギルドで軽装の服に着替えてからダンジョンに向かう。

 そうしてバスに乗りダンジョンに向かう。
 ダンジョンに一歩踏み入れると、森雪さんは突然腰を抜かしてしまった。足が震えて先に進めず、その場に座り込んでしまった。涙を浮かべながら震える彼女を見て俺は驚いた。

「も、森雪さん、大丈夫?」

 慌てて声をかけ、落ち着かせようとそっと抱きしめた。抱きしめちゃった。
 嫌がられなかったし、これが最善だと思ったんだ。

 しばらくして彼女は少し落ち着いたようだが、どうやらレイド戦にてボス部屋で起こった一件がトラウマになっているらしかった。あの恐怖がまだ彼女の中に深く刻まれていて、ダンジョンに入ること自体が辛くなってしまったのだろう。これは、珍しくない話だ。戦いの恐怖が心に深く残り、二度と戦えなくなる人は少なくない。

 彼女を無理に連れて行くわけにはいかないので、結局、今日は彼女を家に送ることにした。

 ダンジョンをすぐに出たが、森雪さんは一歩も歩けなかった。

 その後俺たちは無言でバスに乗り、駅に着いてからタクシーで森雪さんの家に向かう。
 彼女の家に着くと改めて思ったのは、彼女は良いところのお嬢様で、俺とは住む世界が違うんだなと思い知らされた。

 あるところにはあるんだなぁといった家というか豪邸に送り届けた時、その現実がはっきりと俺の胸に刺さった。俺はただの低ランクハンターで、毎日必死にダンジョンで稼がなければ生活すらできない。彼女とは違う世界に生きている。

 森雪さんは俺に深々とお辞儀をすると家の中に入る。

 言葉を発すると泣いてしまうからと、黙っていたんだと思う。ドアが閉まると俺は森雪さんの家を出たが、玄関に家政婦さんがいたからもう心配はないだろう。

 だが、それでも彼女は俺を気にかけてくれる数少ない存在だ。そんな彼女に感謝しつつ、俺は一人でまたダンジョンへと向かった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

現代ダンジョンで成り上がり!

カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる! 現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。 舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。 四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

落ちこぼれの烙印を押された少年、唯一無二のスキルを開花させ世界に裁きの鉄槌を!

酒井 曳野
ファンタジー
この世界ニードにはスキルと呼ばれる物がある。 スキルは、生まれた時に全員が神から授けられ 個人差はあるが5〜8歳で開花する。 そのスキルによって今後の人生が決まる。 しかし、極めて稀にスキルが開花しない者がいる。 世界はその者たちを、ドロップアウト(落ちこぼれ)と呼んで差別し、見下した。 カイアスもスキルは開花しなかった。 しかし、それは気付いていないだけだった。 遅咲きで開花したスキルは唯一無二の特異であり最強のもの!! それを使い、自分を蔑んだ世界に裁きを降す!

世界中にダンジョンが出来た。何故か俺の部屋にも出来た。

阿吽
ファンタジー
 クリスマスの夜……それは突然出現した。世界中あらゆる観光地に『扉』が現れる。それは荘厳で魅惑的で威圧的で……様々な恩恵を齎したそれは、かのファンタジー要素に欠かせない【ダンジョン】であった! ※カクヨムにて先行投稿中

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜

むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。 幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。 そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。 故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。 自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。 だが、エアルは知らない。 ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。 遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。 これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。

処理中です...