上 下
11 / 43

第七師団親睦会Ⅰ

しおりを挟む
「あははははは! 散々な初任務だったね」


 捕虜の引き渡しが完了し、第七師団支部に戻った私たちの報告を聞いたレミリアさんは口を大きく開けて笑い転げた。


「あの、笑い事ではないんですけど……」
「なんでだ? 村の人たちはちゃんと守ったんだろ? なら、いい事じゃないか」
「それはそうですけど……」
「入団初日でここまで出来たのはすごいことだぞ? なぁ、お前もそう思うだろ、ベルヴェット」


 そうレミリアさんが声をかけたのは、狼の獣人、ワーウルフの青年。


「ん? ああ、そうだな。初任務にしては充分すぎる活躍だ」


 ベルヴェットさんは眼鏡をくいっと上げながら、至って平静にクールに話す。
 そう、クールで知的な雰囲気を醸し出しているんだけど……。
 なんで裸なの!? 目のやり場に困るんですけど!
 私はなるべくベルヴェットさんの方を見ないように気を付ける。


「と言うことだ。これから宴会をするってのにそんなしけた面じゃ、メシが不味くなる」
「え、宴会? 宴会って何ですか?」
「決まってんだろ。お前たち、新人の歓迎会だ。今ちょうどもう一人新人が買い出しに行ってる。そろそろ帰ってくると思うが……」
「ただいま戻りましたー」


 すると、丁度大荷物を抱えたヘイヴィアがアジトに帰ってきた。
 いつの間パシリ……いや、買い出しに行かされてたんだろう。


「あ、地味顔じゃん」
「誰が地味顔だ! 俺の名はヘイヴィアだ。ヘイヴィア・アークエイド。覚えておけ、ミドリムシ!」
「ミドリムシじゃねぇ! 俺はゼルだ! 地味顔!」
「だから、ヘイヴィアだっつってんだろうが!」


 顔を合わせるなり、またしても喧嘩を始める二人。


「おいおい、喧嘩もいいが、宴会の準備をするぞ。バーベキューだ! ヘイヴィア、食材を並べろ」
「あーはいはい。……と言うか、なんで新人の歓迎会なのに、その買い出しを新人の俺にやらせるんだよ」


 大量に買い込んだ食材を広げながら、ヘイヴィアはぶつくさと文句を言っていた。


「バーベキューだって!!!!???」


 バンっ! と奥の部屋の扉が勢いよく開かれ誰かが叫んだ。
 誰かと言ったのは、声は聞こえたがそこには誰もいなかったからだ。


「ん? なんだ? 勝手に扉が開いたぞ?」


 ゼルも不思議に思ったのか、奥の部屋へと続く扉の前まで行く。
 私もゼルの後に続いて、扉の前まで来た。


「建付けが悪いのか?」
「でも、声は聞こえたよ?」
「おい! どこ見てるのだ! こっちだこっち! 下なのだ!」
「下?」


 言われて下を向くと、そこには手の平サイズの小さな少女が仏頂面でこちらを見上げていた。


「わっ! ちっさ! なに? 迷子?」
「誰が、迷子だ! 私はこれでも立派な騎士なのだ」
「え、騎士……?」


 本当に? そんな視線をレミリアさんの方に向ける。


「ああ、ホントだぜ。そいつはミザリー・ランヴェート。小人族だ」


 小人族。見た目通り小柄な種族だけど、魔力量はエルフ族に引けを取らないって聞いたとがある。


「小人族ぅ~? そんなのが役に立つのかよ。一緒に戦いに出たら間違えて踏んじまいそうで心配だぜ」


 小人族だと聞いたヘイヴィアは彼女が騎士であることに疑問を持っており、彼女を小馬鹿にする。


「うるさいのだ」


 しかし、ミザリーさんはぴょんと跳ねてヘイヴィアの顔を思いっきり引っ叩いた。


「ぼばぁ!!!!」


 すると、ヘイヴィアは軽々と外まで吹き飛んだ。


「すご……」


 高い跳躍力もそうだけど、ビンタ一発で人一人を軽々と吹き飛ばせる腕力もすごい。
 多分、あれは身体強化魔法をかけているんだろう。それだけであそこまでの威力を引き出せるのは小人族の魔力量あってこそのものだろう。


