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赤ちゃん編
絵本を聞きます
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「そしておじいさんは狼に殺されました。バッドエンドバッドエンド」
「あう~」
この世界に生まれてかどれぐらい経ったであろうか。今の俺は乳母によって本の読み聞かせを受けていた。
これでもう10冊目だろうか。どれもこれも酷い内容の絵本ばかりだ。なんかヘンゼルとグレーデルやシンデレラや人魚姫の残酷バージョン読んでる気分だ。
ねえみんな知ってる? シンデレラの王子様って死体愛好家で人魚姫では王子様殺されるんだよ。少なくとも俺の読んだ絵本ではそうだった。
けど昔はこうして幼少の頃から人の残忍性に触れることでたくましく生きようとしたのだろう。
昔は残酷だ。現代の日本のように易しくないし、決して生きるのが簡単ではない。一歩間違えれば死ぬこともザラであろう。
故にこうして戒めているのだ。他人を蹴落としてでも、どれほど悪意を向けられても生きられるように。
「坊ちゃん、人間というものは汚いのです。ですから決して信用しないでくださいね。それは私も例外ではありません。……もし隙を見せたら牙を剥きますよ」
「あぅぁぅぁ~」
だから決してこれは彼女の趣味ではない。なんか妙な感じするけど気のせいだ。
「‥…まったく、赤ん坊に何を教えてるんですかディッカさん」
扉を開けて一人の女性が入ってきた。俺の母さんである。
「その絵本はたしかあまりにも残酷すぎるから発売中止になったものですよ。なのに何故わざわざそれを選ぶのですか?」
「フレイヤ様、人間というものは子供の頃から闇に触れることで耐性をつけるものなのです。この世界は決して夢や希望に溢れた良いものなどではない。それを知らずにずっと与野のかの善性のみを信じると将来痛い目に遭います」
「一理ありますがあまり闇を覗きすぎますと貴方のようにひねくれた人間になります。それにまだライトが赤ん坊。あまり闇に近づきすぎますと闇に染まってしまいます」
………どうやら話の内容から察するに、さっきの話は彼女の趣味だったらしい。
まあいいんだけどね。俺はもう精神年齢侍従台後半なんだし。これぐらいなら聞きなれてるし。
それに難しい内容のほうが言葉多いから勉強になるし。
「さ、じゃあ今度はお母さんと一緒にお勉強しましょいねー」
「フレイヤ様、貴方の本は難しすぎて勉強になりません」
「分かってるわ。だからこの絵本にするわよ」
「あぅ」
俺は見せられた絵本を叩き落とした。
その絵本は飽きてるんだよ。もう言葉も大体覚えたし。というか内容的につまらない。
「あら、お坊ちゃんは私の絵本が好きなようです」
「あぁ~!」
俺はディッカから渡された絵本を叩き落とした。
その内容ももう何度も聞かされたから覚えてるんだよ! もう十回目だぞ! そんな残酷なだけでつまらないモンを何度も言い聞かせるんじゃねえ!
「あらあら、どうやらディッカの話はもう嫌いになっちゃったようね」
「フレイヤ様のお話も嫌いのようですよ?」」
「「……」」
二人は困ったような顔をして黙ってしまった。
なんだよ二人とも。俺の好きな話はもう知ってるはずだろ。俺がこの世界にずっと夢見て、ずっと憧れているあの話を。この世界で俺にとってのバイブルを。
「……分かったわこれが良いのね」
母さんは一冊の絵本を出した。
それは絵本にしてはぶ厚かった。ドラゴンに乗っている騎士が描かれている本。これこそ俺がこの世界で出会ったバイブルだ。
「黄金の竜騎士。こんなお話のどこがいいのかしら」
「私も全く理解出来ません。こんな如何にも夢と希望の青臭い本の何処がいいのか」
うるせえ! 本当にそんなこと思っても言うもんじゃねえよ! アンチするのはその人の勝手だけど、それを好きな人の前で言うんじゃねえ!!
「それじゃあ読むわよ。」
それから一時間、俺は母さんがクタクタになるまで竜騎士の話を聞いた。
ああ、何度聞いても素晴らしい。これを聞く度に俺はドラゴンナイトになる決意が膨らんでいく。
俺は絶対にドラゴンナイトになる。そのためにもっと勉強してもっと鍛えないとな!
