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Last Moon (約40分 男5(少年・男女不問))
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○タイトルバック
ジュリアン:『学園で一番美しいのは僕だった』
サンディー:『あの人がいなくなって、一番美しいのは僕になった』
ジュリアン:『なのに………』
サンディー:『なのに………』
フレドリック:『………………キミは……!』
ジュリアン:【Last moon】――最後の月に魅入られたのは、誰?
○寄宿学校・校舎内・廊下
サンディー:「おはよう。手紙? (笑顔で)ありがとう。昨日も貰ったのに~」
サンディー:「あぁ、おはよう。えー、またその呼び方~? いいけどさぁ、僕は男だよ? (笑って)うん、またねー」
× × ×
サンディー:「フレディ、お待たせ」
フレドリック:「やぁ。今日も下僕たちの世話で大忙しだね、【水無月姫(みなづきひめ)】」
サンディー:「(呆れたように)あなたまで僕をそう呼ぶんだね」
フレドリック:「なんだい、他の奴らには嬉しそうな顔をしていたのに。それに、『あなたまで』も何も、この呼び名を付けたのは僕じゃないか」
サンディー:「そうだったね。……水もないのにまるで水面に映っているかのように、旧校舎のプールの底にゆらゆらと揺れていた怪奇の【月】。その月がやがて僕の顔になった。そんな馬鹿げたことをあなたは確かに言っていた」
フレドリック:「僕はこの目で見たのさ。亡くなった恋人を想い、夜中に【現場の】旧校舎プールに忍び込んでぼんやりと月を眺めていた。するとその月が、プールの水面にも映っていることに気付いたんだ」
サンディー:「でも水はなかった」
フレドリック:「そう。なのに、まるで水面に映っているかのように、ゆらゆらと波を打って揺れていた。不思議に思い、じっと見続けていたら……月は次第に、ヒトの形へと変わっていった。それは、鮮やかなドレスを纏(まと)ったプリンセスの姿だった」
サンディー:「………で、そのプリンセスの顔が?」
フレドリック:「キミの顔だったわけさ!」
サンディー:「それで水無月姫ね…。白雪姫もびっくりのナンセンスな呼び名だ」
フレドリック:「これ以上の呼び名はないと思うけどなぁ」
サンディー:「……(ため息)。で、その翌日、あなたは僕に交際を申し込みに来た」
フレドリック:「恋をしてしまったんだ……水面に映る姫君の姿に!」
サンディー:「恋人を亡くしたばかりだというのに」
フレドリック:「切り替えは大事だろう?」
サンディー:「……とても先輩だとは思えない」
フレドリック:「こんな僕はお気に召さない?」
サンディー:「………そんなところが好きだって、わかってるくせに」
ジュリアン:『……そのポジションは、僕だった。生きてさえいれば、卒業するまでずっと……僕が一番だったんだ』
サンディー:「……フレドリック。あなたは本当に、プリンセスの姿をした僕に一目惚れして、それで僕を次の恋人に選んだの?」
フレドリック:「どうしたんだい? 急に僕の言葉が信用できなくなった?」
サンディー:「そういうわけではないけれど……ねえ、あなたは本当は……」
フレドリック:「ん?」
サンディー:(N)本当は、学園で一番美しいと言われる人を選んでいるだけなのではないの?
