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19.返金には応じかねます

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 それにしても安倍がやたらと悔やんでいる『導入で失敗』とは一体何をやらかしたのだろう。

 「告白してNOにしろ保留にしろ、俺が傍にいる間は相手の性格上しばらくは恋人を作らないだろうし、その間になんとかします」
「ん?」

 恋人どころか既に生涯の伴侶がいるのでは?

 俺が首をかしげたのにも気が付かない様子で、安倍はつづけた。

「ついでに周りへの牽制にもなるので」

 それは楽しそうに安倍は口角を上げた。

「そ、うですか……」

 垣間見えたヤンデレ風味に腰が引ける。

 しかし初恋にしてこの策士っぷりはなかなかの器である。

 世間様に顔向けできない関係とは言え、彼ならものにするのも時間の問題のように思えた。

 そう客観的に判断しつつ、胸を刺す痛みを覚えていた。
 野次馬根性で彼にここまで想われる女性を一目見てみたいと思っていたが、今はなんだか見たいような見たくないような曖昧な気持ちだ。

「……では、告白するのに最適な場所を占いましょうか」

 お馴染みの水晶玉を取り出し、いつものように占った。

 重ねた手がじんわりと暖かくなっていく。

 だがいつものように明確なビジョンが浮かばなかった。

 何かに妨害された電波を受信したように俺たちが通う校舎が途切れ途切れに見えるだけだ。

「……貴方の学校、としか出ませんね。しかもビジョンがひどく断続的です。何か邪魔する要素が出現しているのかもしれません」

 俺がそういっても安倍の決意は揺らがなかったらしい。
 
 「また結果を報告に来ます」と静かに言った。

 流石は武士である。

「コースはあと三回ですので」

 なんだかんだ言ってその間にまとまりそうだと思う。

 またも、もやもやした気持ちを抱えたまま水晶玉から手を放そうとした瞬間、安倍が俺の手首をつかんだ。

 ぱふ、と黒い腕がへこむ音がする。

「覚悟しておいてください」

 安倍の低まった声に俺は顔を上げた。
 彼の真っ黒な目が、まっすぐに俺を射抜いている。
 凛とした空気が室内を満たしている。

「え……?」

 安倍は何事も無かったかのように代金を払い、庵を出て行った。

 しばじ呆然とし、掴まれた手首を思わず体に引き寄せる。

 そんなに強くはなかったのに、なんだかじんじんと痛かった。

「……占いなんて関係なく両想いになるからコース料金返金しろとかそういうこと??」

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