上 下
25 / 43

第25話 作戦

しおりを挟む
 マリーナの意図に気が付いたニスティーは、ブラッドに対して懐柔策に出た。

 万が一手籠めにされた場合、自分達の虜にして保護対象にさせる。また、見た目に反しうぶだと理解した。こちらからは好きになるつもりはない。だが、肌を重ねる男は生涯一人にしたい。そうすると、この男に縋って生きるしかなくなる。そうなると不本意ではあるが、この男のハートを掴んでおく必要がある。

 本来だとあり得ない話なのだが、どうやら本気で手を出してこない。

 しかし、ブラッドは出兵前に愛した恋人?に対してどうやら操を立てているようで、この女性がある意味羨ましかった。

 最初は奴隷を買いに来たクズだと思ったが、本気で世話役を探していたのが分かった。それと、犯されないと分かった安心感よりも、女としてのプライドが勝ってきたのだ。それとひょっとして良い奴なのかも?と。

 自分の事を女として抱こうとしない事に無性に腹が立ってきた。体躯から素敵!と思い、もし迫られたら身を委ねようと一瞬だが思ったのだ。

 それ以上に不思議なのは、奴隷の自分を大事に扱っている事だ。喉を治しさえし、膝枕までされたのだ。

 ブラッドが質問をしてきた。

「質問があるのだが教えてくれないか?その久々に恋い人に会うとしたら何を貰うのが嬉しい?」

「貴方の言っていた恋人のことですか?。馬鹿じゃないのですか?そんな事も分からないのですか?」

「すまんな。女の事はよく分からないんだ」

「お嬢様それでは会話が成立しません。私がこやつに聞いてみます。その恋人というのはどのような背丈でどのような感じの性格なのだ?」

「そうだな別れた時、つまり出兵の時はちょうどタミアぐらいの背丈だったかな。お互い14歳だったから背は伸びているだろうさ。性格はそうだな、おっとりとしていて誰にでも優しい村一番の人気者だったな。言われてみればどことなくタミアに雰囲気が似ているが、お淑やかで、特に小さい子供の面倒見が良かったな。薄幸美人かな。自分の事より、他人を優先する奴だったな」

「なんでそんな女性があんたなんかを好きになったんだ?」

「あいつはよく男の子にちょっかいを出されていてな、俺がいつも蹴散らしておぶって帰っていたんだよ。時々スカートを捲られて泣いていたな。俺は拳で蹴散らしていたが、粗暴だとかよく怒られていたっけな。あいつが俺の事を意識し始めたのは、あいつの母ちゃんを俺がおぶって隣町の治療師の所へ連れていき、何とか助かった後かな」

「なんで馬車を使わなかったのよ?」

「借りようとしたさ。しかし、村の馬車は大きな街に荷を届けるのに出払っていて、残っているのも車軸が折れていて修理中のしかなかったんだ」

「ふーん」
  
「で、お礼になにかあげたいと言ったが、そんなつもりじゃないから何もいらんと言ったんだ。だけどあいつの母ちゃんに、この子を貰ってやってくれと言われたんだ。俺なんか乱暴者で嫌だろう?と聞いたが、あいつはいつも俺の事ばかりを言っているから好きな筈だってな。少し顔を赤らめていて、恥ずかしそうに俺の袖を掴み頷いていたんだ。でもな、その3日後に王都の兵が来て俺を始め、若い奴を皆無理矢理徴兵したんだ。そして数日間の基本的な訓練の後に出兵が決まったんだ。出兵の直前に最後の夜を家族や恋人の元で過ごして来いと、一夜だけ家に帰る許可が出されたんだ。あいつの親は気を利かせて親類の家に泊まりに行ったさ。まあ、後は他の連中もそうだが、お決まりのコースさ。生きて帰ってきたら妻にしてと泣かれ、そうして愛し合ったのさ。お互い初めてだったから滅茶苦茶だったけど、朝目覚めた時のあいつの温もりが今も忘れられないよ。別れの時も声に出さなかったが、泣かれたな」

