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第一章 アッシー始めました

第十三話 

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 翌朝、日の昇り始めた頃に目が覚めた。アルカはまだ寝ているようなので、そっと抜け出し、テントの外に出る。

「リュートさん、おはようございます」
「ん、あぁ、リュート。おはよーさん」
「おはよう。見張り番ご苦労様。朝食でも作るけど、朝から肉でも大丈夫か?」
「そ、そうですね。干し肉よりはマシかと……」
「お、作ってくれるの? 助かるわー」

 女性に朝からガッツリ肉料理はキツイかもしれないと思って尋ねてみるも、そこは流石冒険者。そういう事は、あまり気にしないらしい。
 前日入手した胡椒に猪肉、それと元からインベントリに入れておいた山菜や果物等で、簡単な肉炒めとスープといった朝食を作る。そこにメナスから人数分提供された黒パンを出して、朝食の完成だ。早々に召喚物が役に立ったな!

「旨そうな匂いがすると思ったら……これリュートが作った、んだよ、な?」
「うほぉ、街の外でこんな豪勢な飯、ひっさしぶりだ!」
「まぁ、私達がこんな料理作るわけないわよね……」
「リュートさん、アルカちゃん起こしてきましたよ」
「皆おはよう、アルカもおはよう」
「んぅ……おあよ……」

 朝から賑やかな食事はいつ以来だろうか……。こういうのも悪くない。
 木皿に盛り付け、皆でワイワイしながら朝食を摂る。

「そういえば、昨夜。東の方からオークが二匹現れたぞ」
「あ、私達も東から二匹来たわ」
「俺達は、北からゴブリンが四匹、東からオークが一匹だったかな」
「そうか。じゃあ、東で間違いなさそうだな。恐らく偵察か何かだったのだろう」
「だったら急いだ方が良さそうね」
「そうだな。まぁ、もう匂いでバレてるだろうがな」
「あ、そうか。すまない。料理しない方が良かったよな……」
「いやいや、美味かったよ。それに、向こうから来てくれるなら助かるしな」

 昨日の晩に続き、朝っぱらから盛大に旨そうな匂いをさせてしまったので、危険を呼び込んだかもしれないと謝るも、思っていたのとは違う返事がくる。

「え、討伐じゃなくて戦力調査じゃないのか?」
「あいつらが集落を作っているなら、当然集落を守る。だから一気にこちらへ攻めて来ることはないだろう? だったら昨日の晩みたいに、各個撃破出来れば楽だし、金にもなるじゃないか。もちろん調査はするけどな」
「なるほどな。じゃあ、飯も食ったし、今日は東の方へ進むって事で良いのか?」
「あぁ、そうしよう。さて、皆さっそく準備して出発だ」
「「「おう」」」
「了解」
「んぅ?」

 若干一名会話に取り残されているが、食事に一生懸命だから仕方がないだろう。
 皆はテントを片付け、アルカと二人で朝食の後片付けをした後、出発する。

 道中、アルカに陣を教えたり、インベントリ内の確認をする。
 アルカのインベントリの使い方はまだ完璧ではないらしい。何故ならば、インベントリのリストに良く分からない名前が並んでいるからだ。
 そこには“りょうりのせるの”だったり“すわるとらく”等、名前が全てアルカの主観になっている。それらを出してみると、皿と椅子だったりする。

 それらを修正していると、オークの集落らしき場所を発見したので、メナスとダフスが偵察に出てくれた。

「ダフス、どうだった?」
「うーん、相手は見える分を数えたら四十匹程だった。リーダーはジェネラル。取り巻きにアーチャーが四、ウォリアーが六、チーフが四、残りはコモンオークだ。戦力的に厳しいな」
「何匹くらいだったら、厳しくないんだ?」
「そうだな……俺達の戦力とアルカの戦力込みだと二十匹ちょっと、じゃないか?」

