上 下
2 / 97
第1章

召喚された

しおりを挟む
 太一は大学合格を目指す浪人生だ。普段は夕方に予備校に行くか買い物に出る位しか外に出る事がない。引き籠もりではないのだが、大学に通う同級生に哀れんで見られるのが嫌で、いつしか必要最低限の外出しかしなくなった。勿論僻みからの被害妄想だ

 身長180cm、体重60Kg
 ひょろっとしていて背が高い。学校では無口で影が薄く目立たない感じだった。
 最近は高身長から目立つのを避ける為、いつの頃からだろうか、外出時は猫背になっていた。

 顔は悪くないのだが、目つきが悪く鋭い。その為、見た目は怖く受け止められがちで、強く粗暴に見える。不良に絡まれている者がいて、たまたま遭遇すると不良からは勝てない、殺される、既に人を殺した事のある目だ!等不良達が太一にすれば何故か怯んで逃げて行く。助けた形の者もひぃーと唸りながら逃げ出す感じだ。本当は気が弱く優しいお人好しな性格なのだが、見た目で誤解されているのだ。慎重な性格で、男にしては髪が長く、顔も半ば隠れている。

 太一も悪い。女の子にもてたいと年相応に思うのだが、大好きなミュージシャンの髪型や服装に固執し、ちぐはぐな格好になっていた。似合わないしキモかったのだ。勉強漬けだったのと、女の子に好かれる努力をしなかったから、彼女もずっといなかった。

 頭も良く切れ者なのだが、運に見放されていた。現在浪人生なのは受験に失敗したのではなく、試験2日目に親の車で駅に向かっている時に交通事故に遭っていたからだ。
 信号待ちをしている所に飲酒運転の車に追突され、交差点に押し出されたのだ。助手席側に車が突っ込み、重症を負い救急搬送されていた。肋骨の骨折と左腕を複雑骨折し、全治3ヶ月で、1ヶ月の入院を余儀なくされたのた。幸い送っていた母親は軽い鞭打ちのみで後遺症は無かった。

 また、太一の腕にはボルトが埋め込まれ、受験後に再手術をする予定で、それまでは腕の動きに規制がある。受験後なのは、単に受験を考慮してだった。

 ただ実際の所、運が悪いのか良いのかは分からない。乗る筈だった電車が脱線事故を起し、多数の死傷者を出していたのだ。

 そんな中、予備校帰りに母親からメールが来た。予備校の帰りに買い忘れの食材を買ってきてくれとの買い物のリクエストだった。まあ、いつもの事だなと溜息をつきつつ、帰り道の道沿いに有るスーパーに立ち寄った。立ち寄ったのはごくありふれた地方の町の、更にありふれた大きさの24時間営業のスーパーだ。

 一通り買い物を済ませ、自転車で家に向かっていた。
 空き地の辺りへ通り掛かった時だが、ふと何かが光っているのに気が付いた。止せば良いのに何だろう?と興味を持ち空き地に入って行った。
草むらで何かが光っているのだが、草で隠れていてよく分からなかった。

 草の所為で分からなかったが、そこに描かれていた直径5m位の円形の中に入ってしまった。すると様子が変わった。何かが浮かび上がり始めたのだ。どう見てもそこに浮き上がっているのは魔法陣で、太一が一歩足を踏み入れると光の壁が出来たのだ。太一は咄嗟にその場から離れようとしたが、光の壁に弾かれて尻もちを付いた。

「なんだよこれ。出られないじゃないか。まずいまずいまずいぞ。くそー!確認しに来るんじゃなかった!うわー眩しい!。くそー!どうなっているんだよ!」

 光の壁が眩しく眼を開けていられなかった。意味も無く地面を拳で叩きながら叫んでいたが、ふと光が消えた。

 夜だったのと地面には草が生えていたのだが、光が消えると御影石だろうか、タイルだろうか、固くツルツルの床に膝を付き、ゼイゼイと荒い息をし、両手を付いていた。
 そこは明るく草もなく、何やら周りに人の気配がする。

 太一は変だなと思いつつ周りを確認したが、その様子から思わず絶句した。
 自分と同じように膝をついている男女がいたのだ。確認すると4人いて、皆息を切らせていた。それと少し離れた所にかなりの人数の気配を感じた。

 太一が立ち上がると後の4人も周りをキョロキョロ見渡しながら立ち上がる。セーラー服を着た綺麗な女子高校生、スーツを着たアラサーのリーマン、ジーンズにトレーナー姿の筋骨隆々な若者、そして入れ墨のある20代のチンピラだ。紫のシャツにジャケットといかにもな感じでガタイはかなり良い。

 チンピラが懐から拳銃を取り出し叫ぶ。

「なんじゃいこれは。誰か説明せんか!儂を攫っておいてただで済むと思うなよ!」

 今にも発泡しそうだった。太一が止めに入る。

「えっと、お兄さん、それ本物なら弾丸を節約した方が良いですよ。周りを見てください。訳がわからないですが、武装した集団に囲まれています。拳銃を使っても一人や二人倒してもあっという間にやられますよ。それより、逃げる時等に使う方が生き残る可能性がアガると思いますよ」

