19 / 43
ベルヴェットの魔法
しおりを挟む
「そのあと、俺は死んだものと判断され、研究所から捨てられた。でも、吸血鬼の因子を取り込んだ俺は他の人間より幾分か丈夫だったから、何とか生き永らえて研究所から出ることが出来た」
ヘイヴィアの過去を私は黙って聞いていた。
というよりも正直理解が追い付かなかった。
吸血鬼を人為的に作り出すとか私の常識の埒外にある。
「さっきリゼに会って確信した。やっぱり、あいつはまだ操られているんだ。きっと、額の石さえとっちまえば元に戻るはずなんだ。でも……」
私の知っているヘイヴィアとかけ離れた想像を絶する過去。
それに対し、私もベルヴェットさんも何も言えなかった。
けど、彼だけは違った。
「お前の話、全然理解できなかったんだけどさ。なんでこんな暗い感じになってるだ?」
相変わらず空気の読めないゴブリンだ。
「あのね、ゼルには分からないかもしれないけど、ヘイヴィアにすごく大切な人がいてね。その人がまだ操られたまま敵として現れたの。少しはヘイヴィアの気持ちも考えてあげて」
「いや、俺もバカじゃないから分かるって。要するにそのリゼってやつを助けたいんだろ? なら、ラッキーじゃねぇか」
「なにが? 今敵として現れてどうしようって話で……」
「その額の石ってのを壊せばいいんだろ? 助け方も分かってて、そいつも手の届くところにいるんだろ? なら、チャンスじゃねぇか」
うっ……ゼルのくせに核心をついてる……。
「それともなんだ? 助ける自信がないのか? なら、代わりに俺が救ってやってもいいぜ。今後、俺をゼル様って敬うならな」
そうやって、ゼルはヘイヴィアを挑発しながら手を差し伸べる。
「はっ! 誰がゴブリンなんかに頼むかよ。自分の問題は自分で片付ける」
ヘイヴィアはいつもの調子でゼルの手を弾いた。
「じゃあ、さっさと行こうぜ」
うん、いい雰囲気。
ゼルはバカだけどいい仕事するじゃん。
「ってちょっと待って。行くってどこに? 今私たち落とし穴に落とされちゃったんだよ?」
「それなら問題ない」
「ベルヴェットさん?」
「君たちが今落ちてきた穴から地上へ戻る」
「地上へってどうやってですか? 箒もないから空飛べないですよ?」
「いいからいいから。とりあえず、穴の下に集まって」
言われるがままに私たちは自分が落ちてきた穴の真下に集まる。
「なにが始まるんだ?」
「知らない。でも、ベルヴェットさんが……」
「なんでもいいが俺は今すぐにでもリゼを助けに行きたいんだが?」
「そう言う協調性のないのは今はなしで。またバラバラになっちゃったら、今度こそ見つけられないかもしれないじゃん」
「はいはい、無駄口はそこまで。これから俺の魔法で君たちを上まで運ぶ。あまり暴れないでくれな」
「魔法って、一体……」
私がそう言いかけたときにはすでにベルヴェットさんの魔法が発動していた。
「え、嘘……浮いてる……?」
突如として私たちの体は宙に浮きあがった。
「お? お、おおう……?」
「あぶっ……なんだこれ?」
急に空中へ浮き上がったため、私たちはバランスを崩しよろける。
しかし、それでも地面に落ちることはなく、段々と高く上がっていく。
「どうだい? 僕の空気魔法は」
「空気魔法?」
風属性の魔法かと思ったがどうやら違うらしい。
空気魔法……聞いたことのない魔法だ。
「空気を自在に操る魔法さ」
「空気を操る?」
「そう。例えば空気の性質を変えたりね。今、君たちの足元にある空気を硬質化させた。本来は触れることすら出来ない空気だが、硬質化させることでその上に立つことが出来る。で、その硬質化させた空気の床を操って上へと俺たちを運んでいる」
「おお! なんかよく分かんねぇけどすげぇー。ほら見ろ、落ちねぇぞ」
ベルヴェットさんの説明を理解していないゼルはその場でジャンプして足場を踏みつける。
「ちょっとやめてよ! 足場が壊れたらどうするの!」
私はぴょんぴょん跳ねるゼルの頭を押さえつける。
「大丈夫。そのくらいじゃ壊れたりしない。と、そうこうしている間についたぞ。どうやらここの穴は塞がれていないようだ」
ベルヴェットさんの魔法で私たちは元いた遺跡の通路へと戻ってきた。
そうか、さっき落ちたときにベルヴェットさんが魔法で上がってこなかったのは穴を塞がれていたからなんだ。
「おっし、で、そのタイタンの連中はどこだ?」
私たちは空気の足場から降り、周囲を警戒する。
「流石に同じ場所にとどまっているとは思えない。とにかく先へ進もう。正面からタイタンの人たちが来たということはこの遺跡はどこかで国境を越えてタイタンに繋がっている可能性がある。間違って敵国に侵入しないようにだけ気を付けよう」
ベルヴェットさんの忠告を胸に、私たちは慎重に……。
「よっしゃー! 俺が一番!」
「いや、俺が先だ!」
って言っている傍からバカ二人が前に飛び出した!