………そんなこと、言えるはずない。
サンディー:「べつに。何でもない」
フレドリック:「? ……ふふ~ん。もしキミの懸念が僕の予測通りであれば、キミもうかうかしてはいられなくなってきたようだね?」
サンディー:「え?」
フレドリック:「ほら、あそこにいるよ。噂の新入生・リオくんだ」
サンディー:「……!」
○同・渡り廊下
リオ:「カズト! 危ないってば! 子供じゃないんだから、木の棒なんて振り回さないでよぉ!」
カズト:「これ持ってると、昔親父がやってた『剣道』を思い出すんだよなあ♪」
リオ:「ケンドー? それも、きみの母国の言葉?」
カズト:「そう。俺強いから、おまえに変な虫が付いたらすぐにコイツで追っ払ってやるよ!」
リオ:「虫なんて付かないよ」
カズト:「すでにいっぱい付いてんの! 変な虫っていうのは、…ほら、このへんのコイツらのことをいうんだ!」
リオ:「わわっ、人に向けちゃダメ~!」
カズト:「ったく。ここは紳士の国じゃなかったのか? おいおまえら! いくらリオが可愛いからって、コイツに手ぇ出したら俺が許さねーぞ!」
リオ:「大袈裟なんだってば! 恥ずかしいからやめてよぉ」
カズト:「おまえもおまえだよ。入学して早々、毎日こんなオヒメサマ扱い受けて、何で嫌がらないんだよ」
リオ:「ぼくだって嫌じゃないわけではないけど……でも、上級生が多いし、親切にしてくれそうな人とは仲良くしておきたいんだ。だって、この寮…怖いんだもん」
カズト:「あ。またプールのこと?」
リオ:「うん…。旧校舎のプールに浮かんでいたっていう、当時2年生だった生徒は、この寮…【モーリスハウス】の寮生で、裏門から通じている道を通って、旧校舎のプールに忍び込んでいたらしいじゃない?」
カズト:「そうだっけ?」
リオ:「よく忘れられるよね…。……それが一体、足を滑らせての転落事故だったのか、それとも自殺だったのか、……あるいは、そのどちらでもないのか。そんな謎だらけの事件が起きたばかりの学園っていうだけでも怖いのに、よりによって僕らの入った寮が、唯一その現場に通じているなんて、……あぁ、考えただけでこれからの生活が憂鬱だよ…」
カズト:「だからって、同じ寮の上級生に頼る必要なんてないだろ? おまえには俺が付いてるんだから!」
リオ:「…ふふっ。ほんとにきみはいつも自信満々だよね。その根拠のない自信に、確かにいつも助けられてる」
カズト:「だろっ?」
○同・廊下
サンディー:「………………」
フレドリック:「可愛いよねぇ、あの子」
サンディー:「…っ!?」
フレドリック:「キミもそんなしかめっ面ばかりしていたら、すぐにあの子に取って代わられてしまうよ?」
サンディー:「……何をだよ?」
フレドリック:「(笑って)向こうはキミと違ってとても素直で純粋そうだね」
サンディー:「………………」
○旧校舎・プール(夜)
サンディー:「こんなに簡単に入り込めるなんて、この学校のセキュリティは終わっているね!」
ジュリアン:『おい。僕の領域に何の用だ』
サンディー:「全く……あぁ、何もかもがむしゃくしゃする」
ジュリアン:『……聴こえていないようだな』
サンディー:「やっぱりフレディは、一番が好きなだけなんじゃないか! 恋人の僕が隣にいるのに、このところ毎日毎日新入生のあいつのことばかり見ている! 僕とあいつとどっちが好きなんだよ!!」
ジュリアン:『……? アイツ……?』
サンディー:「あいつさえ入学して来なければ……僕だけだったのに。……あいつがいなければ、僕が一番美しいのに!!」
ジュリアン:『……!?』
ジュリアン:(N)学園で一番美しいのは僕だった。生きてさえいれば、お前じゃなくて僕だったのに。
そう思っていたのだけれど。
サンディー:「なんであいつなんだよ……。あぁ、あいつが憎い……!」
ジュリアン:(N)お前も……僕と同じ嫉妬心を抱いているのか…?
サンディー:「……でも僕には、おまえにないものがあるんだ。彼が僕に興味を持つのは、僕が彼の『水無月姫』だからだ。……ほんとはそんなもの、あまり信じてはいないけれど、……本当に映るなら、僕にも見せてよ!」
ジュリアン:『………』
サンディー:「………え? ………あ、プールの底に、何かが……」
サンディー:(あれは………月………?)
