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エルフの里編
第7話
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エルフの里にある長の住居。家主は朝早く起きて茶を啜っていた。
日が昇る前に起きて茶を沸かし、夜明けと共に茶を飲む。それが里長の日課である。
自分以外誰もいない家。彼女は静寂の中黙って茶を沸かした。
エルフらしい美しい顔にスラリとした身体。手足は長く背も高いが胸も尻も余分な脂肪はついていない。
乳房など授乳という役目を果たせは十分であり、尻の肉など一体何の役に立つのか。大きくても邪魔にしかならない。
それがエルフの価値観。その価値観から見れば彼女こそが絶世の美女であった。
湯が沸いたのをやかんから蒸気が漏れる甲高い音が知らせる。それを聴いて彼女は熱魔法のスイッチを切り、茶葉の詰まったポットにお湯を入れようとした。
こうして彼女の一日が始まる……。
「長大変です!人間が…人間の兵士が里の近くを調査してました」
「なんじゃと!?」
その時だった、突然彼女の日常の始まりに邪魔が入ったのは。
「どこじゃ!?そいつらはどこで見た!?」
「里のすぐ近くの森です! 勇者さまが駆けつけて助かりましたけど、あいつらめっちゃ強そうでした!」
「……あ~、あの勇者か」
その知らせを聴いて里長は少し微妙そうな顔をした。
勇者召喚とは美しい少女を捧げることで異界の勇者を召喚するシステムである。
捧げる少女の質が高ければ高いほど優秀な勇者を召喚することが出来るのだが、好き好んで娼婦になろうとする者などこの里にいるはずがない。そこで身寄りのないエルニャルーニャを生贄にすることにした。
彼女は村八分にされており、その日の暮らしもままならない状態だった。故に彼女を援助する代わりに勇者の生贄にした。
生贄といっても別に殺されるわけではない。勇者に奉仕するのが彼女たちの役目であり、よく言えば使用人、悪く言えば奴隷なのだ。
彼女はそれを承諾した。断る選択肢など最初からないのだが、彼女はあっさりとそれを認めた。
しかし誰も彼女の召喚した勇者が役立つとは思わなかった。
誰も嫌がったので仕方なく彼女を指名しただけで、彼女でなくてはならない理由など存在しないのだ。
むしろあんな醜い肉の塊をひっつけている醜女ではちゃんとした勇者など召喚出来るのか? 忌々しい敵国の勇者に犯された女の産んだ汚らわしい娘なんかで大丈夫なのだろうか? それが里の者たちの認識だった。
「(まあ、死んだらまた別の手を考えるか)」
別に勇者が死んだところで痛手などない。所詮はよそ者、しかもその生贄はあの汚れた娘だ。問題はない。
「お……長!あれ見てください!」
「ん?なんじゃ……!!?」
外を出ると、そこは焼け野原だった。
森を覆っていた木々は灰となり、巨大な岩は熱によってジュグジュグと音を立てている。結界こそ無事ではあるが、里を隠している森にぽっかりと穴が開いてしまった。
なんだこの有様は。まるで嵐でも過ぎ去ったようではないか。一体どんな戦闘を行えばこうなる?
魔法で周囲に生物がいないか遠視する。すると人間と同胞を発見できた。
おそらく例の勇者だろう。人間の兵士三人の気配を感じないのはおそらく既に勇者が始末したから。なので今は勇者と戦闘を行っているといった所だろうか。
いや、それは戦闘といっていいものかは疑問であった。人間の勇者は瀕死状態であるのに、同胞の勇者は退屈そうにしている。まるで折角もらった玩具が予想外に質が悪かった。そんながっかりした顔だった。
ダークエルフが気だるそうに指を人間に指す。どうやらトドメを刺す気だ。
「ライヤ」
瞬間、閃光が世界を包んだ。
たった三文字の呪文。察するに発動された魔法は下級魔法であろう。しかしその一撃は個人を相手に向けるにはあまりにも大きすぎた。
その一撃は勇者を飲み込み、一瞬で消し炭に変えた。鎧の防御を突破し、魔力耐性もある勇者の身体を蹂躙。その余波によって岩や木々さえも灰燼と化した。
「ら…‥雷神?」
神の雷。一言で纏めるならそれが勇者に関する感想だった。
なんだあのデタラメな威力は。あんな下級魔術でこれほどの威力をあの同胞の勇者は出すというのか。あれでは里の魔術師の最大呪文をも超えるではないか。
ならば中級はどうだ? 上級は? もしかして最上級の技だけじゃなく固有の奥義も使えるのではないのか?
「ふ……ふふふ………ふはは……‥フアハハハハハハハ!!!」
「ど……どうしちゃったんですか里長!?」
突如笑いだした里長に恐怖を感じながらも心配を示す子供。しかしそれに気をかける余裕など今の彼女にはなかった。
なんということだ! せいぜい使い捨ての勇者が出ればそれで満足だったが、よりによってあんな化物を召喚するとは!