 いつの間にか3人共泣いていた。

「その方のお名前は何というのですか?」

「ああ、彼女はルキエルだ」

「えっ?」

「どうかしたのか?」

「ルシファー?」

「ルキエルだ」

「貴方の国ではよくある名前なの?」

「どうだろな」

「私が思うにルキエルさんはブラッド様の事を待っていて、自分の元に帰ってくるのを待っていると思うわ。私ならそうするかな」

「そうなのかな。で、俺はどうすれば良い?」

「そうねぇ、物は要らないわ。ただ、もしも他の男と結婚していたらどうするの?」

「挨拶と、村の者の近況だけを聞いて引き下がる」

「それならただ単に抱き締めるだけにして、反応を待ちなさい。もし待っていたのならキスすれば良いのよ。でもね、他の男の女になっていても掻っ攫う事位したら?あんたなら造作もないでしょ?」

「家庭を壊すつもりはない。もし結婚していたら子供がいると考えるのが筋だろう」

「あっ。あんた見掛に依らずちゃんと相手の事を考えているのね」

「そうだな。助かったよ。ありがとうな。その、やっぱり俺の事は怖いよな?俺はこんな見た目だしな」

「いえ。昨日は怖かったですが、話せば良い方だなと分かりました。何故ですか?貴方には私達を蹂躪する権利も力もあります。何故なさらないのですか?」

「言ったろ。ルキエルに嫌われたくないからさ。それとお前達は確かに美人だが、まだ幼過ぎる。タミアもそうだが、子供は抱けない。もし我慢できなくなったら娼館に行って発散してくるさ」
 
「私達の事が子供ですって?でもルキエルさんは14歳だったけど愛し合ったのよね?私達はそれより2つ上よ!」  

「おれとの年齢差だ。俺の歳でお前らの歳の女を抱くって、ロリコンになるだろ。あと2つ歳を重ねて、大人の体になった時に、奴隷から開放されていたら娶ってやるさ」

「そんな事はありえませんわ。もしも奴隷から開放されたら貴方を殺しますよ?」

「それも良いさ。だが、恨まれるのは嫌だし、恨まれるような事は避けるさ。それでも俺はお前のフィアンセを殺した奴だから、まあ、恨んでいるのなら寝首でも掻けば良いさ」

「ブラッド様は変わった方ね。分かったわ。私達は貴方を信用するしかないの。もし騙したりしたら本当に開放されたら寝首を掻きますからね」

 そんな感じでいつの間にかまともな会話?が出来るようになり、馬車の中で退屈せずに過ごす事が出来るようになったのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

ドロップキング 〜 平均的な才能の冒険者ですが、ドロップアイテムが異常です。 〜

出汁の素
ファンタジー
 アレックスは、地方の騎士爵家の五男。食い扶持を得る為に13歳で冒険者学校に通い始めた、極々一般的な冒険者。  これと言った特技はなく、冒険者としては平凡な才能しか持たない戦士として、冒険者学校3か月の授業を終え、最低ランクHランクの認定を受け、実地研修としての初ダンジョンアタックを冒険者学校の同級生で組んだパーティーでで挑んだ。  そんなアレックスが、初めてモンスターを倒した時に手に入れたドロップアイテムが異常だった。  のちにドロップキングと呼ばれる冒険者と、仲間達の成長ストーリーここに開幕する。  第一章は、1カ月以内に2人で1000体のモンスターを倒せば一気にEランクに昇格出来る冒険者学校の最終試験ダンジョンアタック研修から、クラン設立までのお話。  第二章は、設立したクラン アクア。その本部となる街アクアを中心としたお話。  第三章は、クラン アクアのオーナーアリアの婚約破棄から始まる、ドタバタなお話。  第四章は、帝都での混乱から派生した戦いのお話(ざまぁ要素を含む)。  1章20話(除く閑話)予定です。 ------------------------------------------------------------- 書いて出し状態で、1話2,000字~3,000字程度予定ですが、大きくぶれがあります。 全部書きあがってから、情景描写、戦闘描写、心理描写等を増やしていく予定です。 下手な文章で申し訳ございませんがよろしくお願いいたします。

