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第一章 アッシー始めました

第十五話 

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 一晩、ダフス達に女神とのやり取りを説明しようか悩んだが、あまり考える時間を与えてしまうと勘繰られてしまうことを恐れ、一時的に保留とした。
 今は、朝食の片付けをして、盗賊を探して北上している。
 ギルドに戻ってから、イアニスにでも話すことにしよう。

「それにしても、俺達が寝ている間にオークジェネラルを仕留めるとは……」
「物音がしたなーと思ったら、アルカが倒してた」
「はぁ……アルカ、お前は一体何者なんだよ……」
「んふ!」

 アルカも大分打ち解けてきたらしい。ダフスに対してドヤ顔をする余裕すらある。

「あははっ、さすがアルカだ!」
「幼女強い……」
「アルカちゃんはアルカちゃんですよ!」

 フフンッと無い胸を張っていたが、やはり褒められ続ける事には慣れていないようで、アルカアルカと連呼され照れてしまい、照れ隠しに魔法陣作成に移った。

 そんな照れ屋さんは、火と水の魔法陣もそこそこ描けるようになったので、今は土魔法の陣を描いているようだ。陣は良いとして……未だインベントリの使い方は上達しない。何故なら、インベントリの中に次々と放り込んでいる魔法陣の名前が、全て“じーん”だからだ。そもそも名前が間違っているし、これでは何の属性かすら分からない……。

 生前――魔法研究時代は、命名規則を設けたりしてインベントリ内の整理整頓を行っていた。研究仲間も居たし、全員に使わせていたのもあり、名前を見て何なのか分からない物がインベントリに入っていると、何かモヤモヤする。
 しかし、本人がそれで良いと言っているので、何も手を付けずにいる。

「なぁ、アルカ。やっぱり陣の名前、ちゃんとしないか?」
「いい」
「でもさぁ……」
「りゅーとのじゃない! あるかの!」
「お前が分かるならいいけど、あれじゃ分からないだろう?」
「んっ!」

 頭を叩かれた。
 はぁ……いざという時に出せなかったら命に関わるし、今度こっそり変更しておいて、甘い物で許しを得つつ謝るか……。
 それに、アルカから不要だと言われたのであれば、我慢せざるを得ない。現状の俺は、アルカの足以外にはただの調味料担当だし。何だこれ……考えたらおかしいよな。

 まぁ良い……とりあえず今は、居るはずのない盗賊を探して森を進もう。

 ▽△▽△▽△

 当然、そのまま何も痕跡を見つける事が出来ず、日が落ちる。

「ゴブリンかコボルトしか居ねぇな。もう拠点を移しちまったのか?」
「リュート、どうかしら? ここら辺に見覚えはない?」
「うーん、ないな。目隠しされてたから見ていないってのもあるし」
「そうか……」
「明日の夕方には街の近くまで着く。とりあえずはそこまで捜索してみよう」
「分かった」

 本日の捜索はここまでらしい。
 居るはずは無いんだよな……嘘だし。でも、依頼が出る程までの大事になっているし、今更嘘でしたとは言えない。ここは嘘を押し通すしかないか……。すまない、皆。
 心の中で皆に謝りつつ、野営の準備に取り掛かる。

――ザザッ……

 晩飯を作る為火の調整を行っていると、木々が揺れている事に気が付く。
 風で木々の一ヶ所だけが揺れるというのは不自然だ。もし動物なら、晩飯の足しになるかもしれない。仕留めておくか。

「アルカ、この方向に向かってハンマーを撃て」
「ん? ……んっ!」

 小声でアルカに指示を行い、揺れていた木の上に向けて魔法を放ってもらう。

――ッパァン!

