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目覚め

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「まぁ、お嬢さんが黒龍を愛しているなら大丈夫だろう。とにかく魂の融合をしてから、魔羅二本ともぶっ込んで、七日七晩交わり続けるんだよ。で、精を胎に植えるように何度も出せば、立派な神の嫁となれる」
「七日、七晩!? そんなに長くですか!?」

 今まで、おとめは龍神と長くても半日、しかも休憩を挟みながら交わったことはある。だが、七日もそれが続くとなると……色々と弊害があるだろう。

「大丈夫だ。龍は元からそういう交わり方をするからな。確実に自分のものにするために、長く交わるのが通常だ」

 ということは、今まで龍神に我慢させていたのだろうか。おとめが気を失ったり、体力が尽きてしまって終了することも多かったので、その後も龍神は……。

「そうだ、休憩したり食事したりはできますよね。さすがに」
「いや、無理だ」
「ひぇ!?」
「魔羅は抜けない。というか、抜かない。抜いたらそこから精が溢れるだろう? 魔羅で栓をしておかないと。万が一抜けたら、そこから急いで挿れ直して七日七晩を初めからだ」

 理屈はわからないでもないけれど……。

「あ、あ、その、厠に行きたくなったり、お腹も減るでしょう?」
「それも問題ないな。人間でも魂が融合した嫁なら精が胎に入ると空腹が満たされる。食事ではないから厠も不要。水ぐらいは飲んでも平気だが、龍神と口付けしたときに、唾液を貰ったほうが良いだろうな。唾液にも力はある。あー、ただ、一度嫁になると定期的に精をもらわないと身体が崩れてくるからな? 妖は自分の妖力で保てるけど、人間は身体がもろい。七日じゃなくとも、一晩中注がれる日を週一で作った方がいいだろうな。嫁になった後に拒否だけはするなよ?」

 情報が多すぎる。そしてその内容が卑猥だ。
 二本の魔羅を入れ、喉が渇けば唾液を貰い、食事もせずに睦み合う。そうした行為を週に一度続けなければ、人間は身体が崩れる……。
 龍の嫁になるということは、そういうことだ。
 万が一、龍神と離れてしまったら? おとめの身体は呆気なくチリになるのかもしれない。危険が常に隣り合わせになっている。
 それでも、おとめの覚悟は変わることはない。

「んぅーあとは魂を融合してるから、龍は嫁の、嫁は龍の考えていることが何となくわかるようになるぞ」
「他には、まだありますか?」

 聞けば聞くほど何かがありそうだ。もう、聞かずに嫁になってから覚えていけば良いような気がするが、とりあえず聞いてみる。

「あとはそうだな……うーん。魂が融合してるから、龍が死ぬ時は嫁も死ぬ。だが逆はない。あくまで龍が主体だ。死にたくなければ龍に捨てられない努力をするんだな」

 ケラケラと笑う白龍に、努力しますと伝える。その時、布団が微かに動いた気がした。

「……捨てたり、しない」
「龍神様!! 目を醒したんですね!!」

 うっすらとまだ弱々しい瞳の輝きではあるが、龍神の目には涙を溜めたおとめが映っている。それだけで嬉しくなり、おとめはそっと龍神に抱き締めた。

「起きるの、待ってました」
「あぁ、遅くなってすまないな。……で、白龍、全部話すものではないだろう」

 おとめの肩越しに龍神は白龍を睨む。

「えー? おはようの挨拶も無しか? っていうか黒龍が何も教えないからだろう? 嫁にするならちゃんと教えておかないと、お嬢さんは自分の身も守れない」
「黙れ」
「はー? もしかして、まだ嫁にするつもりがないとか言うのか? お嬢さんはその覚悟を決めてるのに??」

 龍神から身体を離したおとめは、苦悶の表情を浮かべる龍神をまっすぐと見つめた。

「龍神様。私をお嫁にはしたくない、ですか? 好き、じゃない?」
「!? 違う!! そうじゃない!! おとめには……人間の生活があるだろう? 愛しているから、おとめの生活を俺が奪ってはいけないんだ」
「あ、愛してる?」

