上 下
13 / 43

探偵の初任務Ⅰ

しおりを挟む
「こねぇな~」
「伊織、何してるの?」
「ん~。探偵ってアイディア良かったから、専用のサイト作ったんだが、1件も依頼来ない」


 リビングのソファーに寝っ転がりながら、サイトのPVを確認していたが、未だに0のままだった。


「それはそうじゃん」
「色んなサイトに勝手に広告出したりしてんだけどな~」
「危ないサイトだと思われてそう」
「あ、そうだ。依頼来ても紫苑は手を出すなよ」
「え~なんで~」
「お前の手柄にされるじゃん」
「ちぇ~」


 ぷーと頬を膨らませながら、不満を漏らす。


「で、お前はさっきから何してんだ?」


 紫苑は服やら日用品やらをあちらこちらから持ってきて1か所に集めている。


「旅行の準備」
「旅行……あ~」


 思い出した。
 そう言えば、クロエさんから温泉旅行のチケット貰ったんだった。
 俺も準備……しようと思ったけど、あれだな。そもそも俺、旅行行ったことないから、それ用のでかいバッグないや。


「バッグ欲しい」
「私も欲しいのあるから、一緒に行きたーい」
「いいぞ」


 と、言った瞬間、1通のメールが届いた。


「ちょいまち」
「なに?」
「メールきた」
「友達いないじゃん」
「仕事のだよ」
「無職じゃん」
「探偵のやつ」
「いたずら?」
「っぽくはない」


 俺も最初はいたずらかと思ったが、依頼主の名前や住所がちゃんと記載されていた。
 調べてみた感じ、偽名や適当な住所ってわけじゃなさそう。


「緊急みたいだな。今から行ってくる」
「ちょっと待ってよ! 私と仕事どっちが大事なの!」
「仕事」
「さいてー!」


 うーうーと涙を流しているが、まぁ嘘泣きだろう。
 相手にするのもめんどいので、俺は紫苑をガン無視して家を出た。



--------------------------------------------------------------------------



「っと、ここだな」


 俺は依頼主の家がある南麻布までやってきた。
 俺と紫苑が暮らしている家と同じ港区なので結構近くだった。他県とかだった、多分来なかったわ。


「にしても、流石高級住宅街。デカい家ばっか」


 とは言っても紫苑の家もあれはあれでバカでかいからな。
 あいつの資産的に考えたら小さく抑えた方だけど。
 確か紫苑の総資産は世界で5本の指に入ってた気がする。
 その辺どうでもよくてあんま覚えてないけど。


「いやいや、今はそんなことどうでもいいんだよ」


 俺はためらいなくインターホンを押す。
 しばらくしてから、玄関の鍵が開き、慌てた様子でおばさんが出てきた。
 なんか、けばいおばさんだな。
 出迎えに来たってことは家政婦だと思うけど。


「ちょっと! あなた遅いじゃない!」


 なんか怒られたんだが? 依頼が来てから1時間も経たずに来たのにその言い方はないんじゃない? しかも、家政婦のくせに偉そうだし。


「早くは言ってちょうだいな」


 おばさんに手招きされたので、一応軽くお辞儀をしてから、中に入れてもらった。


「あなた、探偵なんですってね」
「ええ、まぁ、そうですけど……」


 え? 何? 玄関で話すんすか?
 家の中に入って扉が閉まった瞬間、話し始めたんだが?


「それなら今すぐ樹斗みきとちゃんを探してくださいな」
「樹斗ちゃん……? あの、依頼主の方は?」
「私です! 見て分からないのですか!」


 えぇ~、この人家政婦じゃないの? そうなるとこの家主の婦人すか。
 全然分からんかった。


「失礼しました。それで依頼は人探しでよろしいですか?」
「そうです! あなたの異能力を使って早く見つけてくださいまし!」
「異能力? 何の話です?」
「私、聞きましたのよ。探偵と言う方は異能力で何でも分かるのだと」
「いや、そんな異能力なんて持ってないですよ」
「では、あなたは何が出来ますの?」


 何がって……。
 ハッキング? とかはおおっぴろげに言えないし。


「頭を使うことなら大体出来ますけど」
「何を言っていますの? 異能力について聞いたのだけれど?」
「あ~」


 異能力か。どうしよう。これ、なんて答えればいいんだ? 無能力者だとは言えないだろうし。
 と、口をつぐんでいたら、


「あなた、もしかして無能力者レムナントですの?」
「あ、え……」


 俺が何も答えずにいると、そのおばさんはそれで確信を得たのかさっきよりも険悪な雰囲気で怒り出した。


「ここはあなたのようなものが歩いていい場所ではありません! さっさと出ていってください!」
「はいはい! すみません!!!!」


 うっわ、めっちゃ怒られた。こえぇ~。
 下手したら殺されかねない雰囲気に負け、俺は急いで扉を開け、外に逃げた。


「あーあ、やっちまった」


 初依頼が来て、舞い上がっちまった。
 そうだよな。俺、無能力者レムナントだった。
 バレたら当然、依頼は破棄。
 うっかりしてたわ。もったいねぇ。


「しゃーない。帰って、紫苑と買い物行くか」


 やっぱりこの世界は無能力者レムナントに甘くない。改めてそう実感させられた。
 帰るか~と敷地の外に出あおうとした時、


「待ってください」


 さっきのおばさんとは違う声に呼び止められ、後ろを振り返る。
 そこにいたのは高校生くらいの赤毛の少女だった。


「母が失礼しました」


 少女は深々と頭を下げる。


「別にいいよ。慣れてるし」
「そう言うわけにもいきません。どうしても、弟を助けてほしいですから」
「聞いてたんだろ? 俺は無能力者レムナントだ」
「分かっています。けど、一人でも多く探してくれる人がいるならそれにすがりたいじゃないですか」