 まぁ、十六匹相手で冷静に防衛戦を行うくらいだから、そのくらいか……。

「アルカ。どのくらい倒せそう?」
「んぅー……ぜんぶ?」
「はははっ、強気だな。陣足りるか?」
「たりない」
「じゃあ、駄目じゃん! 今、陣って何枚ある?」
「ん」
「にのしの……全部で十六枚か。何とかなりそうだな」
「ん。やる」

 炎風の盾はこちらを不思議な目で眺めているが、気にしない。アルカは、美味しいご飯の為に殺る気を出しているので、何とかしてあげたい。ここで、アルカから魔力を貰って正面の空間を一気に断裂させれば、その一撃だけで片が付くところではあるが、それだとアルカの前の主人と同類のようで自分が許せなくなるだろうから、危険が迫る以外では、アルカに任せて俺はアルカの足に専念しよう。
 どうせ、俺のレベルは上がらないし……。

「作戦がある。聞いてくれるか?」
「なんだ? 別に危険を冒してまで、殲滅しないといけないって事はないんだぞ?」
「それはそうなんだが、ウチのお姫様が殺る気なんでな……。別にダフス達は、見ているだけでも良いよ。とりあえず、話すから、参加するなら参加してくれ」
「……分かった。それで、作戦って?」
「俺達が、集落の北側で騒ぎを起こす。というか、あっちから順に始末していく。当然、北側に寄ってくるだろうから、暫くして西、もしくは南側から挟撃してくれ」
「……大丈夫なのか?」
「分からん。でも、危なくなったら逃げるし、何とかなると思う。だから、そっち四人は森の調査もあるだろうし、見ているだけでもいいし、ここでお別れでも良い」
「おいおい、ここまで来てお別れはねーぜ?」
「アルカちゃんを危険な目に合わせるくらいなら!」

 カールとルーナはやる気のようだが、ダフスはリーダーなだけあって、あまり乗り気ではないらしい。危険だしな、当然だろう。そこでメナスがこちらを見据えて口を開く。

「逃げる手段はあるのか?」
「ある。だから俺達の事は気にしないでくれ。危なくなったら逃げてくれ」
「……じゃ、私達も危なくなったら逃げる。ダフス、いいよね?」
「はぁ……分かったよ。よし、撤退の合図はルーナ、お前に任せる」
「むぅ……分かりました。いつも通り、魔力が三分の一を切ったら、ですね?」
「おう、頼むぜ? お前さん達も俺達が逃げたら、逃げろよ?」
「分かった。アルカも皆が逃げたら俺達も逃げるって事で良いか?」
「ん」
「じゃあ、作戦開始だ。行ってくる!」
「了解」

 アルカを肩から下ろし、正面に抱く形で草木に隠れて移動する。
 その間、陣を節約兼、一撃で数匹を討伐出来るよう集めるため、俺が相手を引き付け、合図したらその方向に魔法を発動する、という作戦をアルカに説明しておく。

「よし、それじゃあ、行くぞ?」
「んっ!」

 アルカを肩に乗せ、武器である棒を手に集落へと足を踏み入れる。

「うぉぉぉぉ! 掛かって来いやぁぁぁ!」

――ブォ!?
――ブォアァァァァ!

 こちらに気が付いたオークが一斉に雄叫びを上げ、棍棒を片手に走ってくる。
 その様子を見ながら、魔法が当たり易い一直線になるよう、走って逃げる。

「よし、そこ!」
「ん! えあはんまー!」
「もういっちょ、そっち」
「ん! えあかった!」

――ッパァドドド!
――ズッバボボボボッ!

 エアーハンマーが四匹の腹を貫通し、エアーカッターが五匹を上下に分断する。

「アルカ、あいつ!」
「ん! えあーはんま!」

 次々に指差し魔法を放つ方向を指定する。

「あいつも!」
「ん! えあはんま!」

――ダァンッ!
――ッパァン!

 迫ってきているオークとは別に、弓を持っているオークを優先的に始末する。
 矢がアルカを狙うと危険なので、肩から下ろし、正面を向けて抱きかかえ、走る。

「よし、あそこだ!」
「ん! えあーかったー!」

――ズッバッ、バボッ、ババッ!