「ぐあぁっ!?」

 俺の指示した角度とアルカの魔法が着弾した位置が違ったらしい。見えない物に対して指示を行うっていうのは、やっぱり難しいものがあるな。
 それよりも、どうやら動物ではなく人だったらしい。砕けた枝から人が落ちて来た。

「まじか……」
「うおっ、何だそいつ」
「木の上に居たから動物かと思ったんだけど、人間だった」
「確認せずに即魔術発動って……さすがだな」
「晩飯の足しになればと思ってな……」

 カールと呑気に話していると、ダフスが駆け出し、落ちてきた人を縄で縛り始めた。

「まぁ、木の上で覗いていたって時点で撃ち落とされても文句は言えないさ」
「そういうもんか」
「あぁ、そういうもんだ。それに見た感じ冒険者じゃねぇし。盗賊だろうな」
「えっ」
「森の中で、武器を持っていて冒険者じゃないとなれば、悪い奴に決まってる」
「そ、そうか……」
「そうだ」

 縛った奴をダフスが尋問している姿を、調理しながら遠目に眺める。

「ふぅ……アルカ良く分かったな。アイツは盗賊の斥候担当だったぜ?」
「えっ」
「ん?」
「盗賊まじか……」
「あぁ。ここから少し東に行ったところにあるらしい。人数は十人程度」
「いく、のか?」
「そりゃもちろんさ。何言ってんだよ。それが目的だろう? それに、盗賊は生死不問。捕えれば金にもなるし、拠点のお宝は全て頂いて良い事になっているからな。それに、お前さん達だって恨みがあるだろう?」
「えっ、まぁ、うん……そ、そうだな」

 野営の準備を行っていたが、一旦中止。斥候が戻って来ないとなれば、逃げだす可能性があるため、即攻撃に移った方が良いらしい。
 それにしても、まじか……本当に居たのか……。

 捕えた盗賊は、カールに任せ、メナスが先行してアジトの偵察に向かった。

 暫くして、戻ったメナスから状況の報告を受け、捕まえた斥候が言っていた事は本当だったという確認の後、その斥候を木に縛り付け、盗賊のアジトへと向かう。

 アジトでは、何人か捕えられているサハルナの住人が居るらしい。
 そこで、炎風の盾が正面から盗賊たちの相手をし、俺とアルカがアジトの小屋に奇襲を掛け、捕えられている人を救出するという作戦で、行動を開始した。

「アルカー?」
「ん?」
「人を殺した事って、ある?」
「ない。みたことある」
「何回くらい?」
「……いっぱい」
「そっか。今回は出来るだけ殺さないように、弱い魔法で倒そう」
「わかった」

 やはり、前の主人は禄でもない奴なんだな……。こんな小さな子の前で、人殺しなんかしやがってよ……まぁ、賊の時点でモンスターと同類だから、俺だって何度も殺したし、アルカの前の主人が賞金稼ぎとして、盗賊狩りなんかを生業にしていた可能性もあるから深くは聞かないでおこう。

――て、敵だぁ! 冒険者が来たぞ!

 どうやら始まったようだ。ダフス達が居る方で盗賊の叫び声が聞こえる。

「よし、いくぞ!」
「ん!」

 小屋の窓を割り、アルカに指示をして中に居る盗賊へ魔法を叩き付ける。

「誰だっ!」
「あれと、あれ。あいつも!」
「ん。えあはんまー、えあーはんまー、えあはんま」

――ドゴッ、ダァンッ、ズドッ!

 中の三人を壁に叩き付けて気絶させた後、小屋の横手から表に回る。

「貴様ぁぁっ!」
「アルカ!」
「ん! えあーはんま!」

――ズダンッ!

 小屋入口に居た盗賊を吹き飛ばし、小屋へと入ると、奥の部屋に全裸で縛られた男女が居り、他には気配が無かったので、ひとまずは気絶させた盗賊から武器防具を剥ぎ取り、縛られている二人を解放し、傍に合った布切れをそれぞれに掛けてあげる。

「安心してくれ。助けにきた」
「あ、ああ、ありがとう、ござい、ます」
「うっ、うぐっぅぅぅっ、た、助かった、助かったのね……うぅぅぅっ」
「今、外で仲間が戦っている。もうすぐ終わる。他に捕まっている人は居ないか?」
「うぅうぅっ、ぐすっ、ふぇえ、ひゃ、はぁ、い……」
「あ、ああっち、あっちの小屋に、人が連れ込まれているの、み、み見ました」
「あの小屋か?」
「は、はい」

