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第2章

ランチ

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 シャロンはノエルに腕を組まれ、更に太一はシャロンに手を引っ張られ食事をしに向かっていた。やはりロビーにいる冒険者の視線が痛いが、腕を組まれているのはシャロンであるのだが、睨んでいた者達は驚いていた。ノエルはその美貌から女性から僻まれ、女性の友人が出来ないからだ。

 幸い太一を見てもノエルの友達になった女性の仲間か彼氏だろう、その程度の認識であった。

 そうこの日はノエルは自分に冒険者がついてくると予測しており、男性だけでは入り難いお店を選んでいた。

 太一は聞いている話からそんな事だろうなとは思いつつも大人しくノエルに従い、導かれるまま店に入って行く。

 文字は何とか読めるようにはなったが、流石にどの店が美味しいのだとか、評判がいいというのは分からず、ここは街を知っている者に任せる一択しかなかった。

 今日はギルドの併設の酒場で食事をしようと思っていたのであったがあまり味については評判が良くない。

 ノエルの選んだ店は小洒落たカフェのようなお店で、酒場が似合うような無骨な冒険者には不向きな、そんな店であるから客は見目麗しい女性ばかりであった。

 流石にストーキングしている冒険者達はこの店はまずいと思ったのか、中に入るのを断念していた。

 メニューを見ながら太一がノエルにこのゾ?ドトールの蒸し焼きというのはどんなのだい?だとかをメニューを見ながら聞いていた。単語を棒読みしている為、発音がおかしいのだが、それでも何を言ってるのか理解できるだけの読み方を出来ているというのが把握でき、ノエルが驚いていた。

「あの、ロイ様は文字の読み書きが出来ないとおっしゃっていませんでしたか?」

 シャロンがパッと明るくなり

「そうなの。たいじゃなくてロンじゃなくてロイは夜に猛勉強して簡単な読み書きは何とか出来るようになったの。上達の速さが凄いのよ」

 太一はうなだれた。シャロンが太一と言い掛け、しかもロンと言ってしまい、更に言い直していたからだ。多分偽名だとバレたよなと思うが、幸い他の席から聞こえるような声でも場所でも無かった。

 聞かれたのはノエルだけだと判断した。ノエルは何となく察してしまった。

「あの、ロン様じゃなくてロイ様はひょっとして」

 太一が慌てて口に指を立てて静かにのポーズをする。ノエルは

「分かりました」

 と言ってくれて、取り敢えず食事にしましょうとなり、結局メニューから選ぶのではなく、ノエルのお勧の料理を食べる事にした。

 そう言葉は読めるようにはなったが、メニューの表記からどういう食べ物が出てくるのか想像がつかなかったからである。

 太一はふと思いノエルに確認する。

「そういえば受け付をしただけの俺達の名前をよく覚えていましたね。毎日何人もの冒険者と応対してると思うのですけども」

「はい、私は人の顔と名前だけは何故か記憶力が物凄く良いんです。話をした人であれば顔を見ると名前が思い浮かぶんです。太一じゃなくてロイさんもそうですよ。ロイさんねぇ」

 太一はハッとなった。この人は記憶力が良いんじゃなく、スキルで覚えているんだと。おまけに本名が分かるらしい。先程シャロンが言い掛けた所為かどうか分からないが、太一というのが本名だというのをスキルの力でおそらく読み取ったのであろうと。たい迄は言ったが、太一とは言っていないのだ。ただなんとなく突っ込んではいけないと理解したのかスルーしてくれた。

 太一は今日いきなり受付嬢の一人が自分達と講習を進めていくのがおかしいとは思ったのだ。おそらく申し込み時に異変を感じ、太一の持っている魔法が極大魔法だというのも知られている。その為に太一がどういう人物なのだろうかというのをこの受付嬢が気になり、探りを入れてきたのかなと、そう思ったのだが、シャロンと仲良くしている感じは素でしかない。

