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赤ちゃん編

お父さん強すぎィ!

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「………」

 今日もまたベッドの上で魔力操作をする。目を閉じて力を流し、身体を活性化させた。
 今度はただ力を流すだけじゃなく一点に集中させる。すると廊下から足音が聞こえてきた。
 母さんか? いや、足音が複数聞こえる。ということはステラ姉さんと一緒なのか?

 しかし、俺の考えは外れた。どの声も母さんとステラ姉さんのものではなかった。

「お前たちの弟なんだから少しは構ってやれ」
「……はい」
「えー」

 父さんの声だ。それに男の子と女の子の声。恐らくステイン兄さんとアウラ姉さんだろう。

 俺と遊ぶのが面倒なのか、自分の時間を奪われるのが嫌なのか。二人ともえらく不満そうだ。
 兄さん達は気まぐれなステラ姉さんと違い、俺の部屋には数えるくらいしか訪れていない。

 まあその気持ちはわかる。
 赤子はすぐ泣く。少し刺激するだけで泣くから面倒なんだよな。俺も弟の面倒を押し付けられて大変な目にあった。


 ゆっくりとドアが開き三人が部屋に入ってくる。

「ライトは起きているな」

 父さんが一番に入り、兄さんと姉さんが窺うようにして入ってくる。

 父さんの血を色濃く継いだ、一番上のステイン兄さん。
 短く揃え、逆立った黒い髪。動きやすそうなゆったりとした服装だ。

 もう一人の面倒くさそうな態度を見せる女の子。ステラ姉さんだ。
 双子なのだろうか、髪の毛に青色のグランデーションがあるのを除けばステラ姉さんと同じ髪の色と顔立ちをしていた
 こちらは白のカッターシャツに水色のロングスカート。ぶっちゃけステラ姉さんのと色違いだ。

「泣いたりしないよね?」
「分からない」

 アウラ姉さんが情けない声を上げ、兄さんが素っ気なく答える。

「どうした?遊ばないのかお前たち?」
「いや、俺はちょっと……」
「私も赤ちゃんに触ったことないし……」

 二人は気まずそうに視線を逸らす。

「誰だって最初はあるんだ。そんなに気構えるな」
「そういう父さんも初めてじゃないか?」
「あ、そうだったね。お母さんに止められてたじゃん」

 え?それってどういうこと?

「あれは母さんが心配性なだけだ。こんなのなんてことないのに」
「だってお父さん力任せに何でもやるじゃん」
「父さんがやるとライト握りつぶしそう」
「何言ってるんだ!? お前たちを抱き上げたことあるのにそんなことあるわけないだろ!」

 父さんはそう言って手を伸ばし、ベビーベッドに座っている俺の脇の下から持ち上げる。ごつごつとした大きな手だ。
 ちょ、ちょっと父さん? なんか痛いんですけど? いやめっちゃ痛い! 持ち方はいいけど握力が強すぎる! 潰れる! 中身出ちゃう!

 だが焦ることはない。なにせ俺には強化魔法があるのだから。
 魔力を脇腹に集中させて強化すると同時に殻や鎧で覆うのをイメージする。すると脇腹の痛みがなくなった。
 よし成功だ。俺の脇腹は守られた!

「……ほう。昨日といい今日といい。どうやらライトには魔法の才能があるようだ」
「え?どういうこと?」
「いやなんでもない。それよりお前らも抱いてみたらどうだ?」

 どうやら父さんは俺の魔法に気づいたらしい。
 一瞬険しい表情になるも、すぐに父親の顔に戻って俺を兄と姉に渡した。

「あ、全然泣かない」
「本当だ。これぐらいの赤ちゃんって人見知り激しいからめっちゃ泣くと思ったんだけど……」
「だがこの子は大丈夫らしいな。お前らと違って肝が据わっているようだ」
「なんだよそれ!?」
「大変だったんだぞ。ステインを強く抱きすぎて母さんにどやされたことがあったからな」
「それ父さんが悪いと思う」
「全くよ。あなた強く抱きすぎてステインの肩が赤く腫れちゃったのよ。すぐに引いたけど」
「え!? それダメじゃん!」
「昔のことだ。今はもう……」

 父さんが後ろに振り向く。そこにはいつの間にか母さんがいた。

「フレイヤいつの間に!?」
「ついさっきよ。騒がしくて来てみれば、寄りにもよって貴方がこの子抱いてるのね」

 母さんは父さんから俺を取り上げ、ベッドに降ろした。

「あなた、ステイルの時もアウラの時もステラの時も力加減に失敗したのだからもうやめてって言ったでしょ?」
「いや……それは……。けどライトは……」
「私がライトの術を見抜けないとでも?」
「………ごめんなさい」

 父さんは母さんに頭を下げる。大柄な身体が小柄な母さんよりも小さく見えた。

「けどすごいわねこの子。もしかしたら大物になるかもしれないわ」

 俺の頭を撫でる母さん。……まさか母さんも気づいたのか?
 しかし確証はない。なので俺はバレないようにキャッキャと笑ってその場をごまかした。よし、どこから見ても普通の赤ん坊だ。

「ディッカ。ライトを見ていて。この人に任せると碌なことにならないからね」
「かしこまりました奥様」

 母さんの言葉に家政婦のディッカが恭しく頭を下げて返事をする。
 どうやらこの屋敷の真の主は母さんらしい。

 ディッカさんが入ってきて、それと入れ替わりで父さん達が部屋を出ていく。
 扉が閉まり、母さんと父さんの姿が見えなくなった。
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