 チンピラがいう。

「なんぞけったいな奴に囲まれとるのう。確かに兄ちゃんの言うとおりやのう。誰か説明せんか!ぼけが!」

 女の子がサラリーマンに現状を尋ねていたが首を横に振り分からないという。若者はじっと周りを観察していた。

 太一はなんとなく理解した。理由や手段は分からないが、別の場所に転送されているのと、床に魔法陣が描かれていて光り輝き不思議な力を感じる。また、今居るのがお城の謁見の間か何かのようで、周りの兵士?は槍を携え甲冑を着ていてそれ以外の者は中世の映画などで見るような服を着ている。少なく共太一の知る限り日本にはこのような場所はない。何かのびっくり系のテレビとしても、拉致してきた事になり、あり得ないし、日本国外に連れ出すのは不可能だ。

 自分は異世界召喚されたのだと半ば確信していた。

「どうやら信じ難いですが、周りの様子から異世界召喚されたようです。またはそう思わせる手の混んだ仕掛けでしょうか。もし手の混んだ仕掛けなら拳銃で殺してしまったら殺人罪で捕まりますから、今は相手の出方を待ちましょう。多分前者で、今は僕達が状況を把握するのを待っているのだと思います」

「そうだな、気に入らんが兄ちゃんの言う通りだな。今ぶっ放してドッキリとかだったらパグられるしな。ただな、こんな事をしておいてタダでは済ますつもりはないからな。兄ちゃんも協力せいや。早う責任者こんかい!」

 サラリーマンが太一を見て頷き

「誰か説明してくれ!私達は一体どうなったのか。さっきまで会社にいたんだぞ。訳がわからないんだ」

 若者が太一に

「おいあんた、気が付いているか?なんかゲームみたいに頭の中に画面が出るんだ。視界の片隅になんかカーソルみたいなのがチカチカしてるだろう?」

「あっ!確かに。何かステータスとか見えますね」

 皆驚いていたが、玉座?にいる者が話し出した。

「勇者諸君。先ずは突然の事に混乱しておるであろう。また、突然の召喚にお詫びをせねばならぬ。申し遅れましたが儂はこの国の国王ライザーパール3世と申す。まずは勇者様のお名前をお聞かせ願えませんか?」

 チンピラが名乗るかと思いきや、サラリーマンに手で指示していた。拳銃を持っていて、チンピラなので本物の可能性が高いと思い皆逆らえない

「私は稲垣 修です」

「俺は稲生 隆だ。」

「私は稲村 由美子です」

「儂は稲柄 大二郎」

「僕は稲葉 太一です」

「良かった。こちらの言葉は通じるようであるな。我が国は魔物の驚異に晒されておる。数百年に一度の極大期に入ろうとしており、勇者殿のお力をお借りせねば我らは滅んでしまう。どうか我らをお助けください。勿論相応の謝礼も用意させて頂きます」

 深々とお辞儀をする。

「おう、王様よ、女は手配してくれるんだろうな?毎日女とやれないと儂の気が収まらんぞ!」

「はい。勿論我らをお助け頂ける勇者様にはご希望が有れば部下に手配させましょう。ボーイ、ガールどちらでも。詳しい話は別室で行いますので宜しくお願い致します。」

 有無を言わせず神官や貴族か王族と思わる女性、騎士等に案内され5人が別室に移動して行く。皆情報が欲しく黙って指示に従い移動するのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

修行マニアの高校生 異世界で最強になったのでスローライフを志す

佐原
ファンタジー
毎日修行を勤しむ高校生西郷努は柔道、ボクシング、レスリング、剣道、など日本の武術以外にも海外の武術を極め、世界王者を陰ながらぶっ倒した。その後、しばらくの間目標がなくなるが、努は「次は神でも倒すか」と志すが、どうやって神に会うか考えた末に死ねば良いと考え、自殺し見事転生するこができた。その世界ではステータスや魔法などが存在するゲームのような世界で、努は次に魔法を極めた末に最高神をぶっ倒し、やることがなくなったので「だらだらしながら定住先を見つけよう」ついでに伴侶も見つかるといいなとか思いながらスローライフを目指す。 誤字脱字や話のおかしな点について何か有れば教えて下さい。また感想待ってます。返信できるかわかりませんが、極力返します。 また今まで感想を却下してしまった皆さんすいません。 僕は豆腐メンタルなのでマイナスのことの感想は控えて頂きたいです。 不定期投稿になります、週に一回は投稿したいと思います。お待たせして申し訳ございません。 他作品はストックもかなり有りますので、そちらで回したいと思います

ハズレ職業のテイマーは【強奪】スキルで無双する〜最弱の職業とバカにされたテイマーは魔物のスキルを自分のものにできる最強の職業でした〜

平山和人
ファンタジー
Sランクパーティー【黄金の獅子王】に所属するテイマーのカイトは役立たずを理由にパーティーから追放される。 途方に暮れるカイトであったが、伝説の神獣であるフェンリルと遭遇したことで、テイムした魔物の能力を自分のものに出来る力に目覚める。 さらにカイトは100年に一度しか産まれないゴッドテイマーであることが判明し、フェンリルを始めとする神獣を従える存在となる。 魔物のスキルを吸収しまくってカイトはやがて最強のテイマーとして世界中に名を轟かせていくことになる。 一方、カイトを追放した【黄金の獅子王】はカイトを失ったことで没落の道を歩み、パーティーを解散することになった。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

処理中です...