「あう~」
この世界に生まれてかどれぐらい経ったであろうか。今の俺は乳母によって本の読み聞かせを受けていた。
これでもう10冊目だろうか。どれもこれも酷い内容の絵本ばかりだ。なんかヘンゼルとグレーデルやシンデレラや人魚姫の残酷バージョン読んでる気分だ。
ねえみんな知ってる? シンデレラの王子様って死体愛好家で人魚姫では王子様殺されるんだよ。少なくとも俺の読んだ絵本ではそうだった。
けど昔はこうして幼少の頃から人の残忍性に触れることでたくましく生きようとしたのだろう。
昔は残酷だ。現代の日本のように易しくないし、決して生きるのが簡単ではない。一歩間違えれば死ぬこともザラであろう。
故にこうして戒めているのだ。他人を蹴落としてでも、どれほど悪意を向けられても生きられるように。
「坊ちゃん、人間というものは汚いのです。ですから決して信用しないでくださいね。それは私も例外ではありません。……もし隙を見せたら牙を剥きますよ」
「あぅぁぅぁ~」
だから決してこれは彼女の趣味ではない。なんか妙な感じするけど気のせいだ。
「‥…まったく、赤ん坊に何を教えてるんですかディッカさん」
扉を開けて一人の女性が入ってきた。俺の母さんである。
「その絵本はたしかあまりにも残酷すぎるから発売中止になったものですよ。なのに何故わざわざそれを選ぶのですか?」
「フレイヤ様、人間というものは子供の頃から闇に触れることで耐性をつけるものなのです。この世界は決して夢や希望に溢れた良いものなどではない。それを知らずにずっと与野のかの善性のみを信じると将来痛い目に遭います」
「一理ありますがあまり闇を覗きすぎますと貴方のようにひねくれた人間になります。それにまだライトが赤ん坊。あまり闇に近づきすぎますと闇に染まってしまいます」
………どうやら話の内容から察するに、さっきの話は彼女の趣味だったらしい。
まあいいんだけどね。俺はもう精神年齢侍従台後半なんだし。これぐらいなら聞きなれてるし。
それに難しい内容のほうが言葉多いから勉強になるし。
「さ、じゃあ今度はお母さんと一緒にお勉強しましょいねー」
「フレイヤ様、貴方の本は難しすぎて勉強になりません」
「分かってるわ。だからこの絵本にするわよ」
「あぅ」
俺は見せられた絵本を叩き落とした。
その絵本は飽きてるんだよ。もう言葉も大体覚えたし。というか内容的につまらない。
「あら、お坊ちゃんは私の絵本が好きなようです」
「あぁ~!」
俺はディッカから渡された絵本を叩き落とした。
その内容ももう何度も聞かされたから覚えてるんだよ! もう十回目だぞ! そんな残酷なだけでつまらないモンを何度も言い聞かせるんじゃねえ!
「あらあら、どうやらディッカの話はもう嫌いになっちゃったようね」
「フレイヤ様のお話も嫌いのようですよ?」」
「「……」」
二人は困ったような顔をして黙ってしまった。
なんだよ二人とも。俺の好きな話はもう知ってるはずだろ。俺がこの世界にずっと夢見て、ずっと憧れているあの話を。この世界で俺にとってのバイブルを。
「……分かったわこれが良いのね」
母さんは一冊の絵本を出した。
それは絵本にしてはぶ厚かった。ドラゴンに乗っている騎士が描かれている本。これこそ俺がこの世界で出会ったバイブルだ。
「黄金の竜騎士。こんなお話のどこがいいのかしら」
「私も全く理解出来ません。こんな如何にも夢と希望の青臭い本の何処がいいのか」
うるせえ! 本当にそんなこと思っても言うもんじゃねえよ! アンチするのはその人の勝手だけど、それを好きな人の前で言うんじゃねえ!!
「それじゃあ読むわよ。」
それから一時間、俺は母さんがクタクタになるまで竜騎士の話を聞いた。
ああ、何度聞いても素晴らしい。これを聞く度に俺はドラゴンナイトになる決意が膨らんでいく。
俺は絶対にドラゴンナイトになる。そのためにもっと勉強してもっと鍛えないとな!
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