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序章 私刑人誕生編

第2話 マリニアとの出会い

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 俺が投げたナイフのうち1本がオークの肩に刺さった。
 急いで投げたので狙いが荒かったがまずまずだ。

 そいつはブモー!と唸り、鼻息を荒くして周りを見ている。

 俺が走っているのが見えて、怒りからグモモモモー!と咆哮したが、仲間は呼ばなかった。
 本当は背後からブスリ!が良いが、人が襲われているので、ナイフで牽制したんだ。
 仲間を呼ばれる可能性もあったが、襲われている奴が殺されるよりはマシだろう。

 案の定俺の方にヘイトが向く。
 ちらりと襲われていた奴を見ると、へたり込んでいて泣いている。
 つまり生きていて意識がある。

 そして剣の間合いに入るが、オークは棍棒を横に薙ぐ。
 俺はジャンプして棍棒を踏み台にしてオークの頭上を飛び越えると、振り向きざまに棍棒を持っている右腕を肘の所で切断してやった。

 オークは唸りながら逃げ出した。
 俺がオークの棍棒と腕に触れながら万能者の付随スキルである収納を発動し、収納の中に入れた。
 もしもその様子を見ている者がいたとしたならば、忽然と腕と棍棒が消えたであろう。
 そう、収納持ちは対象物に触れながら念じれば収納に入れられる。

 俺は周りを索敵するも、近くには魔物はいない。
 その為、襲われていた者の元へ向かった。
 服が破れており、なんとか体裁を整えようとしている感じだ。

 いたぶっていたのではなく、犯そうとしていたのだ。
 助かった安堵からか、へたりこんだままで立てそうにない。
 多分今年というか、先月ギフトを得たルーキーのはずだ。
 依頼を受けられるのはギフトを得られた者だけだからだ。
 ギフトは15歳になった最初の収穫祭の時に取得するが、経験不足のようなのでルーキーだろう。それに今の時期にソロという事から俺と同じくパーティーから追放された者だろう。

 男の子か女の子かよくわからない。
 女の子としたらかなり短いショートカットだ。
 胸を見てもよくわからない。だぼっとした服を着ているから、膨らみがあるのか分からない。 
 胸があったとしても膨らみ掛けだろう。

 面倒臭いが、関わった以上少なくともこの場からは生きて返してやりたい。

 手を差し伸べて立たせてやる。

「クリーン、ヒール!」

 俺は引っ張りながらクリーンを掛けた。
 恐怖から失禁していたが、指摘しない優しさくらいはある。
 それと腕と脚に怪我をしているので治してやった。
 どうやら逃げられないようにしてから犯すつもりだったらしい。

 オークは女に対して身ごもらせようとし、男でも子供、ボーイと言われるくらいのも犯す。尻を掘るのだ。
 どうやらこいつはズボンを履いたままだから、人としての尊厳は無事のようだ。

 取り敢えず立たせると体に着いた土を払おうとしていた。
 いや、もうクリーンを使ったから意味がないぞ!

「坊主、災難だったなと言いたいが、ルーキーが1人で来るような場所じゃないぞ!戻れそうか?」

「あっはい!その、助けて頂きありがとう御座いました!」

「何をしにというか、木の実を取りに入ったんだな?ここは近接戦闘が出来るやつと一緒に来ないと駄目だ。C級の魔物が出る事もあるんだぞ。取り敢えずそれだけあれば今日の稼ぎとすれば十分だろう」

「そうだったんですね。それで誰も入らなかったんだ。あっ!ボクはマリニアって言います。その、ランスタッドさんですよね?」

「なんだ。俺の事を知っているのか。いや。なんで知っているのかは良いや。どうせろくでもない2つ名で知っているんだろ。まだ稼ぐなら、林を出た所に薬草の群生地があるし、周りに人もいるからそこに行け。それと武器もないと死ぬから折れた剣の代わりにこれをやるから持っていけ。今オークを斬ったから後で手入れしとけよ」

 俺は剣帯ごと外し屈むとマリニアの腰に巻いてやった。

 因みに不名誉な二つ名はゲロビーだ。
 先日道端で己のゲロにまみれて寝ていて、もう3年もBランクというのを知られており、ゲロまみれのBランクとしてゲロビーと揶揄されていた。