サンディー:「揺れてる……水もないのに、………まるで、水面に映っているみたいに、……ゆらゆらと…波を打って………」
ジュリアン:『……月が、僕に会いに来たんだ。お前にも見えるんだね?』
サンディー:「………? ……あ! 月が……ヒトの形に…?」
ジュリアン:『………』
サンディー:「これは………僕の顔…? お姫様の恰好をした、僕が映っているの……?」
ジュリアン:『…そこに映るのは、僕が憎んでいる人間の顔。真っ赤なドレスは燃える嫉妬心の現れ。別に女の恰好をさせたかったわけじゃない』
サンディー:「本当に……僕が映っている………」
ジュリアン:『月が僕に見せてくるんだ。僕自身の嫉妬の心を』
ジュリアン:『お前が羨ましい』
サンディー:「あいつが羨ましい」
ジュリアン:『お前が憎い』
サンディー:「あいつが憎い」
ジュリアン:『お前が』
サンディー:「あいつが」
ジュリアン:『(同時に)憎い』
サンディー:「(同時に)憎い」
サンディー:「………!? 誰だ!? ここにいるのは誰!?」
ジュリアン:『!』
ジュリアン:(N)嫉妬の心がシンクロした時、……こいつの心に接触することができてしまった。
ジュリアン:『これは、どんな状態なんだ? 僕は今、何ができるんだ?』
サンディー:「誰かがいる……どこに? 僕に何か、しようとしているの?」
ジュリアン:『……あぁ、これは……これは面白いことになった。……今の僕は、こいつの心に取り入ることができるんだ』
サンディー:「……ここから離れた方がいいのかな…」
ジュリアン:『【嫉妬に狂え】』
サンディー:「……?」
ジュリアン:『【あいつが憎い】』
サンディー:「………………」
○学生寮『モーリスハウス』・廊下(朝)
フレドリック:「サンディー、おはよう」
サンディー:「あれ、今日は姫とは呼ばないの?」
フレドリック:「もはやお姫様は、新入生のあの子で定着してしまったからね。差別化した方がいいだろう」
サンディー:「……ふーん?」
フレドリック:「寮内でも日に日に人気が上がっていくね。これは放っておいたら、そのうち声をかけることも難しくなってしまいそうだ。行くなら今のうち…かな」
サンディー:「………は?」
フレドリック:「いや、せっかくだから『お友達』になっておきたいだけだよ」
サンディー:「………」
ジュリアン:『【嫉妬に狂え】』
サンディー:「………」
フレドリック:「? どうかしたかい?」
サンディー:「ほんと、彼は凄い人気だね。あの群衆の中に入ってトクベツな『お友達』になるすべを、あなたは持っているの?」
フレドリック:「ハハハ。なかなか意地悪なことを言うね」
サンディー:「どうなんだい?」
フレドリック:「…まぁ、どれだけの効果があるかはわからないけれど、今の僕は子供が興味を持ちそうなオカルト話を持っているから。試しにそれで釣り上げてみようかと思っている」
サンディー:「(ため息)……。それは素敵なアイディアだね」
フレドリック:「呆れた顔をしないでおくれよ。その話には、キミも登場するんだからね。しかも美しいプリンセスとして」
サンディー:「はぁ?」
フレドリック:「そういえばキミにはまだ話していなかったけれど、プールの底にキミの顔が現れた後にね、僕はジュリアンに会ったんだよ」
サンディー:「………………は?」
○回想・旧校舎プール(夜)
フレドリック:「……あぁ、なんて美しいんだ…。これまではどうしても僕のジュリアンと比べてしまって、彼が学園でちやほやされていてもさほど興味を引かれなかったけれど……こうして見ればなるほど納得だ。いま一番美しいのは確かにこの子だ…!」
ジュリアン:『フレディ………』
フレドリック:「……? 今何か聴こえたような…」
ジュリアン:『なぜ……? なぜなんだ、フレディ? 君は言ってくれたじゃないか。僕が一番だって、何があっても、永久に変わらないって……!』
フレドリック:「………?」
ジュリアン:『………』
フレドリック:「ジュリアン?」
ジュリアン:『……!?』
フレドリック:「ジュリアンなのか…?」
ジュリアン:『……聴こえるの? 僕の声が……』
フレドリック:「……!! ジュリアン!! 声だけじゃない、いま、はっきりと見えている…! あぁ、なんてことだ! この愛しい姿を、一瞬だって忘れたことはない!」
ジュリアン:『見えている…? 本当に!?』
フレドリック:「本当だとも! ほら、こうして会話もできている! 僕は幽霊の類いは信じるほうではないけれど、キミを見間違うはずがない! たった一人の愛しい恋人を!!」
ジュリアン:『でも……君は今、他の男を……』
フレドリック:「あれは、少しばかり顔を褒めただけさ! 僕にはいつだってキミしかいない! やっぱりこうして見比べれば、キミの方が美しい…。愛しのジュリアン、僕の恋人は、永久にキミだけだ!」
ジュリアン:『………』
ジュリアン:『学園で一番美しいのは僕だった』
サンディー:『あの人がいなくなって、一番美しいのは僕になった』
ジュリアン:『なのに………』
サンディー:『なのに………』
フレドリック:『………………キミは……!』
ジュリアン:【Last moon】――最後の月に魅入られたのは、誰?