 更に四匹のオークを始末し、これで十五匹。そこでダフス達も戦闘に参加したらしく、少し離れたところで、数匹倒しているのを確認。
 走り回って、斧持ちや剣持ちオークを数匹倒して方向転換。落ちているドロップ品を回収しつつ走ってきた道を引き返す。
 そこから、集落の中心部に向けて走り、残ったオークを処理していると、逃げ出そうとしているオークを発見。他とは違う大きなオークで、鎧を着ている。恐らくはあの個体がここのボスで、オークジェネラルという奴だろう。

「アルカ、あいつがボスみたいだ。狙えるか?」
「やる! えあかたー!」

 アルカの詠唱したエアーカッターで仕留められるかと思ったが、距離があったせいか、手前に居たオークを切り裂いただけで、ジェネラルには届かなかった。
 次弾を打つべく走って移動しようとしたところで、転んでしまう。

「いいっ、いってぇええええ!」
「りゅーと!」

 良く見ると足に矢が刺さっていた。
 オークジェネラルを見つめていた視界外から、アーチャーに撃たれたらしい。

「いっつつ! くそっ! アルカ、あいつだ!」
「りゅーと! あし!」

 咄嗟に向きを変えて転んだので、抱き締めていたアルカには傷一つ無い。
 良かった……。

「くっ、い、いい、俺は良いから! あいつを殺れ!」
「りゅっ……ん、えあはんまっ!」

――パァァンッ!

「いってて……良くやった。偉いぞアルカ!」
「りゅーと! あし! あし!」

 アルカが腕から這い出し、刺さっている矢をどうしたものか、アワアワしていたので、頭を撫でて落ち着かせた後、インベントリからポーションを取り出し、足に刺さっている矢を抜きつつ、傷口にポーションを流す。

「いっつつ……大丈夫だって。心配すんな。ほら、治ったから、な?」
「ほんと? りゅーと、あしいたくない? だいじょぶ?」
「大丈夫、大丈夫。見てみろ、治っただろう?」
「ん……」
「ふぅ。よっと……逃がしちまったな、あの野郎……」

 傷に問題が無い事をアピールするため、アルカを再度肩に乗せ、立ち上がる。
 雑貨屋に感謝だな。街に帰ったら、いくつかポーションを買おう……。

 そこから、陣を使い切るまで残党を討伐し、ダフス達と合流する。

「皆無事みたいだな。良かった」
「お前さんは脚に傷があるみたいだが、大丈夫……なのか?」
「あぁ、これはポーションで回復した後だから、もう大丈夫だ。それよりも、すまない。ジェネラルを逃してしまった……」
「そうか。こちらも数匹逃してしまった。だが、この集落を燃やし尽せば、あの程度なら問題は無いだろう。しかし、ジェネラルは仕留めたかったな……」
「南の方に逃げたから、森の調査がてら追うか?」
「そうだな。それよりもまず、ここを燃やそう。ルーナ、頼む」
「はーい」

 炎風の盾は、カールとメナスの防具類に小さな掠り傷がいくつかある程度で、ダフスとルーナは無傷だった。負傷したのは俺だけか……レベル1だもの、仕方がないよね?

 それよりも、遠距離の攻撃には注意が必要だな。今回は俺の足だったから良かったが、あれがアルカだったとしたら恐ろしい。的が小さいとはいえ、とても危険だ。
 防具を固めると重くて移動に差し支えるし、そもそも金属鎧なんて着た事が無い。
 アルカには防御系の魔法も習得してもらおうか?

 攻撃魔法や珍しい魔法にしか興味が無いようだけど、こればかりは仕方がない。まずは身を守る魔法だな。アルカ任せというのは情けないけれど、これもアルカの為。我慢して覚えてもらおう。

 ルーナがオークの建てた小屋を燃やし尽してくれている間、ドロップ品に取りこぼしが無いかを確認して回り、南に向けて再出発する。
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