 そっと身体を起こした龍神は、おとめの身体を引き寄せ抱き締める。そして、額にそっと唇を寄せた。

「愛している。おとめを愛しているんだ。本当はもっと情緒ある場所でそれなりに伝えたかったんだが。こんな姿ですまない」

 おとめの目から涙が溢れる。

「!! 私も龍神様を愛しています!! だから生きてほしい。龍神様だけをお慕いしています!!」
「そうか」

 甘い空気に唇が触れ合いそうになった時、白龍が あー と困惑の声を出した。

「あー。お嬢さん? 龍の嫁は大抵複数だからな? 一応言っておくけど、黒龍も複数の嫁を持つべき……」
「え?! そ、そうなの……」

 思い切り肩を落としたおとめに、白龍は続ける。

「嫁の数が必要なわけじゃないけど、その数だけ絆があるからなぁ。それが力にもなる……が、まぁ、嫁同士の争いもあるけど」

 私だけじゃ足りない。思わず呟くと、龍神が強く唇を奪ってきた。それに驚いて顔を見ると、物凄い剣幕で龍神が白龍を睨んでいる。
 今の今まで知らなかったけれど、おとめにもそれが殺気だとわかった。
 もちろんそれは、白龍も感じ取ったようで、両手を思い切り振った。

「いやいやいや、要は絆の強さだから!! 数があれば絆が増えるから、大抵の龍は嫁を増やすってだけだから!! 黒龍とお嬢さんの絆が強ければ一人でも大丈夫だな!!」
「一人でも……大丈夫ですか?」

 おとめが不安そうに白龍をみると、白龍はハッとした表情をしたあとに柔らかく微笑んだ。

「あぁ、もちろん。っていうか、黒龍が今までだれも嫁にしなかった方が、よほど問題だ。よく龍神を保ってるよ。これから、黒龍を頼むよ。お嬢さん」

 どうやら白龍は人が良いらしい。余計ないことも言ってしまうが、それは相手を思ってのことだろう。
 そして、嫁が一人でも大丈夫だと知り、安心して龍神に向き直る。

「龍神様、私を嫁にして下さい」

 その言葉に、龍神は眉間に皺を寄せた。

「聞いただろう? 人間を捨てるんだ。魂の融合は簡単じゃない。おとめが死ぬ可能性がある」
「やってみないとわからないじゃない? それに、死ぬ気はないんです。っていうか、私が試さなくて、龍神様が弱って消えたら、私、あとを追います」

 ビクンと龍神の肩が跳ねた。

「やめてくれ」

 微かに震える龍神の肩を、おとめがそっと抱き締める。

「二人で生きれる可能性があるなら、私はそれに賭けたいんです。ずっと、ずっと龍神様の傍にいたいの」
「おとめ……」

 龍神が強くおとめを抱き締めかえした。まだ熱が足りていない龍神の身体に、おとめの絆という力が加わったらどうなるのだろうか。
 おとめの心は失敗を恐れるよりも、成功後の期待の方が大きかった。

「あー、あとは二人で。落ち着いたらちゃんと帝都に来いよ? お嬢さんも三国達もな。じゃぁなー」

 白龍は庭に出て、純白の陶器のような艶めいた龍となり去っていった。
 勝手に来て、勝手に話をして、勝手に去っていったのだ。

「龍神さま、オレ達も山に戻ります。何かあったら呼んで下さい」

 そう言うと、三国達も屋敷を出た。
 二人きりの空間。慣れているはずなのに、今まで話していたのに、急に何を話せば良いかわからなくなってしまう。
 すると、龍神がおとめの髪を一房持ち上げて唇を寄せた。

「俺は、おとめを愛している。心から。だから……嫁にするならば、おとめだけを嫁にしたい。その分、絆の強さが必要で、俺は……おとめを手放せなくなる。自分で言うのも何だが、多分執着も激しい。嫉妬もするだろう。さっきも俺が起きれない間に白龍と近付いただけで、はらわたが煮えくりかえるかと思った。しかも、まともに女を抱いたのはおとめが初めてだ。だから……無理をさせてしまうだろう。怖がらせてしまうだろう。でも、嫁になったら逃げられない。逃すつもりもない。……こんな、出来損ないの龍で、おとめは本当に良いのか?」

 長い長い、独白のような台詞におとめは思わずクスリと笑ってしまった。
 愛しているから、不安だった。
 それは龍神も同じだったようだ。
 完璧に見えて、そうではない。そんな一面も愛おしい。

「その方が嬉しいです! 私も龍神様しか求めることはありませんから! 愛してます。お嫁さんにしてくれますか?」
「あぁ、俺のたった一人の妻になってくれ」

 真っ直ぐに二人が見つめ合い、ようやく笑顔を向け合うことができた。それが嬉しくて、おとめは思わず飛びつき唇を押し付けた。

「嬉しい!! 大好き!! 龍神様!!」

 死ぬ気はない。何なら、魂の融合も一瞬で終わらせられる。そんな予感すらしたおとめだった。
 
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