○寄宿学校・校舎内・廊下
サンディー:「おはよう。手紙? (笑顔で)ありがとう。昨日も貰ったのに~」
サンディー:「あぁ、おはよう。えー、またその呼び方~? いいけどさぁ、僕は男だよ? (笑って)うん、またねー」
× × ×
サンディー:「フレディ、お待たせ」
フレドリック:「やぁ。今日も下僕たちの世話で大忙しだね、【水無月姫(みなづきひめ)】」
サンディー:「(呆れたように)あなたまで僕をそう呼ぶんだね」
フレドリック:「なんだい、他の奴らには嬉しそうな顔をしていたのに。それに、『あなたまで』も何も、この呼び名を付けたのは僕じゃないか」
サンディー:「そうだったね。……水もないのにまるで水面に映っているかのように、旧校舎のプールの底にゆらゆらと揺れていた怪奇の【月】。その月がやがて僕の顔になった。そんな馬鹿げたことをあなたは確かに言っていた」
フレドリック:「僕はこの目で見たのさ。亡くなった恋人を想い、夜中に【現場の】旧校舎プールに忍び込んでぼんやりと月を眺めていた。するとその月が、プールの水面にも映っていることに気付いたんだ」
サンディー:「でも水はなかった」
フレドリック:「そう。なのに、まるで水面に映っているかのように、ゆらゆらと波を打って揺れていた。不思議に思い、じっと見続けていたら……月は次第に、ヒトの形へと変わっていった。それは、鮮やかなドレスを纏(まと)ったプリンセスの姿だった」
サンディー:「………で、そのプリンセスの顔が?」
フレドリック:「キミの顔だったわけさ!」
サンディー:「それで水無月姫ね…。白雪姫もびっくりのナンセンスな呼び名だ」
フレドリック:「これ以上の呼び名はないと思うけどなぁ」
サンディー:「……(ため息)。で、その翌日、あなたは僕に交際を申し込みに来た」
フレドリック:「恋をしてしまったんだ……水面に映る姫君の姿に!」
サンディー:「恋人を亡くしたばかりだというのに」
フレドリック:「切り替えは大事だろう?」
サンディー:「……とても先輩だとは思えない」
フレドリック:「こんな僕はお気に召さない?」
サンディー:「………そんなところが好きだって、わかってるくせに」
ジュリアン:『……そのポジションは、僕だった。生きてさえいれば、卒業するまでずっと……僕が一番だったんだ』
サンディー:「……フレドリック。あなたは本当に、プリンセスの姿をした僕に一目惚れして、それで僕を次の恋人に選んだの?」
フレドリック:「どうしたんだい? 急に僕の言葉が信用できなくなった?」
サンディー:「そういうわけではないけれど……ねえ、あなたは本当は……」
フレドリック:「ん?」
サンディー:(N)本当は、学園で一番美しいと言われる人を選んでいるだけなのではないの?