2度追放された転生元貴族 〜スキル《大喰らい》で美少女たちと幸せなスローライフを目指します〜

フユリカス
ファンタジー
「お前を追放する――」  貴族に転生したアルゼ・グラントは、実家のグラント家からも冒険者パーティーからも追放されてしまった。  それはアルゼの持つ《特殊スキル:大喰らい》というスキルが発動せず、無能という烙印を押されてしまったからだった。  しかし、実は《大喰らい》には『食べた魔物のスキルと経験値を獲得できる』という、とんでもない力を秘めていたのだった。  《大喰らい》からは《派生スキル:追い剥ぎ》も生まれ、スキルを奪う対象は魔物だけでなく人にまで広がり、アルゼは圧倒的な力をつけていく。  アルゼは奴隷商で出会った『メル』という少女と、スキルを駆使しながら最強へと成り上がっていくのだった。  スローライフという夢を目指して――。

はずれスキル『模倣』で廃村スローライフ!

さとう
ファンタジー
異世界にクラス丸ごと召喚され、一人一つずつスキルを与えられたけど……俺、有馬慧(ありまけい)のスキルは『模倣』でした。おかげで、クラスのカースト上位連中が持つ『勇者』や『聖女』や『賢者』をコピーしまくったが……自分たちが活躍できないとの理由でカースト上位連中にハメられ、なんと追放されてしまう。 しかも、追放先はとっくの昔に滅んだ廃村……しかもしかも、せっかくコピーしたスキルは初期化されてしまった。 とりあえず、廃村でしばらく暮らすことを決意したのだが、俺に前に『女神の遣い』とかいう猫が現れこう言った。 『女神様、あんたに頼みたいことあるんだって』 これは……異世界召喚の真実を知った俺、有馬慧が送る廃村スローライフ。そして、魔王討伐とかやってるクラスメイトたちがいかに小さいことで騒いでいるのかを知る物語。

退屈な人生を歩んでいたおっさんが異世界に飛ばされるも無自覚チートで無双しながらネットショッピングしたり奴隷を買ったりする話

菊池 快晴
ファンタジー
無難に生きて、真面目に勉強して、最悪なブラック企業に就職した男、君内志賀(45歳)。 そんな人生を歩んできたおっさんだったが、異世界に転生してチートを授かる。 超成熟、四大魔法、召喚術、剣術、魔力、どれをとっても異世界最高峰。 極めつけは異世界にいながら元の世界の『ネットショッピング』まで。 生真面目で不器用、そんなおっさんが、奴隷幼女を即購入!? これは、無自覚チートで無双する真面目なおっさんが、元の世界のネットショッピングを楽しみつつ、奴隷少女と異世界をマイペースに旅するほんわか物語です。

ゴミアイテムを変換して無限レベルアップ!

桜井正宗
ファンタジー
 辺境の村出身のレイジは文字通り、ゴミ製造スキルしか持っておらず馬鹿にされていた。少しでも強くなろうと帝国兵に志願。お前のような無能は雑兵なら雇ってやると言われ、レイジは日々努力した。  そんな努力もついに報われる日が。  ゴミ製造スキルが【経験値製造スキル】となっていたのだ。  日々、優秀な帝国兵が倒したモンスターのドロップアイテムを廃棄所に捨てていく。それを拾って【経験値クリスタル】へ変換して経験値を獲得。レベルアップ出来る事を知ったレイジは、この漁夫の利を使い、一気にレベルアップしていく。  仲間に加えた聖女とメイドと共にレベルを上げていくと、経験値テーブルすら操れるようになっていた。その力を使い、やがてレイジは帝国最強の皇剣となり、王の座につく――。 ※HOTランキング1位ありがとうございます! ※ファンタジー7位ありがとうございます!

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...