 小屋の中に居る盗賊を縛り、暫くすると、メナスが小屋の中に入ってきた。

「こっちは大丈夫? 今ダフスとカールが後片付けしてるわ。それで、この二人が?」
「あぁ、捕えられていた二人らしい。女の子が居るし、お願いして良いか?」
「えぇ、分かったわ」
「了解。後は任せた」

 捕えられていた二人は一旦メナスに任せて、もう一つの小屋へ移動する。
 窓から中を覗く限りは無人。念の為、覗いていた窓を割って反応があるか確認するが、誰も居ないようだ。
 アルカにはいつでも魔法を放てる準備をしてもらいつつ、ドアから中に入る。

「誰も居な……くはないようだな」
「ん?」

 ベッドの床下に隙間があったので、ベッドを動かし床を捲る。すると、人ひとりが通れそうな階段が現れた。どうやら地下室らしい。ありがちだな。
 ダフス達には、俺とアルカがこの建物に入っていく姿を見られているし、あちらの処理が終わったら。ここに来てくれるだろう。それまでに調べられるだけ調べておこう。

 アルカにはまだ光魔法等の光源になるような魔法は教えていないので、簡易松明を作成するため、インベントリから回収しておいた薪や葉を蔓で束にし、アルカに火を点けてもらう。

「街に帰ったらランプとか買っておかないとな」
「ん」

 頭の中の欲しい物リストにランプを追加し、松明を持って階段を下ると、そこは大きな一つの部屋になっており、いくつか人影が見えた。どうやら猿ぐつわをされ、手足を縛られているらしい。

「助けにきた! もう盗賊は全て捕えたから安心してくれ!」
「「「「んーっ! んーっ!」」」」
「「「んぅ!」」」

 松明を掲げ部屋内を見渡すと、男が一人、女が七人居た。何だ、このハーレム……。
 まずは、八人の中で一番好みの女の子を解放し、その手にナイフを持たせる。
 念の為、だ。他意は無い。

「ここに居る人で、安全だと思う人だけ拘束を解いてやってくれ」
「……」

 返事は無かったが、首肯していたので大丈夫だろう。
 女の子がナイフを使い、次々に拘束を解いている。それにしても、言っちゃ悪いが……この部屋臭いな。囚われていたんだし、仕方がないとはいえ……臭う。
 松明の明かりで薄っすらとしか見えないが、垂れ流しの子も多々……。

「アルカ。サンドウォールとストーンフォールの陣は覚えたか?」
「ん? んー、だいじょぶ」
「そうか。やっぱりアルカは凄いなー」
「んふ……」
「じゃあ、少し難しい魔法を教えてあげよう」
「ん、うん!」
「まず、サンドのここをストーンのこれに置き換えて――」
「ん、んぅ? うん……」

 アルカにサンドウォールとストーンフォールの合成魔法、ストーンウォールの魔法陣を教え、更には弱・中・強と三段階を描かせる。

 魔法陣を教えている間に全員の拘束が解けたらしく、女の子がナイフを持ってきた。

「おう、ありがとうな」
「……」

 女の子の頭を撫で、ナイフを受け取り、全員を見渡すと、男が話し掛けてきた。

「あ、あの……」
「うん? あぁ、俺の名前はリュート。この子はアルカだ。おっさんは?」
「私はデュトワースと申します。助けていただき、ありがとうございました」
「おっさん、この子達とどういう関係?」
「はい。私は王都の奴隷商で、この子達は奴隷です。王都からサハルナにこの子達を輸送しているところを襲われ、囚われてしまいまして……」
「そっか。まぁ、話は後にして、とりあえず上に行こう。俺の仲間が居る」
「は、はい!」

 助けてもらった礼に何をすれば良いか、という話になりそうだったので話を打ち切り、階段から上がるように促す。

 まさか本当に盗賊が居るとは思わなかったな……。奴隷達は商品になるから、恐らくはまだ手を付けられていないだろう。何はともあれ、嘘が真になっただけではなく、何事もなく解決して良かった。
 そんな適当な事を考え、ダフス達と合流した。
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