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第1章

彷徨う

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 太一は彷徨っていた。山を下る形でおおよその方角だけを定めて一方向に向かってひたすら歩いていたのだ。

 丸2日位歩いただろうか。夜通し歩いていたが、太一は運動が得意なわけでも、歩くのが得意なわけでもなかったのでヘトヘトだった。

 ただ先に、そう先に進まねばいずれ力尽きてしまい、そうなってしまえば魔物や獣に喰われ殺される!その恐怖からひたすら歩いていたのだ。

 そして彷徨い始めてから2日目の朝を迎えた頃だろうか、ようやく遠目に人里と思われる景色が見えてきた。

 そこから少し歩くと念願の街道に出る事ができて嬉しくてつい太一は小躍りしていた。

 街道沿いに歩いて行けば必ず人里に出る筈だ。どっちに行ったものかな?と思いつつなんとなくこっちかなと思った左手の方に進んで行く。

 鬱蒼とした森から所々木がある感じの平原に出ていた。
 時折林があったりはしているが、今は夜が明けたばかりである。当然だがまだ薄暗く、旅人が歩くような時間ではない。まだ睡眠中であったり、早起きしていても食事の準備をしている時間であろうかと思われた。

 そうして歩いていると、食べ物の匂いがしてきた。そう、なんとなく匂いがして来る左に進んだのである。そして先へ進んで行くと街道から一歩入る道があるのが分かった。

 おそらくここから入った所で野営をしているのであろうと判断した。しかしおかしな気配がする。何か金属と金属がぶつかり合うカンカンカンと言う音がし、気の所為か悲鳴も聞こえてくるのだ。

 太一の思考力、判断力は極限まで低下していた。人がいる物音がするし、食べ物の匂いがするから人がいる、これで助かるんだ!そんな事を思いながら、助けて貰おうとして、最後の気力を振り絞り太一はそこに向けてなんとか歩いていた。そして藪を抜け、開けた所に出ると凄惨な光景が広がっていた。野営をしていた商人達だろうか、何者かに襲われていたのである。

 太一はこの凄惨な状況に思考が追い付かず呆然としていたが、襲っている族に姿を見られてしまった。すると太一に向かって矢が飛んできたのだ。幸い矢は戦闘服に弾かれ刺さらなかった。矢を放った族は、鎧を着ている為に矢が効かないのだと判断し、直接襲ってきた。太一は呆然と立ちすくんでいたのであっさり殴り飛ばされた。自分が地べたを這いつくばっている状況 で、ようやく自分が襲われたのだと分かった。

 族は一気に仕留めず、嬲り殺そうとしていて、そいつが剣を振りかざしてきた。太一は必死に避けなきゃと思ったのだが、スローモーションでも見ているかのように剣の軌道が分かるので、あっさり躱す事が出来た。太一ば手に持っていたショートソードを夢中で突いたのだが、たまたまそいつの喉に刺さった。族は喉を抑え、のたうちまわりながらやがて痙攣し、絶命していった。不思議と人を殺した事の罪悪感がなかった。そう喉から血を吹き出し、刺した相手がのたうち回って間もなく死んだのだが、血を見ても何とも思わなかった。

 考える暇が無いうちに太一は女性の悲鳴を聞きつけていた。取り敢えずそちらに足が向かうが、やはり何人かの盗賊に襲われた。フラフラだったが剣の軌道等はよく見え、そいつらを次々と殴りつけて倒して行った。

 剣で刺し殺すのも有ったが、何故か軌道が見え、隙きが分かるったのでがら空きだと思う所にただ剣を突き刺す。そう彼はしらないのだが、ステータスが人外のレベルにまで上がっていて、相手の動きがよく見えていた。軽く突いたつもりが思いっきり突いている状態になる。尤もダンジョンで得た剣が業物で、あり得ない位の切れ味だったのもある。

 顔を殴ったつもりだったが首が折れていたりした。太一は何がなんだかよく分かっていなかった。興奮していたのもあり、アドレナリンがドバドバ出ていていたからかもだ。実際はトランス状態でほぼ無意識に戦っていた。生存本能がそうさせていたのだ。


 異変に気が付いた盗賊達が手練だと認識し、人数差で補おうとし、10人位で囲み一斉に剣で斬り掛かってきた。しかし、そんな攻撃も見えていれば何の事はなく躱す事ができる。太一は剣を握りしめながら一回転しかだ、取り囲んでいた数人の首が飛んでいく。

 凄惨な光景でつい目を背けてしまうような状況だが、太一は何とも思わなかった。そう、今も忌避感が働かないのだ。

 そんな中1台の馬車が揺れていた。そこから女性の悲鳴が聞こえているのだ。その馬車の扉を開けると、下半身をむき出しにした盗賊が女に馬乗りになり、衣服を剥ぎ取っている最中だった。どうやらエルフのようである。それも14、15歳位の少女だろうか。頬は殴られた為か赤く腫れていて、いやーと叫んでいたが、盗賊は余計に興奮し、服を剥いでいった。

 既に下着姿で、今は下着を剥ぎ取らんとして下着に手を伸ばしていた。盗賊によりそのエルフの少女が正に純潔を散らされる直前だったのであった。
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