 日常の会話をしている中でノエルが年齢を聞いてきた。そう冒険者の登録時に年齢を書かなくても良かったから知らないのだ。

「えっと、お2人は何歳でした?人に聞く前にまず自分の年齢ですよね、私はぴちぴちの20歳です」

 太一は純粋に驚いた。

「てっきり16歳位だと思っていました。僕は19歳です。そしてシャロンも19歳です。確かにぴちぴちの年齢ですが、それを自分から言いますか!」

 シャロンに年齢を伝えていなかったのだ。それとシャロンとノエルが、えっ!という顔して、「若い!」とハモっていた。

「あ、あの、僕って何歳に見えたんですか?」

「25!」

 またもや、ハモっていた。

「男性の歳が上に見えるのは良い事だと思いますよ。貫禄があってね。ほら落ち込まないの。男の子でしょ」

「ロイ様、エルフとヒューマンで年上かどちらかの判断は、ヒューマン換算の年齢で言うのですよ。なので、私とロイ様を比べるとロイ様が歳上なの」

 シャロンも色々フォローを入れてくれた。ノエルは太一をジト目で見ていた。

 そして太一がノエルに

「あのーノエルさん、今日講習が終わった後って何か用事が有りますか?」

「いえ、ありませんが、ひょっとしてデートのお誘いですか?いいですよ!ロイさんからのお誘いならお受けいたしますわ」

「あはははは、半分正解半分間違ってますね。ノエルさんは俺に色々と聞きたい事があるようですね。俺も聞きたい事があるんですよ。なので3人で食事でもどうですか?」

「あら残念。2人っきりで口説いてくれるのかと思ったのに。ふふふ。分かりましたが、私も講習が終わればほどなくして仕事が終わりますので少しだけ待っていてね!。あっ!いけない、私着替えなきゃいけなかったのよ。なのでそろそろお食事を切り上げないとですわ。お茶を早目に飲みましょうか」

「着替えってどうしたんですか?」

「はい、この格好では流石に模擬戦などはできないでしょ?。実は今日私はサポートをしながら講習参加なんでよ」

「あーなるほど。それでずっといたんだ」

「うん。私ね、そろそろ受付を辞めようと思って、冒険者になろうと思ってるんです」

「どうして?人気の受付嬢だよね?」

「私の取り巻きがいるのは知ってますよね?私は人気の受付嬢と確かに言われています。先程ロイ様は睨まれてましたよね。ロイ様を睨んでいた彼らの為に、私は稼ぎが物凄く悪くて、正直生活するのも苦しいんです」

「なるほど。ちょっとトイレに行ってくるので、俺が戻ったら店を出ましょうか」

 と言いつつ太一はトイレに行く振りをした。真っ先に食べ終わった太一はトイレに向かうかのようにふるまっていたが、トイレが目的ではなく、支払いをする為だ。そうさりげなく。

 太一の頭の中では女性に支払いをさせずに男が払う、しかもさり気なくが美学となっていた。

 会計を済ませた太一がトイレから戻り、皆で店を出ようとした時にテーブルの上に伝票の代わりとなる札がなくなっている事にノエルが気が付くのだが、太一が先に入り口に向かい、

「ごちそうさまでした。美味しかったです」

 と言うと店員が

「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」

 とそのまま見送られ、シャロンとノエルは太一が先に支払ってくれたのだと理解した。ノエルが財布を出そうとするので太一はその手を握り財布を出すのを止めさせて

「お金には困っていないんだ。それに女性に払わすなんて俺には出来ない。綺麗な女性の前で格好を付けさせてよ」

「お上手なのね。あの、いつの間に支払いをされていたんですか?この店は来た事がないですよね?」

「あっ!先程トイレに行くと言っていたのはひょっとして?」

「あはははは。うん別にトイレには行っても行かなくても良かったんだけれども、支払ってる所は恥ずかしくて見られたくなかったからさ、さり気なく払いに行ってたのさ」

「まあ素敵!この世界の男性には見られない行動ですね」
 とノエルがくねくねしていた。

 シャロンはちょっとムスッとしていたが、それでもさりげなく支払ってくれた太一が誇らしかった。

 そうして少し早めに切り上げ、太一はゆっくり一人で歩いて行くよと言い、シャロンとノエルが駆け足でギルドに戻って行き、着替えを手伝う為にシャロンはノエルの後について行き、更衣室でノエルの着替えを手伝ってあげているのであった。

 太一はどうするか考えていた。ノエルには自分の正体を、異世界から来た者だと知られてしまったと確信したからであった。
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