 俺は無能力者レムナントが故に人間扱いをされることがなかった。
 そういうやつがどういう扱いを受けるのか、身をもって知っている。
 だから、彼女の目を見た瞬間に、思った。
 この子は無能力者レムナントではなく、俺を一人の人間として見ていると。


「何が起きているのかさえ、聞かせてもらえなかった。まずはそこから情報が欲しい」
「はい! ありがとうございます!」


 なら、断る理由はないよな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

交際7年の恋人に別れを告げられた当日、拗らせた年下の美丈夫と0日婚となりました

cyaru
恋愛
7年間付き合ってきた恋人のエトガーに遂に!遂に!遂に!求婚される?! 「今更の求婚」と胸を弾ませ待ち合わせのレストランに出向いてみれば求婚どころか「子供が出来たし、結婚する」と運命の出会いをしたという女性、アメリアを紹介された。 アメリアには「今度は言動を弁えろ」と言わんばかりのマウントを取られるし、エトガーには「借りた金は出産祝いでチャラにして」と信じられない事を言われてしまった。 やってられない!バーに入ったフライアは記憶を失うほど飲んだらしい。 何故かと言えば目覚めた場所はなんと王宮内なのに超絶美丈夫と朝チュン状態で、国王と王太子の署名入り結婚許可証を見せられたが、全く覚えがない。 夫となったのはヴォーダン。目が覚めるどころじゃない美丈夫なのだが聞けばこの国の人じゃない?! ついでにフライアはド忘れしているが、15年前に出会っていて結婚の約束をしたという。 そしてヴォーダンの年齢を聞いて思考が止まった。 「私より5歳も年下?!」 ヴォーダンは初恋の人フライアを妻に出来て大喜び。戦場では軍神と呼ばれ血も涙もない作戦決行で非情な男と言われ、たった3年で隣国は間もなく帝国になるのではと言われる立役者でもあったが、フライアの前だけでは借りてきた猫になる。 ただヴォーダンは軍神と呼ばれてもまだ将軍ではなく、たまたた協定の為に内々で訪れていただけ。「すぐに迎えに来る」と言い残し自軍に合流するため出掛けて行った。 フライアの結婚を聞いたアメリアはエトガーに「結婚の話はなかった事に」と言い出すのだが…。 ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★7月5日投稿開始、完結は7月7日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません。

私の物を奪っていく妹がダメになる話

七辻ゆゆ
ファンタジー
私は将来の公爵夫人として厳しく躾けられ、妹はひたすら甘やかされて育った。 立派な公爵夫人になるために、妹には優しくして、なんでも譲ってあげなさい。その結果、私は着るものがないし、妹はそのヤバさがクラスに知れ渡っている。

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

復縁して欲しい? 嫌です

柚木ゆず
恋愛
※8月14日、本編完結いたしました。明日15日より、番外編を投稿させていただきます。  婚約中に浮気を行い、しかもそれを私のせいにした方、ノズエルズ侯爵家のヒューゴ様。僅かの謝罪もなく去っていったそんな人が、11か月後に平然と復縁を申し込んできました。 「ケティリア伯爵令嬢、アニエス。俺に再び、貴方の恋人となる栄誉をお与えください」  嫌です。

ほう、婚約破棄ですか?

droit
恋愛
「こんなときになんなんだがやっぱ結婚の話はなかったことにしてもらいたいんだけど……?」 イケメンで長身で金髪碧眼で外国語もペラペラの資産家の王子のために必死になって同じ仕事に就いたという のにこの一言ですべてが終わった。そう思ったわたしはすべてを捨てて復讐を決意する!! ほか

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

噂好きのローレッタ

水谷繭
恋愛
公爵令嬢リディアの婚約者は、レフィオル王国の第一王子アデルバート殿下だ。しかし、彼はリディアに冷たく、最近は小動物のように愛らしい男爵令嬢フィオナのほうばかり気にかけている。 ついには殿下とフィオナがつき合っているのではないかという噂まで耳にしたリディアは、婚約解消を申し出ることに。しかし、アデルバートは全く納得していないようで……。 ※二部以降雰囲気が変わるので、ご注意ください。少し後味悪いかもしれません(主人公はハピエンです) ※小説家になろうにも掲載しています ◆表紙画像はGirly Dropさんからお借りしました (旧題:婚約者は愛らしい男爵令嬢さんのほうがお好きなようなので、婚約解消を申し出てみました)

マフィアと幼女

ててて
恋愛
人身売買用に商品として育てられた幼女。 そんな彼女を拾った(貰った)マフィアのボス。 マフィア×幼女 溺愛話 *スローペースですから! スローペースですから!!

処理中です...