僥倖。いや、そんなレベルではない。これは天からの贈り物だ。
「会議だ。あの落し子は最高の勇者を呼んでくれた。うまくいけば他の勇者全員はあいつ一人でやれるかもしれん」
日が昇る前に起きて茶を沸かし、夜明けと共に茶を飲む。それが里長の日課である。
自分以外誰もいない家。彼女は静寂の中黙って茶を沸かした。
エルフらしい美しい顔にスラリとした身体。手足は長く背も高いが胸も尻も余分な脂肪はついていない。
乳房など授乳という役目を果たせは十分であり、尻の肉など一体何の役に立つのか。大きくても邪魔にしかならない。
それがエルフの価値観。その価値観から見れば彼女こそが絶世の美女であった。
湯が沸いたのをやかんから蒸気が漏れる甲高い音が知らせる。それを聴いて彼女は熱魔法のスイッチを切り、茶葉の詰まったポットにお湯を入れようとした。
こうして彼女の一日が始まる……。
「長大変です!人間が…人間の兵士が里の近くを調査してました」
「なんじゃと!?」
その時だった、突然彼女の日常の始まりに邪魔が入ったのは。
「どこじゃ!?そいつらはどこで見た!?」
「里のすぐ近くの森です! 勇者さまが駆けつけて助かりましたけど、あいつらめっちゃ強そうでした!」
「……あ~、あの勇者か」
その知らせを聴いて里長は少し微妙そうな顔をした。
勇者召喚とは美しい少女を捧げることで異界の勇者を召喚するシステムである。
捧げる少女の質が高ければ高いほど優秀な勇者を召喚することが出来るのだが、好き好んで娼婦になろうとする者などこの里にいるはずがない。そこで身寄りのないエルニャルーニャを生贄にすることにした。
彼女は村八分にされており、その日の暮らしもままならない状態だった。故に彼女を援助する代わりに勇者の生贄にした。
生贄といっても別に殺されるわけではない。勇者に奉仕するのが彼女たちの役目であり、よく言えば使用人、悪く言えば奴隷なのだ。
彼女はそれを承諾した。断る選択肢など最初からないのだが、彼女はあっさりとそれを認めた。
しかし誰も彼女の召喚した勇者が役立つとは思わなかった。
誰も嫌がったので仕方なく彼女を指名しただけで、彼女でなくてはならない理由など存在しないのだ。
むしろあんな醜い肉の塊をひっつけている醜女ではちゃんとした勇者など召喚出来るのか? 忌々しい敵国の勇者に犯された女の産んだ汚らわしい娘なんかで大丈夫なのだろうか? それが里の者たちの認識だった。
「(まあ、死んだらまた別の手を考えるか)」
別に勇者が死んだところで痛手などない。所詮はよそ者、しかもその生贄はあの汚れた娘だ。問題はない。
「お……長!あれ見てください!」
「ん?なんじゃ……!!?」
外を出ると、そこは焼け野原だった。
森を覆っていた木々は灰となり、巨大な岩は熱によってジュグジュグと音を立てている。結界こそ無事ではあるが、里を隠している森にぽっかりと穴が開いてしまった。
なんだこの有様は。まるで嵐でも過ぎ去ったようではないか。一体どんな戦闘を行えばこうなる?
魔法で周囲に生物がいないか遠視する。すると人間と同胞を発見できた。
おそらく例の勇者だろう。人間の兵士三人の気配を感じないのはおそらく既に勇者が始末したから。なので今は勇者と戦闘を行っているといった所だろうか。
いや、それは戦闘といっていいものかは疑問であった。人間の勇者は瀕死状態であるのに、同胞の勇者は退屈そうにしている。まるで折角もらった玩具が予想外に質が悪かった。そんながっかりした顔だった。
ダークエルフが気だるそうに指を人間に指す。どうやらトドメを刺す気だ。
「ライヤ」
瞬間、閃光が世界を包んだ。
たった三文字の呪文。察するに発動された魔法は下級魔法であろう。しかしその一撃は個人を相手に向けるにはあまりにも大きすぎた。
その一撃は勇者を飲み込み、一瞬で消し炭に変えた。鎧の防御を突破し、魔力耐性もある勇者の身体を蹂躙。その余波によって岩や木々さえも灰燼と化した。
「ら…‥雷神?」
神の雷。一言で纏めるならそれが勇者に関する感想だった。
なんだあのデタラメな威力は。あんな下級魔術でこれほどの威力をあの同胞の勇者は出すというのか。あれでは里の魔術師の最大呪文をも超えるではないか。
ならば中級はどうだ? 上級は? もしかして最上級の技だけじゃなく固有の奥義も使えるのではないのか?
「ふ……ふふふ………ふはは……‥フアハハハハハハハ!!!」
「ど……どうしちゃったんですか里長!?」
突如笑いだした里長に恐怖を感じながらも心配を示す子供。しかしそれに気をかける余裕など今の彼女にはなかった。
なんということだ! せいぜい使い捨ての勇者が出ればそれで満足だったが、よりによってあんな化物を召喚するとは!
僥倖。いや、そんなレベルではない。これは天からの贈り物だ。
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