「ふふ~ん、敬え愚民ども」


 私が感心していたことに気づいたのか、ミザリーさんはテーブルの上に着地し、自慢げに胸を大きくそらして尊大な態度を取る。


「なんか、この団、変な人ばっかじゃね? 外れか?」


 確かにゼルの言う通り、第七師団は噂にたがわぬ変人ぞろいの団だ。
 私、この団で上手くやっていける自信がちょっとない……。
 悪い人たちでないんだろうけど。


「あはは、ゴブリンがいるのだ。お前、めっちゃ醜い顔してるのだ。火傷でもした?」
「これ素顔なんだけど!?!?!」


 突然毒を吐き出したミザリーさんにゼルはツッコんだ。
 え、ゼルがツッコんでる……そんなことが起きるなんて……。第七師団、なんて恐ろしいところ……。


「なに!? この人いきなり失礼なんだが!?」


 そして、ゼルはレミリアさんに文句を言う。


「ちょっと口が悪いけど、腕は確かだから、大丈夫だ」
「何が大丈夫なんだよ!?」
「そのうちきっと仲良くできるから」


 元気出せ、って感じでレミリアさんはゼルの肩をポンポンと叩く。


「それより! バーベキューって聞こえたんだけど! 肉! 肉はないのだ!?」


 ミザリーさんはヘイヴィアの買ってきた食材にたかり、中を荒らし始める。


「おぉ、待て待て。まだ、準備をしてない。おい、新人。さっさとコンロの準備しろ」


 レミリアさんはミザリーさんに殴り飛ばされたヘイヴィアを叩き起こす。


「い、いでぇ……。というか、だからなんで新人の俺にやらせるんだよ……」
「お前の魔法ならコンロが作れるだろ?」
「そりゃあ、出来るけど」
「じゃあ、頼んだ」
「はいはい」


 仕方ないと言った風にヘイヴィアはアジトの庭に魔法で石造りのコンロを生成する。


「ふぇ~便利だなぁ~、お前の魔法」


 ヘイヴィアの魔法を見てゼルは感嘆の声を漏らした。


「ゴブリンごときに褒められても嬉しくはないが、ま、俺を敬うのであればその限りでもないがな」
「ドヤってるとこ悪いが、お前の魔法属性って土なのな」
「そうだが、それがどうした?」
「ぷぷー、顔だけじゃなくて魔法属性も地味なのかよ」


 ゼルはたまらず吹き出し、ヘイヴィアを馬鹿にする。
 確かに四大属性の火、水、風に比べて土は、地味っぽくはある。


「なんだと!? 土属性は応用力があって使い勝手のいい属性だぞ! 訂正しろ! 後、俺の顔は地味じゃない!」


 また喧嘩が始まってしまった。
 あれはもう止めるだけ無駄だろう。
 あの二人は根本的に相性が悪いんだと思う。


「~~♪ ~~♪」
「肉! 肉!」


 新人二人が喧嘩しているのをよそに、レミリアさんはご機嫌に火を起こし、肉を焼いている。
 その肩の上ではミザリーさんが酒瓶片手に肉が焼きあがるのを楽しみにしている。
 ……というか、ちょっと待って。


「ミザリーさん!? 足元のそれは何ですか!?」
「何って? 空の酒瓶だけど」


 ミザリーさんの足元、いや正確にはレミリアさんの足元には大量の酒瓶が転がっていた。


「いつの間にそんなに飲んだんですか……」


 見たところ酔っぱらっている風には見えない。
 相当酒に強いのだろう。
 ミザリーさん、あの見た目でうわばみなんですか、そうですか。
 小人族だから見た目の年齢が分かりづらく、どうしても幼く見えてしまう。


「あらあら、随分と騒がしいようですけど、何事かしら?」


 外の騒ぎを聞きつけて、アジトの中からまた新たな人物が顔を出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お姉さまに婚約者を奪われたけど、私は辺境伯と結ばれた~無知なお姉さまは辺境伯の地位の高さを知らない~

マルローネ
恋愛
サイドル王国の子爵家の次女であるテレーズは、長女のマリアに婚約者のラゴウ伯爵を奪われた。 その後、テレーズは辺境伯カインとの婚約が成立するが、マリアやラゴウは所詮は地方領主だとしてバカにし続ける。 しかし、無知な彼らは知らなかったのだ。西の国境線を領地としている辺境伯カインの地位の高さを……。 貴族としての基本的な知識が不足している二人にテレーズは失笑するのだった。 そしてその無知さは取り返しのつかない事態を招くことになる──。

私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。 彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。 それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。 そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。 公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。 そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。 「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」 こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。 彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。 同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。

前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています

矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜 ――『偽聖女を処刑しろっ!』 民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。 何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。 人々の歓声に包まれながら私は処刑された。 そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。 ――持たなければ、失うこともない。 だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。 『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』 基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。 ※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)

おれのツガイ

青空ばらみ
恋愛
ラメール王国の王太子ライアンは数少ない竜人族。そして王族の血を受け継ぐ王太子。人族が大半のたった三国しかないこの大陸からツガイを見つけだすことが、王太子最優先事項だった。チャンスがあると、隣の国ピアンタ王国やセルバ王国まで冒険者のフリをして探してみてはいるが、なかなかツガイは見つからない…… そんなとき隣の国ピアンタ王国から珍しい薬草『キノコの女王』が手に入ったと密かにラメール王国が支配下に置く薬種商から連絡がくる。向かった先で思いがけず側近ガントリーの知り合い、パールという九歳の女の子を馬車に乗せラメール王国まで帰ることに。一目見た瞬間からパールがどうも気になるが……ツガイか? しかし、父王から聞かされていた、ドキッとして心臓を持っていかれたようなそんな強烈な感じではない…… 違う? イヤ、でも気になる…… やはりツガイなのか? これは、どっちなんだーっ?! ♢♢♢♢ 迷い人と当たり人〜伝説の国の魔道具で気ままに快適冒険者ライフを目指します〜 (ハイファンタジー) 完結済(全221話)のお話。今回はライアン王太子が主役です。ツガイを探すお話しになるので、ハイファンタジーではなく(恋愛)にしました。だいたい105話ぐらいから131話、第三章にいくまでの出会いのお話しです。『迷い人と当たり人〜』をみてくださった方は、逆の立場でもう一度。そうでない方たちにも、そのまま気楽に読んでいただけるゆる〜いご都合ファンタジーです。 23話完結ですから、よろしければお読みください!  

(完結)妹の婚約者である醜草騎士を押し付けられました。

ちゃむふー
恋愛
この国の全ての女性を虜にする程の美貌を備えた『華の騎士』との愛称を持つ、 アイロワニー伯爵令息のラウル様に一目惚れした私の妹ジュリーは両親に頼み込み、ラウル様の婚約者となった。 しかしその後程なくして、何者かに狙われた皇子を護り、ラウル様が大怪我をおってしまった。 一命は取り留めたものの顔に傷を受けてしまい、その上武器に毒を塗っていたのか、顔の半分が変色してしまい、大きな傷跡が残ってしまった。 今まで華の騎士とラウル様を讃えていた女性達も掌を返したようにラウル様を悪く言った。 "醜草の騎士"と…。 その女性の中には、婚約者であるはずの妹も含まれていた…。 そして妹は言うのだった。 「やっぱりあんな醜い恐ろしい奴の元へ嫁ぐのは嫌よ!代わりにお姉様が嫁げば良いわ!!」 ※醜草とは、華との対照に使った言葉であり深い意味はありません。 ※ご都合主義、あるかもしれません。 ※ゆるふわ設定、お許しください。

兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜

藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。 __婚約破棄、大歓迎だ。 そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った! 勝負は一瞬!王子は場外へ! シスコン兄と無自覚ブラコン妹。 そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。 周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!? 短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。

【第3部】勇者参上!!~究極奥義で異次元移動まで出来るようになった俺は色んな勢力から狙われる!!~

Bonzaebon
ファンタジー
「ただ戦って相手を倒す事は正しいのだろうか?」  戦いは多くの物事に決着をつけてきた。勇者ロアもそうだった。  だが、それは本当に正しい事なのだろうか?  ただ倒すだけでは相手がやろうとしていた事と変わりが無い。  ただ倒しただけでは問題が解決したとは言えないのではではないか?  勇者は“勝利”以外の解決方法を思索し始めた。 「やっぱり和解が最善の解決手段だろ。」  勇者は更なる苦難の道を歩み始めた。

真実の愛の祝福

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
皇太子フェルナンドは自らの恋人を苛める婚約者ティアラリーゼに辟易していた。 だが彼と彼女は、女神より『真実の愛の祝福』を賜っていた。 それでも強硬に婚約解消を願った彼は……。 カクヨム、小説家になろうにも掲載。 筆者は体調不良なことも多く、コメントなどを受け取らない設定にしております。 どうぞよろしくお願いいたします。

処理中です...