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幼少編

5歳になりました

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 オッス。おらライト=ローウィンベルト。今年5歳になる男だ。
 魔力強化なしで歩くのはもちろん、走ったり跳んだり、更には物に登る事が出来るようになった。もちろん話せるし読み書きだって出来る。
 今の俺は自由だ。赤子とは比べようもない程に。
 おかげで今は魔法の訓練も剣の鍛錬も自由。こっそり人目を忍んでは頑張っていた。

 そして現在、俺は父さんのお許しが出来て外に歩くことが出来るようになった。……父さん同伴で。

「どうだライト。お前の兄さんが将来継ぐことになる領地だ。初めて見ると思うが、いいところだろ?」

 俺を後ろで支えなが馬を操っている父さんが俺に聞いてきた。
 ぱかり、ぱかりと。踏み固められた道の上を馬の歩く音が響く。

 道の側には、健康そうな色の麦畑が広がっていた。

「元気な麦です。今年は豊作ですか?」
「ああ、お前が生まれた翌年からだ。麦は健康よく育っている」

 父さんは嬉しそうに言った。

「……だが、これは災厄の予兆でもある。あまり喜べるものではない……」
「?」
「いや、なんでもない。お前には関係のない話だ」

 父さんは作り笑顔をするも、そこには何処か影があった。
 いや、関係ありますやん。俺この土地の人間なんですよ? 5歳児だけどやばそうってのは分かってるんだからね? だから話してよ。気になるじゃん。

「しかしもう30年か……。この国に来て随分経ったな……」

 父さんは突然空を見上げながらそんなことを言った。
 おい、話逸らすんじゃねえよ。


 わが父、ヤマト=ロウェンベルトは王国に仕える貴族である。

 かつては日の丸という島国の剣士であったが、漂流してこの国に来てしまったらしい。
 そして戦争で武勇を立て、貴族の仲間入りを果たし、伯爵家の母さんと結婚して今に当たる。

 ……うん、すごく濃い人生だ。大分端折ってるが、大きくなったらもっと詳しく聞いてみたいものだ。


「我がロウェインベルト領内は、実はその領域の広さで言えば伯爵領地に匹敵するほど広い」
「ふーん。じゃあ、少しでも開発すれば父上は……」
「もし全てを開発できたらそう……そうだな。辺境伯は堅いだろう」

 ただ父さんの口調は鈍く、もし開発できたらという事らしい。


 我が新しい故郷、ロウェンベルト領内は、一応南部に海が面している。面しているのだが、海に通じる道には広大な未開地と森が邪魔していた。

 内外の人間から『妖魔の森』と呼ばれるこの森には、様々な食料や薬草、更に鉱物や宝石などを産出する場所もあり、開発できれば莫大な富をもたらすものであった。……開発出来るのであれば。

 この森は邪魔ものであると同時に魔物の宝庫でもあり、内部には魔物が幾多も生息している。


 魔物とは魔の力を持つ動植物のことである。
 普通の動植物が何らかの理由で強力な魔力を取り込むことによって、自然の生態系から逸脱。独自に進化して魔物となる。

 彼らは通常の生物より強い。最弱の存在でも、普通の人間では歯が立たない程だ。
 その代わり、それらを倒すことで相応のリターンが得られる。
 毛皮や牙などは高価な素材となり、肉なども大変美味で高級らしい。

 だからこそ、彼らの討伐や狩猟を専門とする冒険者達が存在する。
 彼らを支援、そして管理する冒険者ギルドも存在しており、それらは全国に支部があるらしい。……このロウェンベルト領にはないのだが。

「確かに妖魔の森は強い冒険者にとっては利益が大きいのかもしれない。しかし、わざわざ辺境地に来るほどではないのだ」

 この大陸には、このような魔物の住まう領域というのが大小何千箇所も存在しているらしい。
 それは、荒野だったり、平原だったり、川や湖沼だったり、うちのように森だったりと。中には廃墟に住む猛者もいるそうだ。
 そして、魔物が住む場所は魔境となる。


 魔境という魔力と瘴気に満たされた土地は魔物のテリトリーとなり、そこに侵入する人間や他の動物達を見つけると排除してしまう。
 故に、冒険者は単独や少人数でこっそりと魔物の領域に侵入し、その力量に合わせて小数の魔物を狩って来るらしい。
 勿論失敗して命を落す者も多いが、危険な分リターンも大きいので、一代で財を成し、有名になって王宮や貴族に仕える者も多いとのこと。

「それに魔物は領地から出ることはない」

 そう、彼らはなぜか自分達のテリトリーからは一歩も出て来ないのだ。だが逆に侵入した冒険者や軍勢には容赦をしない。故に刺激することはいらぬ災いをもたらすのだ。
 一攫千金を求めて魔物の領域へと侵入する人間と、それを排除しようとする魔物達との死闘。
 よって、いくら多くの人が冒険者となっても、その分消耗もするので、この大陸には未だ中央部にも手付かずの魔物の住まう領域が多数存在している。

 当然、魔境の開発など不可能。なので何処の国も魔境の扱いは悩みの種となっているのだ。

 そんな土地の管理が父さんの仕事。優秀な貴族が担当するのだ。
 父さんは武と知を兼ね備えた貴族だそうで、この土地ヘリオスを任されたのだ。

 ヘリオス。わが父が管理する土地の名であり、魔境を除くロウェンベルト領の名である。
 ヘリオスにはいくつもの町や村、集落などがあるのだが、それぞれの場所に父さんの代わりとして村長や町長が管理している。
 そしてここはヘリオスの土地の一つ、ポス村である。

「あ、ヤマト様! おはようございます!」
「む、今日も精が出るな」
「ええ、大将のおかげです!」

 なかなか活気のある場所だ。さっきは暗い話をしていたが、ここは無縁そうだ。
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