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第15話 ギルドマスター

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 ギルドの人と思われる年配の男性が俺をじっと見つめた後、水木さんに軽く頷きながら自己紹介を始めた。

「私は天藤だ。ここ霧ヶ崎市のハンターギルド長を務めている。つまり水木の上司だ。」

 その声には威厳があり、ただならぬオーラが漂っていたが、なるほど、ギルド長なら納得だ。

 霧ヶ崎市は俺が住んでいる街で、ここのギルドは県内でも特に権力を持つとことだが、ギルド長が直接出向く事態になるとは思ってもみなかった。

 天藤ギルド長は深いため息をつき、険しい顔つきで続けた。

「今回のレイド、特に問題視されているのは一番隊のリーダー、つまり隊長である田村の行動についてだ。君が属していた四番隊がどうして参加したのか不明だが、現段階ではどうやら各パーティーのリーダーと何かしらの繋がりがあるらしいとしか言えない。その田村に関してだが以前から良くない噂があった。証拠がなかったためこれまで追及を避けていたが、今回の件で放置するわけにはいかなくなった。」

 俺はその言葉に驚きを隠せなかった。田村――一番隊のリーダーが問題を抱えていたなんて知らなかった。確かにレイドでの一番隊の動きには違和感を覚えたが、それがここまで大きな問題だとは思っていなかった。パニックになってしまったと言われればそうなのかな?と思わなくもない状況だと思っていた。

 天藤ギルド長は俺の表情を読み取り、少し柔らかい口調で続けた。

「市河君、君が何を経験したのか、そしてどうやってここまで生き延びたのか、田村を追い詰める為にも洗いざらい話してくれ。スキルを得たことも含めて、できれば何も隠さずに。ボス部屋に誰もいなかったと聞いたが、ありえない状況に頭を悩めている」

 俺は覚悟を決め、レイドでの出来事をすべて話し始めた。四番隊にいた俺がどのようにレイドに巻き込まれたのか、ボス部屋で置き去りにされ、絶望的な戦いを強いられたこと。殺される直前に荷物持ちとしてリュックを背負っていたが、そこに入っていたスキルオーブが割れてスキルを取得した。
それによりなんとか生還できたこと。その時の苦しみや恐怖をありのままに語ったが、レイド戦の後に見つけたスルメイラのカードの事を口にはしなかった。レイド戦をどう生き抜いたのか、ハーミットで気配を消してダンジョンを去ったと話した。脚の怪我は特に話す必要なかったが、手の方はどうしようもない。
そのうち生えるのでスキルを得たことがばれると思い、肉体再生についても話した。ただ、スルメイラの事を含め、いくつかのことは話さなかった。
 つまり嘘を吐かなかったが、全てを語った訳ではない。

 色々と隠すつもりはなかったけど、聞かれたことに対して話したから抜け落ちた・・・
 途中で話し忘れたなと思った事もあったが、ギルドマスターが知りたいことと関係ないことについて話さなかっただけだ、

 天藤ギルド長と水木さん、そして校長の三浦先生は俺の話を黙って聞いていた。森雪さんは・・・俺の肩は彼女の涙で濡れていたとしか言えなかった。

 天藤ギルド長は俺の話が終わると深く頷き、慎重な口調で言った。

「よく話してくれた。だが、このことは他言してはならない。君が得たスキルを含め、今はまだ公にすべきではない。肉体再生だけはどう見ても隠せないので、それは仕方ないが、私たちはこれから慎重に対応を進めるつもりだ」

 ふと気になって、俺は新司のことを聞くことにした。

「ところで、春森新司はこの件に関与しているんでしょうか?」

 天藤ギルド長が口を開こうとしたその時、水木さんが言葉を遮るように答えた。

「春森君は一番隊のリーダーである田村とダンジョンで知り合ってからの付き合いらしいの。時々レイド戦に誘われたりしてたようだけど、詳しくわ分からないわ。そして・・・田村と鷹村のパーティーメンバーや、彼らが率いたレイド戦の死亡率は他より高いの。にも関わらず昔からのメンバーは死なず、新規の者ばかりが死んでいるの。何度か異常だと報告したけど、証拠をつかめずにどうにもならなかったの。」

 天藤ギルド長は水木の話が途切れると続きを話し始めた。

「田村と鷹村は従兄弟同士だ。だからこそ、今回の一番隊のリーダーとしての田村の行動は、なおさら問題視されている。関係が近いため、複雑な背景があることも確かだが、それでも公正な判断を下さねばならない。君は自分がどういう意図で生贄にされたのか理解していないようだな。確かにあのボス部屋には特定の箇所に何かがあれば扉が閉まらない、但し一度閉まると全滅かボスを倒さないと開かなくなる仕掛けがあるが、別に人がいなくても良いのだよ。君が動くなと言われた場所に相応の重りを置くのでも良かったのだ。」

 俺はその言葉に、レイドの背後にある複雑な人間関係と、これから起こるであろう出来事を感じ取り、少し不安を覚えた。

「市河君、君がよく頑張ったことは分かっているわ。だけど、これからは慎重に行動する必要があるわ。」

 水木さんが優しい声で言い、俺はその言葉を受け入れることにして無言で頷いた。
心の中ではまだ不安が残っていたが、今は彼らの判断に従うしかなかった。天藤ギルド長の指示で、俺の身の安全を確保するための手配も進められることになり、状況が少しずつ動き始めたことを感じた。

 これから何が起こるのか、そして一番隊のリーダー田村に対する追及がどのように進むのか。すべてが不確定な中、俺は新たな覚悟を胸に抱いた。

「でも、春森新司自体は直接この件には関与していないと思われるわ。単なるレイド戦の参加メンバーだった訳ね。ただ、彼がどこまで知っているかはまだ不明だから、これから調査が必要なの。だから少し時間が欲しいわ」

 天藤ギルド長は軽く頷き、話を続けた。

「春森新司の件についても、今後調査が進むだろう。君がこれまで話してくれた情報は大いに役立つだろう。だから、もし新たに思い出すことがあれば必ず伝えてくれ。ただ、春森は罪の意識に苛まされパニックになっただけだと思う」

 そして、天藤さんは少し慎重な顔をして俺を見つめた。

「市河君、君にはいくつかの選択肢がある。この件に対して高額の賠償を請求することも可能だし、問題を起こした者のハンター資格の停止や封じ込めの処置もできる。もちろん、君がどうしたいか、最終的には君の希望に基づいて対応する。」

 俺はその言葉に少し考え込んだ。賠償や処罰という言葉が現実味を帯びて迫ってきたが、今の自分に何が最善なのかすぐには分からなかった。

 天藤ギルド長は俺の表情を見て続けた。

「だが、これらの保障に関してはすぐに決める必要はない。君には時間が必要だろうし、状況が落ち着いてから改めて考えることにしよう。」

 俺はその言葉に少し安心し、静かに頷いた。今すぐ答えを出す必要がないことに、少しだけホッとした気持ちになった。

「市河君、君の希望がどうであれ、私たちは君を守るし、正義を追求するつもりだ。だから、今はしっかり休んで回復に努めてくれ。」

 水木さんが優しい声でそう言ってくれた。

 そして、俺は天藤ギルド長や水木さん、校長先生に見送られながら、少しだけ気持ちが軽くなった状態でその場を後にした。まだ何も解決していないが、今後どうなるのか、少しずつ前に進む覚悟ができてきた気がする。
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