「坊主の背丈でもショートソードなら使えるだろう」

「坊主じゃありません!マリニアです。ってだめです!ランスタッドさんの武器がなくなるじゃないですか!」

「マリニア、それだけ元気なら大丈夫だな。武器は気にするな。俺は魔法メインだからな」

 ついでにコートを切って短くし、羽織らせていく。

「ポケットに金を入れといた。ギルドに行く前に破れた服を買ってから行けよ。そのままで行ったら受付嬢が驚くからな」

「そ、そこまでして頂く訳には!」

「コートもそろそろ変えなきゃならないようなボロだから気にすんな。もう捨てるやつだから。まあ、今度俺を見掛けたら渡した金だけ返してくれりゃあ良いから。その様子だと歩くのに支障はなさそうだから俺は行くからな。あのオークを追って集落を潰しに行くんだよ」

 俺はマリニアの尻を叩き、林の外へ向けて進ませてやった。

 マリニアは何か言いたげだったが黙って俺の言う事に従うようなので、オークを追う事にした。 

 追跡のスキルを使えば追うのは簡単なのだが、魔力をそれなりに使ってしまう。
 スキルを使うと魔力を消費するので魔力の節約をする為だ。
 重症を負わせないとどこに行くか分からないから敢えて殺さずに傷を負わせたのだ。
 しかし、手負いでは間違いなく集落に向かうだろう。
 殺すのは簡単だが、依頼は集落の調査又は殲滅だからわざと怪我をさせて逃したのだ。

 取り敢えず血の跡を追えば良いので、失血死する前に集落を確認したい。
 5分程で追い付いたが、既に事切れていた。
 経験値が入ったからもしやと思ったが、よく見ると体に刺し傷があった。
 マリニアが組み伏せられる前に一矢報いていたようだ。

 しかし、方向は分かった。
 死体を急ぎ収納に入れ、収納からロングソードを出して獲物とした。
 ショートソードは今はもうマリニアにやったのだけだ。残りは酒場にあったりする。

 要は先程の咆哮から仲間が顕れたから、今度はそいつらに案内させればよい。

 4匹現れたが、出会い頭に3匹の首を刎ねて瞬殺した。
 逃げ出した残り1匹の背中を斬り付けそのまま逃がす。
 死体を回収し、俺は後を追った。
 程なくして集落が見えてきたが、逃げたオークは集落に着くなり訳の分からぬ叫びを発した。

 すると集落の粗末な掘っ立て小屋から次々とオークが出てきた。
 薬草の群生地から近過ぎる。
 マリニアのように襲われる奴が出兼ねないし、犠牲者が出る前に潰す事にした。
 俺が殲滅せずに調査報告のみした場合で、殲滅前に犠牲者が出れば己を責めるだろう。

 幸い誰もいない。
 今の段階では俺のスキルをあまり知られたくはない。
 皮肉な事に所属パーティーを追放されたその日の夜に2つ目のギフトが覚醒した。
 しかし、俺はまだ使いこなしていない。
 今はあまりやる気がでないので、こうやって勉強の町でのらりくらりとしている。

「俺の新ギフトとスキルの訓練に丁度良いな。ふふふ!経験値になってくれ!」

 俺はファイヤーボールとファイヤーランスを繰り出し、集落の建物の大半を燃やして混乱に陥れた。

 俺のスキルに5秒の先読みがある。
 以前は数秒先にそのままだと怪我をしたりする場合、ゾクッと来て不意討ちを避けていたりしたが、今は先読みが出来るようになったのでこの2ヶ月、近接戦闘時に怪我をした事がない。 

 それなりに魔力を使うので多用は厳しいが、5分位は使えるからこの戦闘が終わるまでだけならば十分だろう。
 それでも戦闘時間を短くするに越した事はないから、火魔法を使った。

 親切な事に、スキルの発動中はそのままだと攻撃を受ける場合にその攻撃が予め頭の中に見え、躱し方も見える。

 なのでその警告に従えば良い。
 だが、魔力消費が多いので、ここでの場合は囲まれた時や集落の主と対峙する時に使う。

 これからは剣で対処だ。

 正直D級ランクのオークでは、俺が油断しない限り攻撃を当てられない。

 俺は1匹ずつ倒しては収納に入れる。
 死体に躓いては洒落にならないからだ。

 そうして俺は集落の殲滅を開始したのであった。
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