………そんなこと、言えるはずない。
サンディー:「べつに。何でもない」
フレドリック:「? ……ふふ~ん。もしキミの懸念が僕の予測通りであれば、キミもうかうかしてはいられなくなってきたようだね?」
サンディー:「え?」
フレドリック:「ほら、あそこにいるよ。噂の新入生・リオくんだ」
サンディー:「……!」
○同・渡り廊下
リオ:「カズト! 危ないってば! 子供じゃないんだから、木の棒なんて振り回さないでよぉ!」
カズト:「これ持ってると、昔親父がやってた『剣道』を思い出すんだよなあ♪」
リオ:「ケンドー? それも、きみの母国の言葉?」
カズト:「そう。俺強いから、おまえに変な虫が付いたらすぐにコイツで追っ払ってやるよ!」
リオ:「虫なんて付かないよ」
カズト:「すでにいっぱい付いてんの! 変な虫っていうのは、…ほら、このへんのコイツらのことをいうんだ!」
リオ:「わわっ、人に向けちゃダメ~!」
カズト:「ったく。ここは紳士の国じゃなかったのか? おいおまえら! いくらリオが可愛いからって、コイツに手ぇ出したら俺が許さねーぞ!」
リオ:「大袈裟なんだってば! 恥ずかしいからやめてよぉ」
カズト:「おまえもおまえだよ。入学して早々、毎日こんなオヒメサマ扱い受けて、何で嫌がらないんだよ」
リオ:「ぼくだって嫌じゃないわけではないけど……でも、上級生が多いし、親切にしてくれそうな人とは仲良くしておきたいんだ。だって、この寮…怖いんだもん」
カズト:「あ。またプールのこと?」
リオ:「うん…。旧校舎のプールに浮かんでいたっていう、当時2年生だった生徒は、この寮…【モーリスハウス】の寮生で、裏門から通じている道を通って、旧校舎のプールに忍び込んでいたらしいじゃない?」
カズト:「そうだっけ?」
リオ:「よく忘れられるよね…。……それが一体、足を滑らせての転落事故だったのか、それとも自殺だったのか、……あるいは、そのどちらでもないのか。そんな謎だらけの事件が起きたばかりの学園っていうだけでも怖いのに、よりによって僕らの入った寮が、唯一その現場に通じているなんて、……あぁ、考えただけでこれからの生活が憂鬱だよ…」
カズト:「だからって、同じ寮の上級生に頼る必要なんてないだろ? おまえには俺が付いてるんだから!」
リオ:「…ふふっ。ほんとにきみはいつも自信満々だよね。その根拠のない自信に、確かにいつも助けられてる」
カズト:「だろっ?」
○同・廊下
サンディー:「………………」
フレドリック:「可愛いよねぇ、あの子」
サンディー:「…っ!?」
フレドリック:「キミもそんなしかめっ面ばかりしていたら、すぐにあの子に取って代わられてしまうよ?」
サンディー:「……何をだよ?」
フレドリック:「(笑って)向こうはキミと違ってとても素直で純粋そうだね」
サンディー:「………………」
○旧校舎・プール(夜)
サンディー:「こんなに簡単に入り込めるなんて、この学校のセキュリティは終わっているね!」
ジュリアン:『おい。僕の領域に何の用だ』
サンディー:「全く……あぁ、何もかもがむしゃくしゃする」
ジュリアン:『……聴こえていないようだな』
サンディー:「やっぱりフレディは、一番が好きなだけなんじゃないか! 恋人の僕が隣にいるのに、このところ毎日毎日新入生のあいつのことばかり見ている! 僕とあいつとどっちが好きなんだよ!!」
ジュリアン:『……? アイツ……?』
サンディー:「あいつさえ入学して来なければ……僕だけだったのに。……あいつがいなければ、僕が一番美しいのに!!」
ジュリアン:『……!?』
ジュリアン:(N)学園で一番美しいのは僕だった。生きてさえいれば、お前じゃなくて僕だったのに。
そう思っていたのだけれど。
サンディー:「なんであいつなんだよ……。あぁ、あいつが憎い……!」
ジュリアン:(N)お前も……僕と同じ嫉妬心を抱いているのか…?
サンディー:「……でも僕には、おまえにないものがあるんだ。彼が僕に興味を持つのは、僕が彼の『水無月姫』だからだ。……ほんとはそんなもの、あまり信じてはいないけれど、……本当に映るなら、僕にも見せてよ!」
ジュリアン:『………』
サンディー:「………え? ………あ、プールの底に、何かが……」
サンディー:(あれは………月………?)
