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24. ニュアンスは大切
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見えたのは大きくて形の良い手とそれを握りしめる俺の両手。
身じろぎすると隣の固い何かも動いた。
「あー……商店街の時と言い、重ね重ね悪かったな……」
隣で肩を貸してくれていたらしい安倍からどうにか離れようとするも、また眩暈がした。
体は急激に回復しているようだが、まだ本調子ではない。
「まだ休んでた方が良いです」
ぐい、と肩を抱かれ元の姿勢に戻される。
驚いて見上げると、安倍は少し目じりを染めて不機嫌そうに目をそらした。
それがなんだか可愛らしく、胸が暖かくなる。
俺はお言葉に甘えることにして、丁度良い高さにある肩にもたれかかった。
前回のバイトの疲労も抜けていないというのに、八人は無謀だった。
彼女たちの名誉のために言うが、別に強要されたわけではない。
確かに多勢に無勢で気圧されはしたが、彼女たちの悩みを聞いて、手を貸したいと思ったのも事実だ。
誰かのために使いたいなんて思った。
それがこんな体たらくだ。
安倍が触れた部分のじんわりとした温かさを感じながら、周囲へ目をやる。
先ほど壁ドンされた廊下ではなく、見慣れた机が並び、黒板が見える。
他の生徒の目につかないよう、空き教室に移動してくれたようだ。
「……俺、お前の言うとおり魔女でさ」
ぽつり、と声に出した俺に安倍は目を丸くして俺を見下ろした。
しかし俺が力なく笑うとまたそっぽを向いてしまった。
思っていたより顔が近かったせいでびっくりさせてしまったようだ。
ばらすなという祖母の教えは覚えている。
だが別に天災が起こるなどというオチはない。
誰彼構わず教えると大変なことになるという子供への教訓だ。
覚えていないが、俺が名前も知らない誰かの前で魔法を使ったことがあったから余計に厳しかったのだ。
親族の中でも己の正体を伴侶や親友に告白している者は多くいる。
身近なところで言えば、母は父に、姉は青井に。
俺は誰にも話したことはない。
柊は信用に足ると思っているが、漠然とそういうポジションではない気がしていた。
そういうポジションが何かはよくわからないが。
「でも出来損ないなんだ。使える魔法も大してないくせに、使った後の体力消耗がひどい」
安倍がこちらを向いた。
「もしかして今も……」
察しの良い後輩に笑って頷くと、握っていた手にさらに力を込めた。
安倍は今度は驚かず、ゆっくりと握り返してくれた。
すう、とまた少し体が軽くなった。
しかし男同士で肩を寄せ合って手を握り合っているこの状況、誤解待ったなしだな。
「でも男から力っていうか、陽の気を分けてもらうと回復する。だから手を貸してもらったんだ」
安倍は黙り込んだ。
一段と難しい顔になったお隣さんに、まぁそういう反応だよなと俺はため息を吐いた。
「勝手に気を分けてもらったとか気持ち悪いよな。もう大丈夫だし、放して――」
「触れたら良いんですよね?」
引こうとした俺の手を安倍が掴んだ。酷く真剣な眼差しに、どくんと心臓が鳴った。
この目は見たことがある。
学校の中庭ではない。恋魔女の庵で。
戸惑う俺に構わず安倍は畳みかけた。
「触れても良いんですよね」
「な、なんかニュアンスがちが……」
言い切る前に安倍に抱きすくめられていた。
身じろぎすると隣の固い何かも動いた。
「あー……商店街の時と言い、重ね重ね悪かったな……」
隣で肩を貸してくれていたらしい安倍からどうにか離れようとするも、また眩暈がした。
体は急激に回復しているようだが、まだ本調子ではない。
「まだ休んでた方が良いです」
ぐい、と肩を抱かれ元の姿勢に戻される。
驚いて見上げると、安倍は少し目じりを染めて不機嫌そうに目をそらした。
それがなんだか可愛らしく、胸が暖かくなる。
俺はお言葉に甘えることにして、丁度良い高さにある肩にもたれかかった。
前回のバイトの疲労も抜けていないというのに、八人は無謀だった。
彼女たちの名誉のために言うが、別に強要されたわけではない。
確かに多勢に無勢で気圧されはしたが、彼女たちの悩みを聞いて、手を貸したいと思ったのも事実だ。
誰かのために使いたいなんて思った。
それがこんな体たらくだ。
安倍が触れた部分のじんわりとした温かさを感じながら、周囲へ目をやる。
先ほど壁ドンされた廊下ではなく、見慣れた机が並び、黒板が見える。
他の生徒の目につかないよう、空き教室に移動してくれたようだ。
「……俺、お前の言うとおり魔女でさ」
ぽつり、と声に出した俺に安倍は目を丸くして俺を見下ろした。
しかし俺が力なく笑うとまたそっぽを向いてしまった。
思っていたより顔が近かったせいでびっくりさせてしまったようだ。
ばらすなという祖母の教えは覚えている。
だが別に天災が起こるなどというオチはない。
誰彼構わず教えると大変なことになるという子供への教訓だ。
覚えていないが、俺が名前も知らない誰かの前で魔法を使ったことがあったから余計に厳しかったのだ。
親族の中でも己の正体を伴侶や親友に告白している者は多くいる。
身近なところで言えば、母は父に、姉は青井に。
俺は誰にも話したことはない。
柊は信用に足ると思っているが、漠然とそういうポジションではない気がしていた。
そういうポジションが何かはよくわからないが。
「でも出来損ないなんだ。使える魔法も大してないくせに、使った後の体力消耗がひどい」
安倍がこちらを向いた。
「もしかして今も……」
察しの良い後輩に笑って頷くと、握っていた手にさらに力を込めた。
安倍は今度は驚かず、ゆっくりと握り返してくれた。
すう、とまた少し体が軽くなった。
しかし男同士で肩を寄せ合って手を握り合っているこの状況、誤解待ったなしだな。
「でも男から力っていうか、陽の気を分けてもらうと回復する。だから手を貸してもらったんだ」
安倍は黙り込んだ。
一段と難しい顔になったお隣さんに、まぁそういう反応だよなと俺はため息を吐いた。
「勝手に気を分けてもらったとか気持ち悪いよな。もう大丈夫だし、放して――」
「触れたら良いんですよね?」
引こうとした俺の手を安倍が掴んだ。酷く真剣な眼差しに、どくんと心臓が鳴った。
この目は見たことがある。
学校の中庭ではない。恋魔女の庵で。
戸惑う俺に構わず安倍は畳みかけた。
「触れても良いんですよね」
「な、なんかニュアンスがちが……」
言い切る前に安倍に抱きすくめられていた。
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