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アルケ村防衛戦Ⅰ

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 アルケ村。
 そこはお世辞にも栄えているとは言い難い小さな集落。
 貴族は住んでおらず、村人の全員が下民という貧しい村である。
 そんなアルケ村に危機が訪れていた。


「お、おやめください!」


 アルケ村の村長は翡翠色のローブを着た男の足元に縋りつく。


「うっせぇな! やめてほしけりゃ、魔導書(グリモワール)を持ってこい!」


 男は村長の制止を無視して、炎の魔法で村を焼き払う。


「で、ですから、ここにそのような高価なものはありません……」
「とぼけてんじゃねぇぞ、じじい。この村にあることは分かってんだ。でも、そうだな、どうしてもって言うなら……」


 男は村の中央に集められた村人たちに視線を向ける。


「一人ずつ殺していくしかねぇよなぁ?」


 その悪意に満ちた目に、子供たちは泣き叫び、大人たちは震えあがった。


「どうか! どうか! それだけはご容赦を!」


 村長は頭を地面につけ、泣きながら懇願する。


「っち。そればっかじゃねぇか。しゃらくせぇ。やっぱ殺そう」


 しびれを切らした男が民家ではなく、村人に向かって炎の魔法を放とうとする。


「メデス様」


 だが、その寸前で同じく翡翠色のローブを着た者が四人、その男の元に駆け寄ってきた。


「なんだ? 見つかったのか?」
「いいえ、くまなく探したのですが、どうやらここにはなさそうです」


 部下の報告を聞いて、メデスと呼ばれた男は舌打ちをした。


「っち、またデマ情報か。仕方がない」


 そうして、メデスは改めて村人たちの方へと向き直った。


「お前らの言う通り目的のものはここにはないらしい」


 それを聞いて村人たちは安堵した。
 これでこの悪夢から逃れられると。
 しかし……。


「俺たちのことを見られたからにはこいつらを生かしておく理由はない。殺せ」
「はっ」


 メデスは配下にそう命令を下した。
 配下たちもそれを受け、村人たちの前に立ち、魔法発動の準備を始める。


「運が悪かったと諦めな」


 メデスは最後に「じゃあな」とだけ告げ、くるりと背中を向けた。
 村人たちは助けてくれと泣き叫ぶ。
 だが、メデスは聞く耳を持たなかった。
 そして、今まさにメデスの配下たちの魔法が放たれようとした。
 その瞬間。


「てめぇら! 何してんだ!」


 その叫び声と共に、村人とメデスの配下たちの間に何かが落下してきた。


「なんだ?」


 アルケ村から去ろうとしていたメデスは足を止め、振り返る。


「あれは……」


 土煙が晴れ、そこに現れたのは……。


「ゴブリン、だと?」





「ああ、もう! 勝手に飛び降りちゃったよ」


 アルケ村の上空まで来て、村人たちが襲われているのを見た瞬間、ゼルとヘイヴィアは箒から飛び降りてしまった。


「私も早く行かなきゃ」


 ゼルたちの後を追うように、私は箒の高度を落として村人の前に着地する。


「大丈夫ですか?」


 私は村人たちに声をかける。


「あなた方は一体……」


 突如現れた私たちを村の人たちは訝しげな眼で見ていた。


「私たちは帝国騎士です」
「騎士? 君たちが……?」


 村人の一人である老人は騎士と聞いて、不安そうにゼルの方を見る。


「か、彼も騎士なのですか?」


 ああ、そうか。この人たちはゴブリンが騎士って言うことが信じられないのだ。
 それだけじゃない。
 もし、ゼルが本当の騎士だったとしても、彼の力を疑っているのだ。
 ゴブリンが戦えるのかと。


「はっ! 騎士だと? いっちょ前に騎士団のローブを羽織りやがって。ごっこ遊びはよそでやりな。ゴブリン風情が」


 そして、それは村人だけではない。
 相手の男もそうだ。
 ゼルの力を見くびっている。
 正直、私もそうだ。ゴブリンが戦えるのだろうか。
 けど、レミリアさんの話が本当だとしたら……。