サンディー:「揺れてる……水もないのに、………まるで、水面に映っているみたいに、……ゆらゆらと…波を打って………」
ジュリアン:『……月が、僕に会いに来たんだ。お前にも見えるんだね?』
サンディー:「………? ……あ! 月が……ヒトの形に…?」
ジュリアン:『………』
サンディー:「これは………僕の顔…? お姫様の恰好をした、僕が映っているの……?」
ジュリアン:『…そこに映るのは、僕が憎んでいる人間の顔。真っ赤なドレスは燃える嫉妬心の現れ。別に女の恰好をさせたかったわけじゃない』
サンディー:「本当に……僕が映っている………」
ジュリアン:『月が僕に見せてくるんだ。僕自身の嫉妬の心を』
ジュリアン:『お前が羨ましい』
サンディー:「あいつが羨ましい」
ジュリアン:『お前が憎い』
サンディー:「あいつが憎い」
ジュリアン:『お前が』
サンディー:「あいつが」
ジュリアン:『(同時に)憎い』
サンディー:「(同時に)憎い」
サンディー:「………!? 誰だ!? ここにいるのは誰!?」
ジュリアン:『!』
ジュリアン:(N)嫉妬の心がシンクロした時、……こいつの心に接触することができてしまった。
ジュリアン:『これは、どんな状態なんだ? 僕は今、何ができるんだ?』
サンディー:「誰かがいる……どこに? 僕に何か、しようとしているの?」
ジュリアン:『……あぁ、これは……これは面白いことになった。……今の僕は、こいつの心に取り入ることができるんだ』
サンディー:「……ここから離れた方がいいのかな…」
ジュリアン:『【嫉妬に狂え】』
サンディー:「……?」
ジュリアン:『【あいつが憎い】』
サンディー:「………………」
○学生寮『モーリスハウス』・廊下(朝)
フレドリック:「サンディー、おはよう」
サンディー:「あれ、今日は姫とは呼ばないの?」
フレドリック:「もはやお姫様は、新入生のあの子で定着してしまったからね。差別化した方がいいだろう」
サンディー:「……ふーん?」
フレドリック:「寮内でも日に日に人気が上がっていくね。これは放っておいたら、そのうち声をかけることも難しくなってしまいそうだ。行くなら今のうち…かな」
サンディー:「………は?」
フレドリック:「いや、せっかくだから『お友達』になっておきたいだけだよ」
サンディー:「………」
ジュリアン:『【嫉妬に狂え】』
サンディー:「………」
フレドリック:「? どうかしたかい?」
サンディー:「ほんと、彼は凄い人気だね。あの群衆の中に入ってトクベツな『お友達』になるすべを、あなたは持っているの?」
フレドリック:「ハハハ。なかなか意地悪なことを言うね」
サンディー:「どうなんだい?」
フレドリック:「…まぁ、どれだけの効果があるかはわからないけれど、今の僕は子供が興味を持ちそうなオカルト話を持っているから。試しにそれで釣り上げてみようかと思っている」
サンディー:「(ため息)……。それは素敵なアイディアだね」
フレドリック:「呆れた顔をしないでおくれよ。その話には、キミも登場するんだからね。しかも美しいプリンセスとして」
サンディー:「はぁ?」
フレドリック:「そういえばキミにはまだ話していなかったけれど、プールの底にキミの顔が現れた後にね、僕はジュリアンに会ったんだよ」
サンディー:「………………は?」
○回想・旧校舎プール(夜)
フレドリック:「……あぁ、なんて美しいんだ…。これまではどうしても僕のジュリアンと比べてしまって、彼が学園でちやほやされていてもさほど興味を引かれなかったけれど……こうして見ればなるほど納得だ。いま一番美しいのは確かにこの子だ…!」
ジュリアン:『フレディ………』
フレドリック:「……? 今何か聴こえたような…」
ジュリアン:『なぜ……? なぜなんだ、フレディ? 君は言ってくれたじゃないか。僕が一番だって、何があっても、永久に変わらないって……!』
フレドリック:「………?」
ジュリアン:『………』
フレドリック:「ジュリアン?」
ジュリアン:『……!?』
フレドリック:「ジュリアンなのか…?」
ジュリアン:『……聴こえるの? 僕の声が……』
フレドリック:「……!! ジュリアン!! 声だけじゃない、いま、はっきりと見えている…! あぁ、なんてことだ! この愛しい姿を、一瞬だって忘れたことはない!」
ジュリアン:『見えている…? 本当に!?』
フレドリック:「本当だとも! ほら、こうして会話もできている! 僕は幽霊の類いは信じるほうではないけれど、キミを見間違うはずがない! たった一人の愛しい恋人を!!」
ジュリアン:『でも……君は今、他の男を……』
フレドリック:「あれは、少しばかり顔を褒めただけさ! 僕にはいつだってキミしかいない! やっぱりこうして見比べれば、キミの方が美しい…。愛しのジュリアン、僕の恋人は、永久にキミだけだ!」
ジュリアン:『………』
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