「二人とも待ってって、タイタンのこともあるし、さっきの罠のこともあるでしょ!」
と、私の制止など聞かずに二人はどんどん先に行ってしまう。
「しょうがない。彼らのフォローは俺がするとしよう。彼らの行動もあながち間違ってない」
「え、なんでですか? 危険じゃないですか」
「確かに危険はある。だが、ゆっくりしていてはタイタンに大罪魔法を先に奪われてしまう可能性がある」
「あ、」
それもそうだ。
ヘイヴィアのことで忘れてたけど、私たちの本来の目的は大罪魔法を探すことだった。
「じゃ、急ごうか」
「そうですね」
私とベルヴェットさんは先を突っ走るバカ二人の後を追うのだった。
ヘイヴィアの過去を私は黙って聞いていた。
というよりも正直理解が追い付かなかった。
吸血鬼を人為的に作り出すとか私の常識の埒外にある。
「さっきリゼに会って確信した。やっぱり、あいつはまだ操られているんだ。きっと、額の石さえとっちまえば元に戻るはずなんだ。でも……」
私の知っているヘイヴィアとかけ離れた想像を絶する過去。
それに対し、私もベルヴェットさんも何も言えなかった。
けど、彼だけは違った。
「お前の話、全然理解できなかったんだけどさ。なんでこんな暗い感じになってるだ?」
相変わらず空気の読めないゴブリンだ。
「あのね、ゼルには分からないかもしれないけど、ヘイヴィアにすごく大切な人がいてね。その人がまだ操られたまま敵として現れたの。少しはヘイヴィアの気持ちも考えてあげて」
「いや、俺もバカじゃないから分かるって。要するにそのリゼってやつを助けたいんだろ? なら、ラッキーじゃねぇか」
「なにが? 今敵として現れてどうしようって話で……」
「その額の石ってのを壊せばいいんだろ? 助け方も分かってて、そいつも手の届くところにいるんだろ? なら、チャンスじゃねぇか」
うっ……ゼルのくせに核心をついてる……。
「それともなんだ? 助ける自信がないのか? なら、代わりに俺が救ってやってもいいぜ。今後、俺をゼル様って敬うならな」
そうやって、ゼルはヘイヴィアを挑発しながら手を差し伸べる。
「はっ! 誰がゴブリンなんかに頼むかよ。自分の問題は自分で片付ける」
ヘイヴィアはいつもの調子でゼルの手を弾いた。
「じゃあ、さっさと行こうぜ」
うん、いい雰囲気。
ゼルはバカだけどいい仕事するじゃん。
「ってちょっと待って。行くってどこに? 今私たち落とし穴に落とされちゃったんだよ?」
「それなら問題ない」
「ベルヴェットさん?」
「君たちが今落ちてきた穴から地上へ戻る」
「地上へってどうやってですか? 箒もないから空飛べないですよ?」
「いいからいいから。とりあえず、穴の下に集まって」
言われるがままに私たちは自分が落ちてきた穴の真下に集まる。
「なにが始まるんだ?」
「知らない。でも、ベルヴェットさんが……」
「なんでもいいが俺は今すぐにでもリゼを助けに行きたいんだが?」
「そう言う協調性のないのは今はなしで。またバラバラになっちゃったら、今度こそ見つけられないかもしれないじゃん」
「はいはい、無駄口はそこまで。これから俺の魔法で君たちを上まで運ぶ。あまり暴れないでくれな」
「魔法って、一体……」
私がそう言いかけたときにはすでにベルヴェットさんの魔法が発動していた。
「え、嘘……浮いてる……?」
突如として私たちの体は宙に浮きあがった。
「お? お、おおう……?」
「あぶっ……なんだこれ?」
急に空中へ浮き上がったため、私たちはバランスを崩しよろける。
しかし、それでも地面に落ちることはなく、段々と高く上がっていく。
「どうだい? 僕の空気魔法は」
「空気魔法?」
風属性の魔法かと思ったがどうやら違うらしい。
空気魔法……聞いたことのない魔法だ。
「空気を自在に操る魔法さ」
「空気を操る?」
「そう。例えば空気の性質を変えたりね。今、君たちの足元にある空気を硬質化させた。本来は触れることすら出来ない空気だが、硬質化させることでその上に立つことが出来る。で、その硬質化させた空気の床を操って上へと俺たちを運んでいる」
「おお! なんかよく分かんねぇけどすげぇー。ほら見ろ、落ちねぇぞ」