「おいおい、俺もいるんだけどなぁ。なんであいつばっか注目されてるんだ?」


 ヘイヴィアが愚痴をこぼしていたが、今はそれどころではない。空気を読んでほしい。


「別に騎士団かどうかは関係ねぇよ。あんたらがこの人たちに危害を加えるというなら、戦って守るだけだ」
「ふん、戦うだと? 魔法もろくに使えない劣等種族が。時間の無駄だ。おい、お前ら、そこのゴミどもをさっさと殺せ」
「はっ!」
 後ろの太っている男が彼らのリーダーなのだろう。
 そのリーダーに命令された四人の配下たちは私たちに向かって、魔法を発動させようとする。
 だが……。


「なに!?」


 一瞬にしてゼルの姿が消える。
 そのせいでゼルに狙いをつけていた彼らは標的を失い戸惑う。


「うらぁ!」


 そして、その隙をついて、背後に周ったゼルは背中の剣を振り抜き、四人纏めてなぎ倒す。


「ぐぁ!」


 翡翠色のローブを着た連中はゼルにあっけなく倒されてしまった。


「後はてめぇだけだ」


 ゼルはディスガイナを敵のリーダーに向けて挑発する。


「なんだ、今のは……。速さだけなら、ビーストと大差ないぞ……」


 そのリーダーはゼルの予想外の強さに戦慄していた。
 いや、彼だけではない。
 私もヘイヴィアも村の人たちもゼルの予想外の強さに唖然としていた。
 レミリアさんの言っていたことは本当だったんだ。


「お前、何者だ? ただのゴブリンではないな?」
「よく分かってんじゃねぇか。俺はいずれ勇者になる男だ」
「く、くははははははは!!!!」


 それを聞いて敵のリーダーはお腹を抱えて笑い出した。


「ただ者ではないと思ったが、どうやら見当違いだったようだ。お前はただの愚か者だ。劣等種族ごときが勇者になれるわけがない」
「いいや、俺はなると言ったらなる! 今ここでお前を倒してそれを証明してやる!」
「やれるものな、やってみろ!」


 敵のリーダーが右手を大きく振り上げる。
 すると、村のあちこちから翡翠色のローブを来た人たちがぞろぞろと出てきた。


「嘘、敵はさっきの四人以外にもいたの……?」


 いつの間にか周囲を取り囲まれていた。
 その数はおおよそ三十人。
 ゼルがいくら早く動けても全方位から一斉に攻撃を受けたら、村の人たちを守り切れない。


「っち」


 ゼルは急いで周りを取り囲んでいる連中を倒そうと動き出すが、もう間に合わない。


「死ね」


 敵のリーダー合図を送った瞬間、一斉に魔法が放たれる。


「ダメ……」


 終わった……。そう思って私は目を閉じた。


「…………」


 けど、いつまで経っても敵の魔法がやってこない。


「え?」


 私はゆっくりと目を開ける。すると……。


「アースシールド」


 私たちを守るように土で出来た壁が出現していた。


「ミドリムシばっかにいいカッコさせられねぇよ」


 ヘイヴィアが右手を振ると、それに合わせて土の壁が崩れ落ちた。


「バカな! 三十人の攻撃をたった一人で防いだというのか!?」
「逆だ、豚野郎。たった三十人でこの程度か?」
「っく!」


 敵のリーダーは悔やしそうに歯噛みした。


「だが、数が多いのは鬱陶しいな」


 そう言って、ヘイヴィアは人差し指をクイっと上げる。
 それに反応して、先ほど崩れた壁の残骸が浮き上がる。


「アースガトリング」


 そして、その土塊は私たちを囲む敵に向かって放たれる。


「す、すごい……」


 そのたった一撃で敵の半数を倒していた。


「思ったより残ったが、まぁいいか」


 ゼルもそうだけど、ヘイヴィアも強い!
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