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第2話

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「なかなかいい森じゃねえか。植物も動物も生き生きしてやがる」

 オッス、オレ平等院真一。オリ主として転生して早十数年、やっと原作に介入することが出来ました。
 最初はよくわからん連中に拉致られて実験なんてされたが、今は脱走して自由を謳歌している。……ちゃんと復讐も果たしたしな。

 そんな平等院真一君は今、森の中を歩いています。

 青々と緑が生い茂る森の中。日光が葉の隙間から草々を照らしている。
 久々に森の中なんて入ったせいか、空気が妙に上手く感じる。清楚な空気が森一帯に蔓延していた。
 土の匂いも悪くない。肥沃な大地の栄養を享受して植物たちが健康的に育っている。
 とまあ、なかなか良い森だ。出来るなら狩りをしながらハイキングとかしてえんだが、今はそんな暇はねえんだ。

「ったくよお。なんで俺らがこんな森ん中歩かなきゃいけねえんだ。ずっと歩きっぱなしじゃねえか」

 そう、俺たちは絶賛遭難中である。

「仕方ないだろ。貴様が自由勝手にほっつき歩いたせいだ」
「おいおい、俺のせいか?地図見てナビゲートしてたのはお前じゃねえか」

 すべての元凶は隣にいるバカだ。猟師である俺が森の中で迷うなんざありえねえのだが、こいつの方向音痴のせいで俺らは迷う羽目になった。
 隣のバカの名前は幸村一護。魔術学院のハーレムというラノベの主人公―――この世界の主人公だ。
 
 背は普通で華奢な体つき。顔は女のように綺麗なラノベの表紙ではどこにでもいるような典型的ラノベ主人公。しかしこの世界ではイケメンらしい。訳分かんねえ。
 原作ではさわやかで可愛いいイケメンでいい奴なんだが……。

「おい真一、お前の野生感覚でなんとかならんのか」

 なぜかこの世界ではクールニヒルな性格になっていた。解せぬ。

「無茶言うなよ。まず何処にいるのかもわかんねえのに方角もクソもあるか」
「チッ。役立たずが」
「……」

 見てくださいこの横柄な態度。原作では『そっか。なんか悪いな、俺のせいで』とか言って爽やかスマイルで謝るのに、この世界では都合が悪いとすぐ役立たず扱い。なんと勝手な原作主人公になってしまったのだろうか。

「貴様が猫なんて追っかけているからこんなことになったんだぞ!少しは反省しろ!!」
「うっせえ! お前だって西と北間違えて俺を引っ張り回したくせに偉そうに言うんじゃねえ!!」
「ならば貴様が最初からナビゲートしていればよかったではないか!何をいまさら偉そうに意見する!?」
「お前が俺の後ろ歩きたくねえって言ったからだろうが!!テメエだよな、俺の指図受けたくねえって言ったの!!」
「当たり前だ!貴様のような下品で野蛮な盗賊野郎に前を進まれるまど到底我慢できるか!!」
「んだとこの暗殺者が!!テメエだって足洗う前はクソ汚ねえこと散々やってきたろうが!!」
「なんだ、やる気か盗賊が!!」
「上等だコラ!いい加減俺が猟師だって認めさせてやらあ!」

 上半身の服を脱ぎ捨てて戦闘態勢に入る。
 拳で決着をつける以上、服は邪魔だ。掴まれて倒されちまう。別に殺しゃしねえから仕込み武器もいらねえだろ。

「フン、貴様の得意な肉弾戦で決着をつけるというのか。……いいだろう、その案に乗ってやる」

 奴も武器を捨て、素手の構えを取る。
 この馬鹿は残忍非道な奴だが、筋や約束は守るタイプの人間だ。そういった面では信用出来る。……時々破ることもあるけど。
 
 俺はスタンダードにボクシング的な構え、奴は腰を低く落としてクラウチングスタートのような構え。
 同時に飛びかかろうとした瞬間……。



「にゃあ!」

 ……俺の頭に一匹の猫が飛びかかってきた。


「おっと。ったく、危ねえじゃねえか」

 猫をキャッチして降ろそうとする。
 剥げてる点や色褪せている箇所はなく、触り心地もサラサラ。艶のある良い毛並みだ。……赤のヒョウ柄というのはおかしいけど。

「にゃあにゃあ」
「おいおい、そんなに引っ付くなよ」

 猫を降ろそうとするが、爪を髪の毛に絡ませているせいで降ろすことが出来ない。
 ねえ一護、待ってくれるのはありがたいんだけど、手伝ってくれたらもっとありがたいな。切り株の上に座って待つよりも、手伝う方が効率的じゃない?

 猫を降ろすのに悪戦苦闘していると、何処からか女の声が聞こえた。

「……あん?なんか聞こえねえか?」
「何を言って……たしかに声が聞こえるな。女の声だ」

 方角からしてこちらに近づいて来ている。
 ちょうどいい、道を聞いて行くか。やれやれ、やっとこの迷宮から抜け出せるぜ。

「ちょっとグリム、なんで急にいな……く……」
「ちょうどよかった。お嬢さん、よかったら道……を……」

 お互いの姿を見た瞬間、俺たちは答えに詰まった。何故なら……。

「きゃ……きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 その女は全裸だったからだ。
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