ベルヴェットさんの説明を理解していないゼルはその場でジャンプして足場を踏みつける。
「ちょっとやめてよ! 足場が壊れたらどうするの!」
私はぴょんぴょん跳ねるゼルの頭を押さえつける。
「大丈夫。そのくらいじゃ壊れたりしない。と、そうこうしている間についたぞ。どうやらここの穴は塞がれていないようだ」
ベルヴェットさんの魔法で私たちは元いた遺跡の通路へと戻ってきた。
そうか、さっき落ちたときにベルヴェットさんが魔法で上がってこなかったのは穴を塞がれていたからなんだ。
「おっし、で、そのタイタンの連中はどこだ?」
私たちは空気の足場から降り、周囲を警戒する。
「流石に同じ場所にとどまっているとは思えない。とにかく先へ進もう。正面からタイタンの人たちが来たということはこの遺跡はどこかで国境を越えてタイタンに繋がっている可能性がある。間違って敵国に侵入しないようにだけ気を付けよう」
ベルヴェットさんの忠告を胸に、私たちは慎重に……。
「よっしゃー! 俺が一番!」
「いや、俺が先だ!」
って言っている傍からバカ二人が前に飛び出した!
「二人とも待ってって、タイタンのこともあるし、さっきの罠のこともあるでしょ!」
と、私の制止など聞かずに二人はどんどん先に行ってしまう。
「しょうがない。彼らのフォローは俺がするとしよう。彼らの行動もあながち間違ってない」
「え、なんでですか? 危険じゃないですか」
「確かに危険はある。だが、ゆっくりしていてはタイタンに大罪魔法を先に奪われてしまう可能性がある」
「あ、」
それもそうだ。
ヘイヴィアのことで忘れてたけど、私たちの本来の目的は大罪魔法を探すことだった。
「じゃ、急ごうか」
「そうですね」
私とベルヴェットさんは先を突っ走るバカ二人の後を追うのだった。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
『殺す』スキルを授かったけど使えなかったので追放されました。お願いなので静かに暮らさせてください。
晴行
ファンタジー
ぼっち高校生、冷泉刹華(れいぜい=せつか)は突然クラスごと異世界への召喚に巻き込まれる。スキル付与の儀式で物騒な名前のスキルを授かるも、試したところ大した能力ではないと判明。いじめをするようなクラスメイトに「ビビらせんな」と邪険にされ、そして聖女に「スキル使えないならいらないからどっか行け」と拷問されわずかな金やアイテムすら与えられずに放り出され、着の身着のままで異世界をさまよう羽目になる。しかし路頭に迷う彼はまだ気がついていなかった。自らのスキルのあまりのチートさゆえ、世界のすべてを『殺す』権利を手に入れてしまったことを。不思議なことに自然と集まってくる可愛い女の子たちを襲う、残酷な運命を『殺し』、理不尽に偉ぶった奴らや強大な敵、クラスメイト達を蚊を払うようにあしらう。おかしいな、俺は独りで静かに暮らしたいだけなんだがと思いながら――。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
俺のギフト【草】は草を食うほど強くなるようです ~クズギフトの息子はいらないと追放された先が樹海で助かった~
草乃葉オウル
ファンタジー
★お気に入り登録お願いします!★
男性向けHOTランキングトップ10入り感謝!
王国騎士団長の父に自慢の息子として育てられた少年ウォルト。
だが、彼は14歳の時に行われる儀式で【草】という謎のギフトを授かってしまう。
周囲の人間はウォルトを嘲笑し、強力なギフトを求めていた父は大激怒。
そんな父を「顔真っ赤で草」と煽った結果、ウォルトは最果ての樹海へ追放されてしまう。
しかし、【草】には草が持つ効能を増幅する力があった。
そこらへんの薬草でも、ウォルトが食べれば伝説級の薬草と同じ効果を発揮する。
しかも樹海には高額で取引される薬草や、絶滅したはずの幻の草もそこら中に生えていた。
あらゆる草を食べまくり最強の力を手に入れたウォルトが樹海を旅立つ時、王国は思い知ることになる。
自分たちがとんでもない人間を解き放ってしまったことを。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる