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第20話 振られた

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 ブラッドは急いでおり、お金を多目に店員に投げて釣りはいらんといい店を出た。

 タミアとはいうと、ずっとブラッドの裾を掴んでいた。

 だが、アイリの姿を見てブラッドは追い掛け、追いつくとアイリの肩を軽く掴んだ。 

 パシーン!

 乾いた音が鳴り響いた。

「一夫多妻権を奴隷以外に行使するなら、始めから言いなさいよ!私、一人で舞上がっていてバカみたいじゃないの!貴方の事を本気で好きになったのに、子供を抱けなくても仕方ないかなって悩んだ私が馬鹿みたいじゃない!」

「済まない。アイリに最初に会った時は本当にもう会うのは諦めていたんだ。新たな人生を歩もうと。君を傷付けるつもりはなかったんだ」

 アイリはブラッドにキスをし、さようならと一言告げると涙を流しながらギルドの建物に入った。

 ブラットは唖然としていたが、少し遅れて追いかけようとしたが、タミアに止められた。

「何やってるの?もう遅いよ。流石にギルドの中にまで追いかけていったらアイリに迷惑が掛かるよ!」

「じゃあどうすれば良いっていうんだ?」

「アイリには時間が必要だと思うよ。今追い掛けていっても感情的になっているだろうから、返って逆効果だと思うから、一旦距離を置いた方がいいと思うな。ボクだって受け入れたくないけど、仕方がない事だって受け入れようと努力はしているんだ。ただアイリはギルドの仕事があるからいいけど、ボクには居場所がないんだ」

「つまり俺の故郷に行けという事か?」

「どんな結果になっても一旦王都に帰ってくる、それがいいと思うよ。確か片道は一週間位掛かるんだよね?暫く時間を置いたら気持ちも変わっていると思うよ。だから一度引いた方があいりはブラッドへの思いが強くなるんじゃないのかなって。っあ!」

「確かにタミアの言う通りだな。どのみち今から引き取る奴隷のこともあるし一旦この町は離れるか。俺の手が治れば正直解放してやってもいいと思っているんだ」

「それはあまりにもお人好し過ぎるよ。それに、冒険者活動をするのに、二人は厳しいと思うんだけど、どう?野営の見張りとか無理が有ると思うよ」

「分かった。取り敢えず買い戻しの機会を与える、それで良いか?」

 タミアは頷き、あまり遅い時間に行ってもかわいそうだと言う事になり、奴隷の引き取りに向かった

 奴隷商の建物の周りを見ると何やら数台の馬車やそれに乗り込む護衛の者達がいる事が分かった。

 何かの商隊が訪ねてきたのかなぐらいに思っていたが何やらあの奴隷商の主がテキパキと指示をしていた。


 ブラッドに気が付いたようで、会釈をして来た。

「これはこれはブラッド様、思ったよりもお早いお着きで」

「旅に出る予定が出来たので、早目に引き取ろうと思って来たんだが、何か凄い事になっていないか?」

「お恥ずかしい話でしてな。実は部下の手違いで、今年はラルールの町で奴隷市が開かれるのですが、その日程が誤って伝わっており、急ぎ出発する必要があるので、慌てて出発の準備をしているのでございます。騒がしくて申し訳ございません」

「俺の故郷のすぐ近くじゃないか。俺も一旦故郷に顔を出そうと思ってな」

「ほう。それでしたら私共と一緒に参りますかな?ただし出発がもう直ぐなので、急いで準備をして頂く必要がありますが、如何なされますかな?」

「それは問題ない。まあ何か有った時には一緒に戦う位の事はできるさ。それと、取り敢えず今から受け取る奴隷も連れて行かなければならないな」

 ブラッドはタミアを手招きした。

「タミア、悪いが奴隷を一旦お前を主人として引き取っておいてくれ。後で変える。それとこの服を取り敢えず着せておいてくれ。奴隷服の格好で旅に連れて行くのは忍びないからな。俺は宿の荷物とレイガルドを取ってくるよ。ただ、馬車をレイガルドだけに曵かせるしかなくなるのが問題だな」

「ブラッド卿は馬車もお持ちでしたか」

「大きな軍馬だから、まあ馬車位一頭で曳けるとは思うが、何か有った時に騎乗して戦う方が本当は良いのだがな」

「それでしたら予備の馬を連れて行く予定でしたので、それに曵かせれば宜しいかと思います。確かに軍馬に馬車を曵かせるのは勿体ないですな」

「そうだな。俺の愛馬は死地を潜り抜けてきた友だし、立派な軍馬だから、できれば馬車を繋ぐのはやめておきたかったから助かるよ」

 そして徐(おもむろ)にブラッドが6人位が乗れるような馬車をその場に出した。

「じゃあ悪いが、これに繋いでおいてくれ。俺は一緒に連れて行く愛馬を取ってくるのと、宿を引き払ってくるよ。それ位の時間はあるだろ?最悪先に行っていてくれ。馬だから追い付ける筈だ」

「畏まりましてございます。おいそこのお前、予備の馬をこの馬車に繋ぐのだ」

 言われた者は、誰だこんなところに馬車だけ置いていった奴とブツブツ言いながら戻って行った」

「やはり驚かないんだな」

「おほほ。今更でございましょう。ただ、馬車はお持ちだろうとは思っておりましたが、正直このような立派な馬車が入っているのには驚きましたぞ。これはあの聖騎士の持ち物ですな。私の馬車よりも立派で羨ましい限りですな」

「まぁ道中、あんたには色々聞きたい事もあるし、一度腹を割って話した方がいい事もあるだろ?まぁ道中よろしく頼むよ」

「いえいえ。こちらこそ同行者に聖騎士殺しがいるとなると、これほど心強い方はおりません。お金を払い護衛として雇いたいぐらいでございます」

「そうだな。今回は引き取ったばかりの奴隷を連れて行かなきゃならないから、ただのキャラバンの同行者にしておいて貰うとありがたいな。まあ、水位は休憩時に出してまわるさ。魔法使いはいるのか?」

「分かっております。それでは引渡しと出発の準備がございますのでブラッド様もなるべく早くお戻りください。魔法使いは護衛に1名と、一応私も。奴隷魔法はれっきとした魔法ですからな」

 ブラッドは取り敢えず宿に向かい、宿の女将さんに一旦故郷に帰るから、暫くの間旅に出ると伝え、戻ってきた時には宜しくという感じで、宿を引き上げた。そしてレイガルドに跨がり、ギルドに向かって行った。

 空いている時間だという事もあり、並ばずにアイリのいる受付に行ったが、彼女は複雑な顔をしていた。

「さっきは済まなかった。奴隷商のキャラバンに便乗してこれから故郷に一度帰る事にした。なので暫く、そうだなぁ、2週間から1ヶ月はこちらには戻れない。嫌な思いをさせてしまい悪かった。今後の身の振り方は分からないが、どちらにしろ一度戻るから、その時はまた顔を出す」

 アイリは俯いたままだった。

「悪いが、時間がないのでもう行くから、もしもマスターに俺の事を聞かれたら、古郷へ墓参りに行ったので、何れ戻ると伝えてくれ」

 そうしてブラッドは、ギルドを後にして奴隷商に向かったのであった。
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